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第164話 一騎打ちに出ました

話は戻って、側防塔の会議室で、私はマシュー将軍に直訴します。


「今、一騎打ちの話が出てましたよね。私、聞いてました。私1人に、あの3人の相手をさせてください」


マシュー将軍は驚いて、ソフィーと顔を見合わせます。ソフィーは無言でうなずいたので、マシュー将軍はため息をついて、私のところへ歩み寄ります。


「アリサ」

「はい」

「戦場で人を殺さないという幻想は‥‥」

「捨てています」


マシュー将軍の言葉を遮るように、私は即答します。マシュー将軍は目を丸くします。


「‥‥今、何て言った?」


私はマシュー将軍の目をしっかり見つめます。


「確かに私は人を殺すのは嫌だけど、それ以外に方法がないのなら、これ以上の犠牲者を出さないためにもためらいません。覚悟はできています」


はっきり透き通った声で、私はマシュー将軍に宣言します。

マシュー将軍は私から離れて腕を組んでしばらくうなった後、ため息をついて言います。


「‥‥今は味方の士気が下がるかどうかの瀬戸際だ。万が一お前の戦い方で味方の士気が下がるようなことがあれば、厳罰に処する」

「分かりました。そうなっても私は抵抗しません。甘んじて受けます」

「軍隊の処罰は厳しいぞ?」

「分かっています」


しばらく私から目をそらしていたマシュー将軍は、私の顔を見ます。

分別ができている、自分が何をすればいいか理解している、しっかりした目つきでした。


「‥‥覚悟はできているようだな。行け」

「はい」


私は頭を下げて、その会議室を後にします。


◆ ◆ ◆


私は馬に乗って、城門の前まで来ます。


「城門を開けてください」


そう兵士に命令すると、困った顔をして返事してきます。


「失礼ですが、あなたはどなたですか?」


私がどう見ても年端も行かない女の子で、か弱そうに見えるからなのでしょうか。

その気持ちは分かります。マシュー将軍から聞きましたが、敵は天候を操り、人の心を操り、そして巨人にもなれると聞きました。今までに両手で数え切れないほどの将軍が死んでいったと聞きました。相当苦戦していたのですね。

でも、私はにっこり笑って、帽子のつばを握ります。


「アリサ・ハン・テスペルク将軍です。マシュー将軍の命令を受け、一騎打ちに応じます」

「あ、アリサ将軍ですか!?まさか、あの魔王様と比肩すると指名手配されたあの‥‥」

「はい、そのアリサで合っています。敵の気が変わらないうちに、早く城門を開けてください」

「分かりました」


兵士は態度を分かりやすいほど変えて、すぐさま他の兵士たちに命令します。

私の名前、こんなところにも伝わっていたんですね。王都で私の名前を知らない人は、もしかしたらいないのかもしれません。

城壁がギギギと大きな音を出してゆっくり開けられ、隙間から光が差し込んできます。

私は馬を進めて、城門から出ます。向こうでは、敵兵が整列しています。はしごを持っている人も多く見えます。一定時間待ったらこのまま攻撃する手はずだったのでしょうか、そんなことをされるともっと多くの人が死ななければいけなくなるので、何とか一騎打ちで最小限に抑えたいところです。


私はさらに馬を進めます。ある程度城壁から離れたところで、私はすううっと大きく息を吸って、叫びます。


「私はハールメント王国の将軍アリサ・ハン・テスペルクです。ブラウンさん、オペリアさん、ウィルソンさん、あなたたち3人を私1人がまとめて相手します。出てきてください!」


その大声を聞いた味方から歓声が上がります。

兵士たちの中に隠れていたマーブル家の3兄弟が相談します。


「アリサと言ったか?」

「魔王と同等の力を持つと言って王国が指名手配していた奴だぞ」

「いいだろう。我々が魔王に勝てるか試すときではないか」

「アリサという奴に勝てないと魔王に勝てることはない。それに何より、逆に1対3の戦いを挑まれている。これに応じないと兵士の士気にも関わるだろう」


ブラウン、ウィルソンはトントン調子で話を進めますが、そこにオペリアが待ったをかけます。


「我々3人で魔王に勝てるとは思えない。あくまで兵力や国力を削ぐ持久戦に持ち込んだほうが得策ではないのか?」

「オペリア、弱気になってどうする?敵はあの1人だけだぞ?俺たちは今まで何人もの将軍を打ち負かしてきた。あの1人の誘いを断るようなら、赤っ恥というものだぞ!」

「無条件で一騎打ちを受けてしまったのは仕方ない。一太刀だけ交えてすぐ逃げるべきだ。そのあとは消耗戦で打ち負かそう」

「お前、それを弱気というものだ!そんなことではこれから先、戦場で生きていけんぞ?お前も出ろ、3人で戦うぞ!」


ウィルソンの一喝でオペリアは無理やり一緒に戦うことにさせられました。

3人は兵士たちの隙間をかき分けて抜けて、馬をアリサの前まで進め、止まります。オペリアは大きなハープを背中に負いながらの乗馬ですが、うまく乗りこなしています。


「俺はウィルソン・ダデ・マーブル。マーブル家の長男である!」

「俺はブラウン・ド・マーブルだ。3対1とは、我々もなめられたものだな」

「‥‥俺はオペリア・ティン・マーブルだ。お手柔らかに頼む」

「お前、この期に及んでまた弱気か!?」


ブラウンがオペリアに怒鳴りつけますがそこはさすがに敵の目前、ブラウンは「後で覚えてろ」と言ってすぐに私へ視線を戻します。

私は改めて名乗ります。


「私はアリサ・ハン・テスペルクです。あなたたちがこれ以上殺戮を続けるのであれば、私が止めます」


それを聞くと、ウィルソンとブラウンは私を指差して笑い出します。


「ははは、お前、何様だ?神にでもなったつもりか?そんなか弱い体で俺たちを倒せるとでもいうのか!?」

「これだから女は夢と現実の区別ができていないと言われるのだ!」


私は、はぁとため息をついて3人の様子を見ていましたが、オペリアが2人を不快そうに見ているのに気づきます。オペリアに話しかけてみます。


「オペリアさん、オペリアさん」

「何だ?」


オペリアが私を振り向きます。


「もし私と戦いたくないのなら、あなたは生かしてあげます」

「‥‥断る。俺がここで死ぬ運命であれば、甘んじて受け入れる」

「そうですか」


私とオペリアのやり取りを聞いて、他の2人はさらに大きな声を上げて笑います。


「オペリアもこんな馬鹿の相手をするな!こんな女、俺にかかれば秒殺よ?」

「そうだそうだ。降参するなら今のうちだぞ?今降参すれば捕虜にはするが殺さないでおこう」


そう言ってしばらく私の様子を見た後、私は降参しないと認めたのか、2人とも笑うのをやめて真剣な顔で私を見ます。

一気にからりと空気が変わったような気がします。

戦いが始まるのですね。私は一呼吸します。


◆ ◆ ◆


「アリサが出るなんて、寝耳に水よ!」


ヴァルギスから聞くなり、馬に乗って魔王城を飛び出したのはメイです。

メイ自身、アリサと1ヶ月も会っていません。何度もアリサと会おうとしましたが、そのたびにヴァルギスに止められていました。

その、自分の妹であるアリサが一騎打ちに出るというのです。しかも、3人を一度に相手に。

メイは頭の中では、どんな相手でもアリサが勝つだろうと思っていましたが、一抹の不安もありました。

もしこのままアリサが死んで、一生帰ってこなかったら?

無理にでもアリサに会おうとしなかった自分を責めるべきなのか?

もちろんヴァルギスから「敵の中には天候を操れる者もおる。城壁の内側にも攻撃が届く。いま城壁近くに行くのは危険だ」と言われました。でも自分は姉として、家族として、ここ3週間会っていなかったアリサを、戦場にいるアリサを一目見なければいけないと思ったのです。

もしかしたら生きているアリサを見られるのはこれが最後かもしれない。

そういった不安にとらわれていました。


メイは城壁のすぐ近くまで来ると、兵士たちの止めるのも聞かず、馬から降りて駆け出します。


「あたしはアリサの姉、メイ・ルダ・テスペルク!城壁に窓はない?アリサを一目見せて!」


そう叫びながら走っていると、メイの前に1人の少女が立ちはたがります。


「‥‥ラジカ!?」


迷彩模様のフートローブに身を包んだラジカは、メイに手招きします。


「‥ついてきて。ここに入れる身分のアタシが案内してあげる」

「ラジカ‥」


メイはラジカに招かれるがままに城壁の側防塔のドアを開けて入り、螺旋階段を上っていきます。

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