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第16話 魔王と一緒に授業を受けました

まおーちゃんは生徒ではないので、私の隣で、ひじをついて授業を聞いています。さっきの小テストの時も、私が答案を書いているところを黙って横からちらちらっと見ましたが、テストを提出した後に「魔法以外はダメだな」と言ってきました。つらいですが、私は魔法が大好きなので仕方ありません。


「おい、寝るな」


私がちょっとでも眠気を感じると、私の体を肘でつついて起こしてきます。ありがたいけど、正直、つまらない話を聞くとねむくなります。

教師も、魔王の様子をうかがいながら授業しているようで、何度も私とまおーちゃんの方をちらちらと見ていることから、それが伝わりました。まおーちゃんもそれには気付いていたらしく、授業中は何も言いませんでしたが、休み時間になると。


「おい、貴様。ナトリといったな」

「何だ?テスペルクの使い魔。このナトリに何か用か?」

「貴様のさっき黒板に描いた魔法陣には重大な脆弱性がある。確かにあの防御魔法は火には強いが、風をまじえた炎には無力だ」

「あれは教科書に描いてあった通りの魔法陣だぞ。教科書が間違っているというのか!?」

「そううろたえるではない。これから描いてやろう。紙をよこせ」


まおーちゃんはなんやかんや、ナトリとも話している様子です。


「む〜〜〜っ‥‥」

「どうしたの、アリサ」


頬を膨らませている私に、ニナが尋ねます。


「まおーちゃんがナトリと親しげに話している‥‥」

「えっ‥それは、独占欲強すぎるんじゃないかな?魔王も色々な人と話したいと思うよ?」


そうニナがとりつくろったのを聞いたまおーちゃんが、ニナの方を向いて一言。


「ニナといったか?後で貴様にも構ってやるからな」

「ひ、ひぃ、そ、それは、ちょっと遠慮したいなーって‥‥」


ニナは私の後ろにこそこそ隠れます。


「ふふ。お、魔法陣はここに描けばいいんだな?ペンを貸せ」


その2人の様子を見ているのは、私たちだけではありません。教室にいる人の殆どが、そこに視線を集めていました。


「‥‥なあ?魔王って意外と怖くないんじゃ?」

「バカ、魔王ってあの魔王だろ?油断させておいて、後で俺らに何をするか‥」

「そうだぞ、少しでも怒らせたら、後で殺されかねない‥‥」


そんなことが話されている一方、ラジカは少し離れた席から、ものすごい剣幕でまおーちゃんを睨んでいます。どうしたのでしょう。でも次の授業まですぐですし、席の離れているラジカに話しかける時間はありません。後で聞いてみましょう。


「‥‥というわけで、この魔法陣が正しい」

「う、うむ‥‥テスペルクの使い魔ごときには教えられたくなかったが、今回ばかりは負けを認めざるを得まい」

「妾は別に勝負しとらんが」


ナトリが納得したところで、次の授業が始まりました。

次の授業は歴史でした。思いっきり魔法関係ないので私はぐっすり寝るつもりでしたが、少しでも目をつむるたびに横から電気がとんできます。


「常人なら致死量の電圧だぞ、貴様がどこまで耐えられるか楽しみだ」

「わ、私で遊ばないで‥‥」

「‥‥む?」


その日の授業は、ほんの数年前に起きたという内容でした。

教師はできるだけ私やまおーちゃんを見ないように、視線を伏せながら話していました。


「‥‥して、魔王ヴァルギスは、我らがウィスタリア王国によるもてなしを全て拒否したのみならず、国境近くの都市に攻め込み制圧しました。それに怒ったウィスタリア王国のクァッチ3世は軍を差し向け、その都市を奪還しましたが、建物という建物はすべて粉々に壊され、更地当然となっていました。民は一人残らず殺されるか魔族の奴隷となったとみられます。この魔族による蛮行がきっかけでウィスタリア王国は魔王ヴァルギスを指名手配し、‥‥」


まおーちゃんは、体を震わせながら、歯ぎしりしながら、それでも手をぎゅっと握って黙っていました。


「教科書に載っている写真は、その国境近くの都市で見つかった人間の死体です。かなり損傷程度がひどく、魔族によって虐殺されたともいわれています。クァッチ3世は人権を蹂躙した行いを今すぐやめるよう魔王ヴァルギスに書簡を送りましたが、それも魔王ヴァルギスによる第二次親征のときに無視され、王国が再び奪還した都市から見つかった死体は‥‥」

「まおーちゃん、大丈夫?」


まおーちゃんは体を震わせて、うつむいたまま答えません。

私は手を挙げます。


「‥‥先生、ごめんなさい。まおーちゃんが気分悪いようなので、保健室に連れていきます」

「‥‥それがよろしいでしょう」


先生の許可を得たので、私は席から飛び立ってまおーちゃんに浮遊の魔法をかけ、自分にふわりと近づいてきたまおーちゃんを抱きしめます。


「大丈夫、大丈夫だからね」


いつもは「抱きつくな」と怒鳴ってくるところでしょうが、まおーちゃんは、珍しく私に抱きついてきます。ちょっと強くて痛いくらいでしたが、まおーちゃんの熱がこもって暖かい感じがしました。私たちはそのまま浮遊しながら廊下へ移動します。


「大丈夫、まおーちゃ‥ん?」


まおーちゃんは、目から涙をぼろぼろこぼしていました。

歯ぎしりをしていました。悲しい、怒っていると言うよりは、悔しそうな顔をしていました。

そんな表情のまま、まおーちゃんは私を睨むように見ます。

少しの間の静寂がありました。


「‥‥貴様、妾に失望したか?」

「えっ?」

「えっ、ではない。妾は貴様の国の国民にひどいことをしたと教科書に書いておる。貴様も妾に失望したと言ってくれ。それで妾の気は楽になる」

「‥‥」

「これ以上妾に構っていても、貴様の立場が悪くなるだけだろう?むしろここにいるすべての人間から嫌われたほうが、妾も後腐れがなくてよい」


その声は、全てを諦め、投げ捨てた孤独の者を彷彿とさせるものでした。


「まおーちゃん、私のこと好きなんだね」

「‥‥えっ?」


想定外の言葉に、まおーちゃんは目をぱちくりさせます。


「まおーちゃんは、私のことが好きで、私との関係を大切にしたかったんでしょ?だから、私に突き放されたほうが気が楽って言った」

「‥‥‥‥」

「昔は昔、今は今だよ。昔のまおーちゃんにも何か事情があったかもしれない。私はまおーちゃんのこと、恋愛的な意味で好きなの。だから、まおーちゃんの気持ち、まおーちゃんのこと、理解したいの」


まおーちゃんの目から流れる涙が、ぴたりと止みました。


「まおーちゃんには守りたいものがあったの。その1つが私だったら、嬉しいな」

「‥‥‥‥貴様も調子に乗るでない。妾は貴様のことなど特になんとも思っとらんし、それに、妾の過去を理解しようとするな。火傷するぞ」


言葉の所々から寂しさを感じるものの、態度はいつも通りのまおーちゃんに戻っていました。


「‥うん。じゃあ、授業が終わるまで、保健室で休もうね」

「‥ああ、そうさせてもらおう」

ストックがかなりたまっているため、明日・あさっては休日ですが投稿します。

また、明日より第1章と並行して第2章を別の小説として連載開始予定です。

(第2章は18禁です。第3章からはまたR15に戻って投稿を続けます)

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