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第170話 魔王と一緒にいました

今日から更新再開します。

そのあとも、私はヴァルギスといくらか話をします。戦争の様子や、敵の兵士たちの治療をしてあげたこと。


「人を3人殺した感想は?」


ヴァルギスが私から目をそらして酒を飲みながら尋ねるので、私はふーっと鼻から息を出して、心拍数が下がったのを確認してから返事します。


「つらかった」

「オペリアに関しては首だけでなく胴体やハープも持って帰ったそうだな」

「うん。音楽って楽しむためにあるものだよね、それを使って戦わなければいけないなんて、悲しいと思った」

「そうか」


ヴァルギスは酒を半分飲んで、グラスを静かにテーブルに置きます。


「貴様もつらかっただろう。人殺しのために何日も部屋に閉じこもっていた。妾は貴様が昼夜泣いていたことを知っているぞ」

「‥‥‥‥」


私はそのことを思い出すと今すぐにでもヴァルギスに抱きつきたい気持ちになりましたが、周りに人がいるので自制します。


「人を殺したときの気持ちを忘れるな。人殺しで感覚が麻痺してしまうと貴様は貴様でなくなる。妾は平和と、貴様が好きだ」


ヴァルギスは、セリフの最後の方は小さい声で言ってきます。

私は唇を噛んで何度かうなずきます。


「私はまおーちゃんに戦争を勧めたけど、今はもう後悔していないよ。私は戦争が嫌いだけど、平和のために一生懸命働いてくれているまおーちゃんが好き」


ヴァルギスは自分の酒をすべて飲んだ後、グラスに水を少し注ぎます。そうして、水の入ったボトルをテーブルに置くと、私に言います。


「魔族語、うまくなったな」

「えっ‥‥あっ」


自分がさっきからずっと魔族語で話していることに気づきました。なんででしょう、1ヶ月もあの部屋に閉じこもっていたのに‥‥。


「魔族語を覚えるには、魔族語を話している人に囲まれるのが一番だな。今回戦争に出たことで、貴様はその経験を得たのだな」


ヴァルギスは水を飲みながら、うんうんとうなずきます。そして、グラスをごとんとテーブルに置きます。さっき酒を飲んでいた時は静かに置いていたのに、それとは全然違う置き方です。


「貴様」

「うん、どーしたの?」

「明日から大広間に来い」

「えっ‥‥えええっ!?私、魔族語まだ自信ないよ!?」

「そこはこれから覚えればよい。明日から大広間で魔族語にもまれろ。よいな?」

「う‥うん、分かったよ」


私はしぶしぶうなずきます。


◆ ◆ ◆


数日後。ウィスタリア王国の旧クロウ国王城の大広間の玉座に座っていたハラスは、部下からの報告を聞いて声をあらけます。


「なに、マーブル家が負けた!?」

「はい、大将4人は殺され、降伏する兵士も多いと聞きます」

「むむむ‥‥敵はそこまで強かったということか」


ハラスは舌を噛みます。そしてすぐに深呼吸します。


「‥‥まあよい。ちょうどわしらも反乱の鎮圧が終わったところだ。そうだろう?」


ダガール、ペヌで発生した反乱は、大方鎮圧し終わったのです。ただしハラスは、クァッチ3世の命令は厳しすぎるとしたうえで25万人の兵士についてはそのまま殺さず、処分の軽減を求めて王都カ・バサに早馬を出しています。

ハラスの家臣たちは、みなうなずきます。


「準備は整った。今回はわし自ら、60万の兵をもって攻めよう」


ハラスが言うのを、家臣の1人が止めます。


「少し待ちましょう。私たちはまだ反乱の鎮圧が終わったばかりで、兵たちは疲れています。2週間くらい休ませましょう。その間に、ハールメント王国の王都ウェンギスに斥候を送るのです。それで敵の情報も分かってくるでしょう」

「うむ、そうしろ」


ハラスはうなずきます。

こうしてハラスと60万人の兵士たちは、2週間後に進軍を開始することになりました。


◆ ◆ ◆


その頃、私は王都ウェンギスの北のほうにある長城を補強していました。

今まではハノヒス国に近い東の方を担当していたのですが、前のマーブル家との戦いにおいて、私が担当していない部分に敵兵が回り込んできたら、ウィルソンの攻撃によって城壁は壊されていただろうという話があったらしいのです。それで、ソフィーから「地形を考えても北の城壁が、最も狙われる可能性が高いと思います。南の方向はすでに紛争が起きているので、その裏側にある北が最も補強されていないと読まれるでしょう」と言われたので、魔法陣を展開して懸命に補強していきます。

一日中全力で魔法を使うのはやっぱり疲れます。私は、はぁはぁと荒い息をついて、長城の屋上の廊下の低い壁にもたれて一休みします。今日だけでどれくらいの長さを補強したのでしょうか。でも国防がかかっていますから、こんなところで負けるわけにはいきません。


「手伝おうか?」


廊下を歩いてくる足音が近づきます。


「あっ、あ、ヴァルギス!?」

「うむ」


ヴァルギスは微笑んできます。それで私は肩の力が抜けます。


「‥‥じゃない、ヴァルギス、今日の仕事はどーしたの?」

「今日の妾は休日だ」

「あっ」


そういえば、私はソフィーにお願いされて、休日返上で作業しているのでした。


「いいよ、ヴァルギスも戦争中はずっと働き詰めていたし、たまの休日くらいゆっくりしても‥‥」


私がそう言いかけますが、地べたに座っている私の前に立ったヴァルギスは首を振ります。


「妾はアリサと一緒にいたい」

「ヴァルギス‥分かったよ」


私はにこっと返事して、立ち上がります。


「それじゃ、私はここを補強するからヴァルギスは少し離れたところをお願い。私とヴァルギス、交互で補強しよう、そしたらずっと近くにいられるよ」

「分かった」


私は城壁を魔法で補強する作業を続けます。ヴァルギスもすぐ近くで、城壁に魔法をかけてくれています。

私は都度、横をちらちら見てしまいます。なんだかヴァルギスが近くにいてくれるだけで、元気が出て、心が満たされて、ずっと一緒にいたいと思えてくるのです。大きな魔法を何度も繰り返し使うのは疲れるけど、なぜかもっと使い続けていたいと思えてくるのです。


「すごいね、城壁硬くなったよ」

「妾を誰だと思っておる」

「ヴァルギスだよ」


私はそっと、ヴァルギスの手を握ります。

‥あれ?手首の方に変な感触がします。触ってみれば、ヴァルギスの手首に、私がプレゼントしたあのブレスレットがついています。えへへ、つけてくれてるの嬉しいな。

ヴァルギスは私の手がブレスレットに触れているのに気付いたのか、それとも私の手首にもブレスレットがついているのに気付いたのか、ばっと手を引っ込めます。頬を赤らめて私から顔をそらします。


「‥‥急ぐぞ。敵は待ってくれない」

「分かったよ」


私たちはそのあと、日が暮れるまで2人で城壁の補強を繰り返していました。


◆ ◆ ◆


私はその日の夜、ヴァルギスの部屋をノックします。

1ヶ月ぶりの魔族語の勉強です。前回、もう1ヶ月以上前でしょうか、ヴァルギスとのデートで書店に行って、中高生用のまあまあ難しい本を買ってきましたので、今夜はそれを持っています。

私は部屋に入るとふわりと浮き上がって、ヴァルギスの机の前へ移動します。ヴァルギスも私を待ち構えていた様子で、すっかり頬を緩ませて言ってきます。


「今日はご苦労だった」

「うん、ヴァルギスこそお疲れだよ」


そう言って、私はいつものように、ヴァルギスの横へ回ります。

久しぶりにかく、真近のヴァルギスの匂いです。

今日一日中外で働いていたので、さすがに汗が気になるのでしょうか、私もヴァルギスもシャワーを浴びていました。その後のヴァルギスの匂いには、高級感溢れるシャンプーの香水のような香りがしんわり伝わってきます。


「どうした、アリサ」


ヴァルギスがむず痒そうな顔をして、私に言ってきます。


「ううん、何でもない。‥そうだ、ヴァルギス、誕生日いつだっけ?」


私は何気なく聞いてみましたが、そのヴァルギスからもたらされた答えは意外なもので。


「明日だ」

「え、え、えええええっ!?」

「というのは冗談でな」

「もー!驚かせないでよ!ぷー!」


ヴァルギスは上品に、ふふっと笑います。

その日も私は、ヴァルギスに教えてもらいながら、魔族語の勉強を進めていました。

私も大広間でヴァルギスと一緒に働くようになりましたが、言語学校に行く時間がなくなってしまったので、こうしてヴァルギスと一緒にいられる時間も勉強時間として貴重になってきます。ナトリも教えてくれるけど。音読を見てもらったり、訳文を見てもらったりして、真面目に勉強します。

こんな平和な日がもっと続けばいいのにな。

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