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第158話 マーブル家が近くまで来ました

マーブル家の軍勢に諜報用のカメレオンを潜り込ませたラジカとその供たちが帰ってきました。

迷彩のローブから普段着に着替えたラジカは大広間に呼ばれ、ヴァルギスにひざまずきます。


「ラジカよ、ご苦労であった」

「はい」

「それで、敵将の情報は分かるか?」

「はい、ウィルソン・ダデ・マーブルをはじめ、オペリア・ティン・マーブル、ブーン・ハ・マーブル、ブラウン・ド・マーブルの4名が大将になっています」


ブラウンが天候を操る魔法を得意とすることはすでに分かっていますが、ウィルソンは体を巨人のように大きくすることができて、しかも魔力も体の大きさに比例して増えるため相手に大きな損害を与えることが可能です。オペリアはハープを持っていて、それの音を聞いた人たちを操ることが可能です。ブーンは幻覚を見せることを得意とします。

マーブル家がカメレオンに対して自己紹介したわけではありませんが、彼らはハノヒス国で力を使ってきましたので、兵士たちの会話などから推察可能でした。ラジカはそこから情報を得ました。


「籠城しても大きな被害は免れぬな‥どの魔法もうまく仕えば多くの兵が死ぬ。何とか一騎打ちに持ち込めればいいのだが」


ヴァルギスはそう言ってため息をつきます。それから、マシュー将軍と、その隣に立っているソフィーを見ます。


「ラジカ。マシュー将軍、ソフィーと3人で相談して、撃破方法を考えてくれ」

「分かりました」


ラジカは返事します。


◆ ◆ ◆


ハノヒス国国境から王都ウェンギスまでの間にある都市については、すでにほとんどの住民が先のベリア戦のときに避難済なので、あまり人も財産もありませんでした。


「ふん、つまらんな」


山中を行軍中に、マーブル家4兄弟の1人ブーンが馬の上でため息をつきます。


「住民の避難は魔族が一枚上だったということさ」


メガネをかけて白衣を着ているオペリアが応じます。


「まあ、どうせいずれ全部我々のものになるのだ。今焦っても仕方ないだろう」

「俺たちの魔法があれば、魔王すら越えるだろう。先に魔王を倒した人が初夜を過ごすというのはどうだ?」


それぞれ、ブラウンとウィルソンが野蛮な笑顔を浮かべて言います。


「それ、いいな。俄然やる気が出てくるというものだ」

「散々敗北の味を教えてやってから身を裂き殺してやろう。俺たちの尊い犠牲だ、ははは‥‥」

「王都にいる魔族ともは奴隷にしてこき使ってやろう。なに、昔の魔王は人間を奴隷にしたと言う。我々が魔族を奴隷にしても間違いではないだろう」

「財宝を根こそぎ奪い取って火の海にするのも味さ、ひっひっひ‥」


男たちは笑いながら、20万の兵士を連れて道を進みます。


その山を越えると、王都ウェンギスを囲む長城と、その前に展開する荒野が望めます。ベリア軍が魔族と戦う時に戦場にした場所でもあります。マーブル家はその荒野に陣をしき、兵士たちに攻城兵器を組み立てさせ、総攻撃は明日と定めました。


◆ ◆ ◆


マーブル家の陣の設営の様子を、ヴァルギスをはしめ複数の重臣は、長城の屋上から遠巻きに眺めていました。遠くの方で幕舎が立ち始めているのが見えます。音までは聞こえないくらいの距離がありますが、あの陣を根拠にして攻撃できる距離でしょう。

マシュー将軍はすでに、長城に多数の兵士を配備しています。クロスボウ(弓のようなもの)を持つ兵士、遠隔攻撃に特化した魔術師、様々です。


「この長城の高さはどれくらいだ?」


ヴァルギスはマシュー将軍に尋ねます。


「20メートルです」

「敵将ウィルソンは巨人になれるというが、どれくらいの高さだ?」

「はい、10〜15メートル前後かと思われます」

「なんだ、それだけか。だが、魔力は5倍以上ということだな。油断しないにこしたことはない。こたびの戦いは妾も後方支援として参加しよう」


ヴァルギスは大きな力を持っていますが王族であり、万が一敵に捕まるようなことがあればハールメント王国は即座に降伏しなければいけなくなります。


「はい。ブラウンの魔法は壁を超えて、王都ウェンギスの住民に被害を与える可能性があります。それを防ぐ意味でも、魔王様のご参戦は大変助かります」


ソフィーが感謝の意を込めて返事します。


マシュー、ソフィーは魔王城内の闘技場にある会議室を本部としました。長城の近くに本部を設置すると確かに兵の統率がやりやすいのですが、長城を破られるようなことがあったときのための備えです。

それとは別に、長城の壁に挟まれるように数十〜百メートルおきに建てられている側防塔のうち城門に近い1つを支部として利用することにし、城壁戦闘時の指揮に使うことになっています。

側防塔の屋上近くの高い位置にある会議室の窓からマシュー将軍は改めてマーブル家の陣を見ます。遠くてよく見えませんが、20万の兵士が横に展開しているのが分かります。


王都ウェンギスは30万の兵を擁しており、本来なら籠城ではなく打って出るべきですが、マーブル家4兄弟の能力がどれも多数の兵士を殺傷できるものであるため、下手に迎撃することはできないのです。総攻撃するにしても様子を見てからにすべきと、ソフィーも同意していました。


「しかし、まずは様子見の先鋒が必要ではないか」


マシュー将軍はまだ、兵力差があるにもかかわらず籠城することにいくばくかの抵抗を感じていました。


「あの4兄弟の力を前にしては、莫大な被害は免れません。籠城して敵の体力を削るのが正解です」

「むむ‥‥」

「しかしそんなにおっしゃるのであれば、アリサさんに敵の糧道を分断させるのはどうでしょうか?」


糧道とは、軍隊の食料を味方の土地から補給するための道です。これを切断されると兵士たちの食べ物がなくなるため、退却せざるを得なくなります。軍隊もあらかじめ大量の食料を運んでいますから、糧道が切断されても数週間、部隊によっては数ヶ月持ちこたえることもできますが、続きの食料が入手できないと分かった兵士たちが混乱を起こす場合もあります。もちろんマーブル家が兵糧切れで黙って退却するとは思えませんし、糧道にもそれなりの備えをしているでしょうから、糧道を分断する部隊にも力が求められます。最悪の場合、あの4人をまとめて相手しなければいけないことにもなるでしょう。


「‥‥アリサは今、心の病気で部屋に閉じこもっている。使える状態ではない」

「‥‥そうでしたね」


ソフィーは目を伏せ、ため息をつきます。


◆ ◆ ◆


ハギスは自分の部屋で、もふっとベッドに入っていました。

明日から戦争です。籠城になるのですが、王族であるハギスに長城の城壁に登る任務はなく、食料運搬など後方支援がメインです。それでも、戦争に参加するということに一抹の不安を感じます。


「‥大丈夫なの、くっすり寝れば問題ないなの‥」


自分に言い聞かせるように、ハギスはころっと体の向きを変えます。

その時、トントンとドアのノック音がします。

この叩き方は、ヴァルギスです。


「どうしたなの、姉さん?」


ハギスが返事するとノック音は止み、ゆっくりとドアが開きます。

ヴァルギスが、自分の枕を持って入ってきます。


「ハギス、今夜は一緒に寝たい」

「‥‥分かったなの」


ハギスは自分の体をベッドの橋に動かして、もう1人分のスペースを作ります。

ヴァルギスはそこに枕を置いて入ってきます。

と、ハギスがなぜか嬉しそうににこにこ笑っているのに、ヴァルギスは気づきます。


「なぜ笑っている?」

「ううん、嬉しいの。姉さんと一緒に寝られるの、久しぶりなの‥」

「ああ、前は何年前だったかな」


前は時々一緒に寝ていましたが、いつしか寝なくなってしまっていました。

特にきっかけがあったというわけでもなく、自然に。


「寂しかったか?」


ヴァルギスが尋ねると、ハギスはにっこり、大きくうなずきます。ヴァルギスはそんなハギスの頭をなでます。温かい体温が、髪の毛越しに伝わってきます。

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