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第168話 祝勝会に出ました

その日の夜、魔王城に戻った私はメイとゆっくり話したいと思いましたが、ナトリやラジカに「テスペルク、来い」「魔王もいるよ」などと引っ張られてあれよあれよといううちに、闘技場まで連れてこられました。

闘技場のグラウンドには、バーベキュー用のグリルや、テーブルや椅子などがたくさん置かれて、将軍や貴族たちがたくさん集まっていました。

私はグラウンドに撞くとすぐにマシュー将軍から「やっと来たか、こっちに来い」と引っ張られます。


「あう、何ですかこれは?」

「何って、戦勝を祝うパーティーだ。お前、ベリアに勝った時は来ていなかっただろう」


そういえばそうでした。私、ベリアの軍勢に勝った後は、ベリアが自害したことが悲しくて休んでいました。実質、これが初めての参加です。

マシュー将軍はさらに続けます。


「本来は昼にやる予定だったが、お前1人のためだけに夜にずらしたんだぞ」

「えっ、ええっ!?私ですか!?」

「うむ。今回の戦争の主役はお前だからだ」

「で、でも‥」


私は人を殺したから、と言いかけましたが、私の隣を歩いているラジカがこそっと言ってきます。


「こら、空気壊さない」

「う、うん、分かったよ」


確かにみんなはお祝い気分ですしね。空気を壊すようなことはしないよう気をつけましょう。


私とマシュー将軍は、グラウンドの真ん中近くに設けられた高台の階段を登ります。3メートルくらいの高さがあって、周りに集まっている人たちを一望できます。当たり前ですがこの国って、こんなにいっぱいの将軍がいたんですね。私、この人達を差し置いて活躍してしまったんですね。思わず息を呑みます。

マシュー将軍が大きな声で言います。


「我々はマーブル家との戦争に苦しみながらも勝利することができた!これも魔王様の威厳があったからである!魔王様のために身を粉にして働いてくれた全員に感謝する。そしてここにいるのは、この戦争の立役者、アリサ・ハン・テスペルクだ!」


マシュー将軍から肩に手を置かれた私は恥ずかしくて、顔を赤くして身を丸めていました。


「おいお前、何かコメントしてくれ」


マシュー将軍から促されます。私は大声が言えるような気分ではなかったので、自分の口の近くに拡声魔法を作った上で、小さくて、それでも精一杯な声で話し始めます。


「私は‥私ははじめは体調を崩していて、戦争に参加することができませんでした。私がこうして活躍できたのは、みなさんが国のために王都ウェンギスを一生懸命守り、持ちこたえてくれたおかげです。あっ、ありがとうございます!」


恥ずかしくてあまりいい挨拶はできませんでしたが、それでもみんなが歓声で迎えてくれます。

私とマシュー将軍が台から下りて、すれ違うようにヴァルギスが私に「ご苦労」と言って台に上がります。

ヴァルギスが出てきたときのグラウンドの盛り上がりようは異常で、「魔王様、万歳!」「魔王様、万歳!」「魔王様、万歳!」の声が聞こえてきます。それだけヴァルギスはみんなから慕われているということでしょうか。


「ますは貴様ら、先のベリア戦に続き、ご苦労であった。今回は多数の犠牲者を出した。ベリアの時にここに来たが、今日ここに来れなかった者も多くいる。そんな者ともに向けて祝杯を上げてくれないか?平和とは誰かの犠牲の上に成り立つものである。今日こうして妾たちが生きておれるのは、誰かが犠牲となって戦ってくれたおかげだ。大声を出して今のこの時を精一杯楽しめ。幸せを噛み締めろ。妾たちのために犠牲になった者ともを気持ちよく天に送り出すまでが、妾たちの仕事である。乾杯!」


どこか含みのある言葉ですが、ヴァルギスにもヴァルギスなりに、戦争に対して思うところがあるのでしょうか。

みんな、私と同じように戦争に対して様々な思いを持っていて、その上で戦っているのでしょうか?

そういう疑問が頭をよぎりましたが、私は周りの歓声とともに、乾杯のグラスを高く掲げます。近くにいた将軍たちに次々と乾杯します。

他の将軍に引っかかってトンガリ帽子が頭を離れてしまったので、なくさないようにその場でアイテムボックスに入れておきます。


せっかくのパーティー、ナトリやラジカと一緒に楽しむのもいいですが、この機会ですから他の将軍にも話しかけてみましょう。

そう思って私は近くの将軍に話しかけてみます。


「こんばんは、何をお食べになっていますか?」

「こんばんは、これはイカだよ、あそこで焼いてる」

「ありがとうございます!ええと、好きな食べ物ってありますか?」

「俺は豚肉が好きだな」


ここから話を広げましょう。と思ったのですが。


「おい、おい」


近くにいる別の人が、将軍に耳打ちします。将軍はそれを聞き終わってから私のなりを見て目を丸くします。


「あなたがあのアリサ将軍ですか?」

「は、はい、そうですけど」

「ぜ、ぜひ握手を!」

「はい、どうぞ?」


私の小さな手を将軍は両手で大切に握りしめながら、「あの活躍はすごかったです!私の部隊の兵士たちはみな尊敬していましたよ!」とかなんやら美辞麗句を並べます。


「あ、ありがとうございます、それで‥」

「ああ、アリサ将軍とお話できるとは畏れ多いです!何か御用でしょうか?」


それで私はなんだか話しづらいと感じたので、「いえ、少しこの土地の食べ物の話ができれば」と言ったのですが、相手は「そうでございますか!まずこの地ではレタスと大豆が有名です!以前は鹿の肉を食べる文化があったのですが今では‥‥」などとやたら説明口調になって張り切りながら話し出します。

気持ちはとてもありがたいのですが、一方的に話を続けられるので私はすっかり疲れてしまって「はは、ありがとうございます、ためになりました」など適当な言葉を並べて、そのまま別の将軍のところへ行ってみます。

しかしその将軍も、次の将軍も、あの将軍も、どの将軍も、私がアリサだということを知るやいなや人が変わったように美辞麗句を並べ、私の質問に対して必要以上に細かく返事したり。みんな緊張してテンパっている感じがしました。


そうこうしているうちに、私の周りには次々と将軍が集まってきます。


「あなたがあのアリサ将軍ですか!」

「思ったよりお若いですね!ぜひ握手を!」


次々と握手を求められたり、話しかけられたりして、私の周りはちょっとした騒ぎになってきます。


「こっち来な」


後ろからくいっと腕を引っ張られました。私はそのまま人混みをかき分けて、その人に引っ張られながら人の塊をなんとか抜けてきます。


「‥食べる?」


その人は、グリルで焼き上がったばかりのおいしそうな肉の乗った皿を私に差し出します。私はそれを受け取って、それから相手の顔をよく見ます。ルナでした。


「‥ルナ将軍!?あ、ありがとうございます‥」


私がぎこちなく頭を下げると、ルナはため息をつきます。


「あんた、今の状況分かってないの?」

「えっ?」

「いいこと?あんたは今、戦争で活躍しすぎてモテてるの。将来の昇進が約束されているから、魑魅魍魎が群がってくるのよ」


魑魅魍魎は言いすぎだと思うのですが‥‥どの将軍も私がアリサだと知るとすぐ態度を変えて、尊敬していると繰り返したり、なんだかせわしそうでした。

ルナは酒を少し口に含んで、説教します。


「そのぶん私とか知っている人と話したほうが気楽よ。特に私は女だから結婚したくてもできないでしょ。話し相手は選びなさい。あと男は、身分の高い人を選びなさい。あんたはいずれ昇進するんだから、身の丈に合った相手を選びなさい。そうしたほうが苦労も少ないわよ」

「は、はい、ありがとうございます」


実はその女のヴァルギスと絶賛交際中なのですが、黙っておきます。私はルナから渡された酒を少しずつ口に含みます。

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