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第176話 ハラスと戦いました

「‥それにしてもウヒルさん、いたんですね」


長城に結界を張ってしまった私は、敵の激しい攻撃による幾度もの喚声や轟音に晒されながら、ウヒルと雑談します。ウヒルは「君の結界はすごいな」と少々呆れている様子でした。


「‥ああ、ベリアとの戦いのときからいた」

「そんなに前からいたんですか!?」

「まあ、前陣の副将として働いていたからな、君と会う機会はなかった」


ウヒルはそう言って、「それでは他に仕事がある」と言って城壁から下りるための階段へ向かいます。

その時に私とすれ違ったのですが、すれ違いざまにウヒルはこうも言ってきます。


「君はまだ隙が多い。ハラスと戦う時は気をつけろ」

「う‥うん」


私はうなずきます。

私って隙が多いのでしょうか。決闘大会の時にハギスにも言われていたような気がします。そこがちょっと飲み込めない感じがしました。


◆ ◆ ◆


その日の夜。敵兵に放ったスパイから、ハラスはベルファヴェスの作戦失敗と捕縛を知ります。


「テスペルクの背後を取り、首を切断までして、どこに負ける要素があったのだ?」


ハラスはライオンのような姿になっていて、その目を、目玉が飛び出そうなくらい大きく見開いて聞き返します。斥候は少しびくつきながらも、報告を続けます。


「それが‥奴には過去に干渉する能力があったようで、未来の奴が魔法を使うことで過去の奴が助けられるという‥‥」

「どういうことだ、よくわからん、詳しく聞かせろ」


斥候はハラスからの詰問のような質問に次々と答えていきます。


「‥‥し、信じられん、わしはウィスタリア王国がおこってから長年お仕えしていたが、そのようなデタラメな魔法は初めて聞いた‥‥だとするとテスペルクという女は非常に厄介だな。生かしておくと魔王よりも危険な存在になりかねん。かといって、対処できるのはもはやこのわししかいないだろう」

「そ、そうなると‥‥」

「うむ。明日、テスペルクに一騎打ちを申し込む」


その神獣は威厳のある、きりっとしまった目で、決心したように言います。

近くにいる家臣が止めます。


「そんな、ハラス様は総大将でございます。万が一にもアリサに負けて捕まるようなことがあれば、この西伐は失敗したようなものでございます」

「もともとわしは魔王と戦う予定だったのだ。60万の兵がいて魔王に対抗できるのはわししかいないからだ。魔王と戦わずして、あのテスペルクという女1人でどうこう言っても始まるまい。すでにテスペルクに結界を張られ、城壁攻撃を事実上無効化されている。脅威は取り除くものなのだ。もちろん無理だと思えば引き返す。わしも無謀なことはせぬ」


◆ ◆ ◆


翌朝。そろそろ敵が攻めてくる時間です。城壁の屋上の廊下に並んでいる兵士たちはクロスボウを構え、銃眼にいる魔術師たちは杖を構え、近づいてくる敵を待っていました。

と、敵の中から一匹の、ライオンのような生物が現れて、一匹単身、こちらへ歩み寄ってきます。ハラスです。


「わしはウィスタリア王国のハラスである。本日は貴軍のアリサ・ハン・テスペルクに一騎打ちを申し込む!」


拡声魔法で、兵士たちにまんべんなく聞こえるような大きさの声で言ってきます。

側防塔の会議室でマシュー将軍はソフィーに尋ねます。


「どうする?」

「‥戦闘に慣れないアリサさんを使うことにはリスクも伴いますが、敵の総大将を倒せれば兵士数の不利を覆せ、一気に片が付きます。ハイリスクハイリターンです」

「わかった。おい、アリサを呼べ」


こうして、城門近くの広場で重傷者の看病をしていた私が呼び出されます。看病といっても私の魔法でどんな重い傷でも治癒できてしまうので、身体や精神に後遺症が残っていないか確かめるくらいでしたけど。

会議室まで呼び出されてマシュー将軍から一騎打ちを言い渡された私は、緊張しました。ハラスは強いと聞かされていたのですが、まさか今すぐ直接対決することになるなんて。今すぐはちょっと心の準備が追いつきそうにありませんが、これもハールメント王国に忠誠を尽くす家臣として、そしてヴァルギスを愛する人としての勤めです。


「受けます」


開く城門を、馬に乗った私がくぐります。私は魔王ヴァルギスと比肩できるほどの膨大な魔力を持っており貴重なので、無理はせずいざとなれば恥を忍んででも戻ってこいとマシュー将軍には固く言い含められています。でも、おそらく敵のハラスも総大将ですから、もしかしたら逃げるかも知れません。

私は馬の手綱を操り、ハラスのすぐ近くまで移動します。目の前には、あのハラスがいます。ライオンのような姿をした金色の体をしていて、全身にかすかに神々しい光をまとっています。これが神獣というものでしょうか。

総大将と、魔王と比肩する能力を持った私の対戦とあって、敵味方も我を忘れて、2人に熱い視線を集めます。


「私はアリサ・ハン・テスペルクです。一騎打ちの挑戦を受け、参りました」

「わしはハラスである。お前の相手をする」

「ハラスさん。戦う前にひとつ聞いておきたいことがあります」


私が亡命の旅をしていた頃、ユハの町で、ハラスという人物について聞いたことがあります。

その時の人物像が、今ウィスタリア王国を背負って先頭に出ている今のハラスと矛盾しているような気がしたのです。


「あなたは悪を大いに嫌う、仁・義・忠を貫くお方だと、ユハの町にいるあなたの弟子から聞いたことがあります。なぜそんなあなたが残虐無道なおこないをしているクァッチ3世治めるウィスタリア王国をかばい、仁政を施しているハールメント王国を攻めるのでしょうか?」

「わしも王のことは憂慮している。だが今、お前たちハールメント王国は我が国を滅ぼしかねない一番の脅威なのだ。まずはこの国を片付けてから王都に戻り、王のおこないを正す。それがわしに課せられた義務である」

「あなたはウィスタリア王国を平常に戻せる自信があるのですか?」

「ないとは言わない。なぜならわしはウィスタリア王国の始祖と契約した神獣だからだ。1000年以上王国に仕え、王国の盛衰を見てきた。ウィスタリア王国は栄えては衰えを繰り返した。今はかつてないほど衰えている状態だが、ウィスタリア王国はきっとまた立ち直る。わしに不可能などない。お前もよければわしの国の立て直しを手伝うか?」


確かにウィスタリア王国には私の故郷があり、ナトリ・ラジカ以外の私の友達も大勢います。ニナとも会わなくなって久しく、ニナのことも心配になってきます。ですが。


「私は両親を殺され、そして姉や親友とともに、ここハールメント王国で魔王様と良好な関係を築けています。もはやウィスタリア王国に未練はありません。ここであなたを倒し、魔王様の勝利のために捧げます」

「その心意気やよし。わしもお前を倒し、ハールメント王国平定の足がかりとさせてもらう。では参る!」


そう言ったかと思うと、ハラスは音速の光の槍を次々と繰り出し、私へ突き刺してきます。あらかじめ結界を張っていたので私はびくともしません。

敵の総大将が逃げないように、一気に決めさせてもらいましょう。私は呪文の詠唱を始めます。地面に魔法陣が浮き出て、風が起こります。空中に大きな赤白い玉が3つ出てきて、それがどんどん大きく膨らみ、そして私の詠唱の終わりと同時に一気にビームのようなものを出してハラスへ向かって伸びていきます。


「ふん!」


ハラスも結界を張って、それを反射します。‥‥ん、反射した?

反射した魔法が、私向かって襲いかかってきます。


「え、ええっ!?」


ハラスは私より魔力が低いのでハラスの攻撃は防ぐことができるのですが、今回は私自身の攻撃です。それを私の結界で受けろというのでしょうか?私は慌てて結界を強化しようとしますが時すでに遅く、3本のビームは結界を貫通します。2本は私をそれて左右の地面をえぐりますが、残る1本が私の脇腹をかすります。

激痛とともに踊るような血しぶきが吹き出して、生暖かい液体が私の頬にぺちゃっとくっつく感覚がします。


「な‥っ」


私の口から、一滴の血が滴り落ちます。

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