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第154話 マーブル家が動き出しました

各地に散り散りになった兵士たちは、それぞれの足でウィスタリア王国内旧クロウ国領土へ戻ります。


「負けてベリアが死んだだと!?」


ハギスとラーヌの追撃からかろうじて逃げ切った将軍たちから報告を受けたハラスは、思わず怒鳴ります。


「はい。夜襲を受けた上に、ハノヒス国の兵士が反乱を起こしたため、30万いた我が軍はわずか1日で壊滅しました」

「ハノヒス国の兵士だと?ハノヒス国が魔族側についたというのか?」

「いいえ、違います。道中で王様より勅命を受け、ハノヒス国の住民を徴兵しました。その恨みでしょう」

「ハノヒス国の政府に許可は得ていたのか?」

「いいえ、後で何とかやるからまず徴兵しろとのことでした」

「な、なんだることだ‥‥王様はハノヒス国にも喧嘩をお売りになった」


ハラスは絶句します。そのあとも将軍から詳しい話を聞いた上で、大広間から出して休ませます。


「むむむ‥‥」


ハラスは玉座の上で、頭を抱えます。それだけベリア軍の行動が人の道から外れ、しかも今後の軍略にも影響が出るような遺恨を残したのです。

家臣の1人が言います。


「お気持はわかりますが、勅命であった以上、一概にベリアを責めることはできないでしょう」

「う、うむ、分かっておる」


そうしてため息をついて、玉座に再びもたれます。今からやることは山積みです。


「だが、ダガールとペヌでの反乱がまだ継続している以上、我が軍はこれ以上ハールメント王国のために兵を割けない。うがうがしていると魔族たちは反乱の隙をついて王都へ攻め込むだろう」

「ハラス様、お気を確かにしてください。反乱はあと2ヶ月もあれば鎮圧できる見込みです。ハールメント王国も、和平の使者を殺しただけで、我々ウィスタリア王国への攻撃の意図があるとは限らないでしょう」

「ふむ‥できればそれに期待したいところだが、最近斥候から不穏な話を聞いた」

「不穏な話とは?」

「斥候の報告によると、ハールメント王国が2ヶ月前に、グルポンダグラード国へ友好の使者を送ったようだ」

「ええっ!?」


ナトリも同行した使者のことです。魔族と獣人はさほど仲は悪くないものの、獣人は人間との関係のほうが深く、魔族がこのタイミングで獣人に使者を送ることには特別な意図があると思われても仕方がありません。実際、ハラスもまたこの使節のことを疑っていました。


「魔族が獣人と手を組み王都を挟み撃ちにする可能性も否定できない。実際、王様は獣人に対しても暴利を要求するようになり、恨みを抱がれ始めている。魔族はそこに目をつけたのだろう。我々はこの国を守るために、何としても手を打たねばならぬ」


家臣たちもこれに同調します。


「私たちに、反乱と旧クロウ国残党とハールメント王国3つ同時に対処できる兵数はありません。反乱の鎮圧には2ヶ月かかります。この2ヶ月の時間を稼ぎましょう」

「我々もグルポンダグラード国に使者を送るべきです。魔族と獣人の親交に釘をさすのです」

「いや、ここからグルポンダグラード国までは遠いです。使者が向かっている間にハールメント王国が攻め込んできたらどうしますか?」

「王都は援軍を出すのをやめました。いくら100万の兵を擁していようと、私たちだけで攻め込むのには限界がございます」


家臣たちが議論を戦わせます。それにハラスも参加して議論に議論を重ねます。やがて、1人の家臣が言い出しました。


「ここはマーブル家の力を借りるしかありません」


マーブル家はウィスタリア王国の隅に一大勢力を築いている一家です。他の貴族と比べて広い領土を持ち、それは1つの小さな国家が構成できるほどの広さです。そして、20万の私兵を持っています。

ウィスタリア王国の中にありながらウィスタリア王国の主権が及ばないことがあるため、この王国全体の兵力にはカウントされていませんが、20万はかなりの兵力になります。


「しかし、マーブル家は人の道に外れたおこないも多いと聞く」


ハラスが反論するように、マーブル家は住民から重税を搾取し、私利私欲のために使っています。また、勝つためなら手段を選ばないというとても悪評の立っている一家で、ウィスタリア王国もこの扱いに手を焼いています。


「しかし、我々の力ではハールメント王国を抑え込むことはできない状態です。あと2ヶ月の時間が必要です。どうです、マーブル家に2ヶ月間やらせてみて、だめだったら我々も兵を送るというのはどうでしょうか」

「彼らにハールメント王国を倒せるほどの力はないでしょう。反乱が終わるまでの時間稼ぎには使えます。ウェンギスを落としたあとの扱いは自由にさせると言えば、喜んでよく働いてくれるでしょう」


何人かの家臣がそう促してくるので、ハラスは「うむむ」と考え込みます。


「‥‥やむを得ない。使者を送れ」


こうしてハラスからマーブル家へ、出征を依頼する使者が出されます。


◆ ◆ ◆


マーブル家は、ウィスタリア王国の中でも、旧クロウ国に協力したため滅ぼされた国とハノヒス国の国境に接したところにあります。

広大な街の周りには険しい山がそびえて天然の要塞となり、都市への入り口を制限しているため入った者を無断で逃すことはありません。マーブル家は、その盆地の真ん中に大きな宮殿をたて、城としていました。


宮殿の大広間でハラスからの手紙を受け取ったマーブル家当主、ウィルソン・ダデ・マーブルは、それを読んで笑います。


「ははは、あのくそじじいも面白い手紙をよこしてやった」

「何が書かれている?」


近くにいたウィルソンの3人の弟たちが集まってきます。それぞれ、オペリア・ティン・マーブル、ブーン・ハ・マーブル、ブラウン・ド・マーブルといいます。

ウィルソンはその手紙を弟たちに渡して、言います。


「ハラスのじじいが、ハールメント王国のウェンギスを潰してくれだとさ。ウェンギスを攻め落としたら好きにして構わないそうだ」

「どうせ我々には20万の兵しかいないと見くびっているだろうな。我々兄弟の魔法があれば、人数差なとどうにでもなる。それを証明する時が来た」

「魔王なんて俺たちにかかればお茶の子さいさいさ。魔王はいい女だと聞く、争いが終わった暁には我々4人でとって食おうではないか」

「王都というからには、莫大な財産もあるだろうな。魔族立ちを奴隷にしてこき使ってやろう」


4人たちは不気味な笑みをたたえながら、トントン調子で話を進めていきます。


マーブル家はその翌日のうちに20万の兵を動員し、ハールメント王国ウェンギスへ向かうべく、まずハノヒス国に入ります。

しかしハノヒス国の人たちは、それを白い目で見ていました。以前ここを通ったベリアが自分たちの夫や子供などを勝手に連れて行ったからです。

中には石を投げる人もいました。その石が乗馬しているマーブル家の1人ブラウンの頭に当たると、ブラウンは激怒して持っていた身長ほどはある大きななたを天に振り上げます。まもなくゴゴゴという音とともに空を黒い雲が覆い、雷が鳴り、石を投げた人を撃ち殺します。それだけでなく、その近くにあった町の建物に、雲から次々と火が降り、片方から順に燃やし尽くしてしまいます。

逃げ惑う人々を次々と雷が襲い、みな燃えて殺されていきます。その悲鳴と巨大な炎の横を、マーブル家の軍は進んでいきました。


「どうだ、我々は魔王の戦略魔法に匹敵する力を持っている。町1つ消滅させることなど、造作もないことだ。分かったらみな、マーブル家の家来になるのだ!ははは!」


マーブル家は調子に乗って、目につけた町を次々と襲い、金品を奪います。それは賊と言って大差ないことでした。

民衆は口々にハノヒス国政府に不満を訴えるのですが、あれでも一応ウィスタリア王国の兵隊であり、抵抗したとなれば外交問題になります。ハノヒス国は小国であり、ウィスタリア王国を敵に回すだけの国力はとてもなかったのです。

結局人々はマーブル家の軍隊から逃げ回り、家を焼かれた人は難民となり、親を見失い孤児となった人も多く出て、国中が大混乱に陥りました。

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