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第160話 巨人が現れました(2)

巨人ウィルソンは、ただ殴るだけではいけないと悟ったのか、今度は拳に魔法をかけます。

鋼のように固くなった拳。それをおもいっきり振り上げます。そして勢い良く、壁にぶつけますが‥‥壁は全く傷つきません。

代わりに、城壁の兵士たちがウィルソンの鎧めかけて油を投げ、魔術師が火の攻撃をぶつけます。

ウィルソンの鎧に少しずつ火がつきます。

これに対抗すべく、マーブル家の兵士が少し離れたところにはしごを立てて登ります。

城壁の兵士たちは、それに対応する兵を割かなければいけないため、ウィルソンへの攻撃はあまり激しくはできませんでした。


ウィルソンは巨人であるだけでなく、全身を硬い鎧で覆われていて、攻撃のしようがありません。

鎧全体を温めるしか方法はないのです。


会議室で、屋上の様子を兵士たちの口から伝え聞いたマシュー将軍は、すぐさま次の命令を出します。


「銃眼の魔術師にも命令せよ!」


銃眼とは、城壁の壁についている小さな穴のことで、そこから銃や魔法を壁の外に向かって放ちます。壁の外からは、銃眼は見えにくいような作りになっています。

すぐさま、あちこちの銃眼から大きな炎が、ウィルソンの鎧めかけて放たれます。


「う、うおおおおおお!!!!!!」


ついに鎧の内部にまで熱が伝わったのでしょうか、熱さに耐えきれなくなったのか、ウィルソンは大きな叫び声をあげます。それは近くにいる兵士たちが思わず耳をふさぎ、攻撃の手を緩めてしまうほどのものでした。

巨人はそれから、壁に足をかけ、城壁を駆け上ろうとします。が、その手めかけて火の魔法が集中したため、登れません。ありったけの火矢と火の魔法、油が、鎧で身を覆った巨人に集中します。


「う、ううっ‥」


巨人はそれでも城壁を登るべく、城壁から少し離れたところへ戻ると、助走をつけて城壁の屋上にとびつこうとします。

しかし銃眼や屋上の魔術師たちは冷静に、次の魔法を準備します。


かくして銃眼と屋上から出てくる炎が合体して、大きな炎になります。

巨大な炎が一気に火を吹き、油まみれになったウィルソンの体を一気に燃やします。


「あ、ああ、ああああああああ!!!!!!!!」


ウィルソンは地獄の断末魔のような悲鳴をあげ、その場に仰向けに倒れてしまいます。

高台からこの様子を見ていたオペリアが慌てだします。


「いけない!ブラウン、雨を降らしてくれ!」

「分かった」


ブラウンはそう言うと、呪文を唱えます。

みるみるうちに空が黒い雲で塞がれ、あたりは満月のように少し明るい光がさしかかる夜のように暗くなります。

そうして、その雲から一気に雨が落ちてきます。


雨は一気にウィルソンの体を包む炎を流し落とします。

激しい雨で兵士たちの持っていた火矢の火が次々と消え、銃眼からも火が消えます。

ウィルソンは荒い息をつきながら、四つん這いになって城壁の前を離れます。

やがて高台まで着いたウィルソンは、その体を小さくしていきます。マーブル家の他の兵士たちも、一緒に帰っていきます。

この日の攻撃は、これで終わりになりました。


◆ ◆ ◆


「ソフィー、すごいな。敵の特徴を聞いただけで、火で燃やす作戦を思いつくとは」


雨がやみ虹が出た光景を窓から望みながら、側防塔の会議室で、マシュー将軍はソフィーを称賛します。

油と火炎の魔法で巨人の鎧を焼きやけどさせる作戦は、ソフィーが考えついたものです。


「ありがとうございます。巨人に対応できる手段は、正直これしかありませんでした」


ソフィーは笑いもせずに、テーブルの上の大きな地図を眺めています。


「ソフィー、どうかした?」


マシュー将軍はその声色が気になって、ソフィーの隣の椅子に座ります。


「‥私たちを取り巻く状況は、なお苦しいということです。あの4兄弟の力によって迎撃は封じられ、こちらは籠城するしかなくなっています。こちらが手をこまねいていると敵の兵士はこの長城を包囲し、王都のまわりの街道を封鎖するだけでなく、アリサさん以外の担当した城壁の脆いところを見つけて破壊する恐れがあります」

「なるほど‥‥」


長城は、王都ウェンギスの都心部全体を囲んでおり全長150キロメートルくらいはありますが、20万人もいればそれを取り囲み、補給を寸断することができます。

今日のウィルソンは、ハールメント王国随一の魔力を持ったアリサが補強した部分を攻撃してきました。なので今日は安心して耐えられましたが、ウィルソンが今後別の場所に移動して、別の人が担当した城壁を攻撃した場合、もしかしたら破られるかもしれません。


「敵が東に固まってくれているうちに手を打つ必要があります。ウィルソンは巨人になっている間、魔力も増大します。ウィルソンの攻撃に対応できるのは、アリサさんの補強した部分のみです。敵に別のところへ回り込まれたら、各個撃破する前にウィルソンに城壁を突破されるでしょう」

「そこはやはり魔王様を使って対応するしかないのか?」

「いいえ、魔王様はブラウンの天候による攻撃への対応で手一杯になるでしょう。ウィルソンに対応できる余裕はありません」

「むむ‥‥アリサが使えない今、どうすればいいのか‥‥」

「とりあえず、ありったけの将軍を動員して対応しましょう」


そう言って、ソフィーは椅子から立ち上がります。

その時、会議室のドアがノックされます。


「誰だ、入ってこい」


マシュー将軍が声をかけるとドアは開き、ラジカが入ってきます。


「‥ラジカか。敵の作戦は分かったか?」

「はい。アタシたちに罵声と挑発をあびせて出撃させる意向です」

「‥‥なに」

「敵は、この長城すべてをアリサ様が補強したものと思いこんでいます。明日は罵声を仕掛けて、籠城するアタシたちの士気を下げる作戦のようです」


ラジカが返すとマシュー将軍は「むう‥‥」と頭をひねり、ソフィーもため息をつきます。


「‥‥どうしますか?」

「あの4人と戦える将は限られているが、どれも今後の戦争において大切な人たちだ。死なせたくない」

「それでは頑強な兵士に、魔王様に強化魔法をかけてもらって送り出しますか?」

「それしかないな」


マシュー将軍はうなずきます。


◆ ◆ ◆


その頃、ウィルソンは鎧を熱されたことにより、上半身のやけどに苦しんでいました。

幕舎の中で、全身に包帯を巻いて、冷たい水の入った大きな桶に入りながら、桶の端を何度も叩いていました。


「くそ、くそっ!あんな攻撃は初めてだったわ!」


事実、今まで巨人になったウィルソンに対抗できるものはなく、みなおもしろいようにやられていっていました。

しかし、今回初めてウィルソンは巨人になった状態で体にダメージを負ってしまったのです。


「あんな攻撃を考えたのは誰だ!明日、俺が殺してやる!」

「そこまでにしろ」


オペリアが幕舎に入って、荒ぶるウィルソンを止めます。


「‥‥オペリアか」

「暴れると体に悪い。今日は油断しただけだ。我々が王都ウェンギスを征服することには変わりない。明日はきっと、俺たちが勝つ」

「‥‥そうだな」


ウィルソンは不敵な笑みを浮かべて、桶の端の上に腕を乗せ、げたげた笑っていました。

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