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第140話 魔王に謝りました(3)

「危険よ!」


メイがとっさに怒鳴って邪魔します。でも私は、首を振ります。


「お姉様、私は大丈夫です」

「大丈夫じゃないわよ!まだ背中も動かせないじゃない。今、魔王と目を合わせたらあんたは植物状態になるかもしれないのよ、分かってるの?」

「‥魔王も、アリサ様を見ないで欲しい」


メイだけでなくラジカも反対して、まおーちゃんに呼びかけます。

ですが私は、椅子から身を起こして私に近づいてきたメイの頬を、腕を頑張って持ち上げて、そっとなでます。


「私は今まで、まおーちゃんに対して中途半端だったと思います。まおーちゃんと目をそらしたまま話していても、私の気持ちはまおーちゃんに伝わらなくて、また中途半端で終わると思ったから。だから、私の目を見てほしいんです」

「それを蛮勇っていうのよ!」


メイは私の手を振り落として、ぱちっと私の頬を叩きます。ひりひりします。背中が自由に動かせないので、衝撃で私の上半身は壁から滑り落ちます。それを反対側にいたナトリが支えて、再び姿勢を戻してくれます。


「‥確かにテスペルクは、ナトリと勝負するときも中途半端だったのだ。でも今は違う。魔王と真剣に話さなければいけないのだ。だが、目を合わせる以外にも手段はあるだろう?」

「ナトリちゃん。まおーちゃんと席を変わって」

「それはできないのだ。お前は植物状態になってもいいのか?次はいつ治るか分からないのだぞ?」


ナトリが畳み掛けるように言いますが、私はぎゅっとナトリの差し出した手を握ります。


「ナトリちゃん。私はまおーちゃんのためなら、死んでもいい。まおーちゃんがそれだけ私のことを好きでいてくれたから、その気持ちの裏返しだと思う。だったら、ことさら真面目に話し合いたいの」

「目的と手段を履き違えることはないのだ」


そう食い下がるナトリの体を、椅子から立ち上がったまおーちゃんが後ろにとげます。ナトリは後ろにあるベッドに尻餅をつけてしまいます。


「待つなの!」


ハギスがまおーちゃんの腕を引っ張りますが、まおーちゃんは意に介さず、ナトリの椅子に座ります。

でも、まおーちゃんはまだうつむいたままです。黒いオーラは、まだその大きさと濃さを保っています。


「妾の恐慌の魔法は、妾自身でも制御できない。今は貴様と目を合わせる自信がない」

「まおーちゃん。じゃあ私、先に話すね。今までずっと中途半端なままでごめんなさい。私はまおーちゃんを召喚した時、好きって言ったよね。あの好きは、まおーちゃんに一目惚れしたからなの」

「‥‥」


私は、うつむいているまおーちゃんの頭を見つめています。まおーちゃんが唇を噛んでいるのが分かります。


「それからもずっと、まおーちゃんが好きって言いながら抱きついたりしたけど、あれは今思えば今のまおーちゃんくらい真剣じゃなかったと思う」

「アリサ!!」


私とまおーちゃんの恋愛のためにいろいろ手伝ってくれていたメイが怒鳴ってきますが、ラジカが反対側の腕をくいっと引っ張って止めます。

まおーちゃんが尋ねてきます。


「貴様の部屋に最初に入った時、本棚に百合の本が置いてあった。貴様は自分をレズだと言っていた。あれははじめから嘘だったのか?妾が貴様の気持ちを受け入れたのが莫迦ばからしくなるではないか」

「それは‥‥本当だよ。でも、私、まおーちゃんとは付き合えないって心のどこかで思っていたから、あの抱きつく行為も半分くらい冗談みたくなっていたかもしれない。私、まおーちゃんと付き合うことを軽く考えていた。でも、まおーちゃんはずっと私のことを本気で考えてくれていて、それを知った時はとっても嬉しかった」

「‥‥‥‥あれを冗談だと思うやつがどこにいるか。貴様は妾の間接キスに気づかなかったことがあるだろう?そういうところが中途半端だと危惧していた。だが、妾は‥貴様と話しているのは楽しかった。妾にとっては、エスティクで唯一対等に接してくれたのが貴様なのだ。エスティク以前もそうだ。貴様ほど妾のことをおそれず、権力も欲せず、対等に接してくれる人はいない。だから貴様と本気で付き合いたい、本気の貴様が見たいと思って、告白したのだ。今は後悔すべきだろうか?あれは全て嘘だったのか?」


私は自分でも気が付かないうちに布団を掴んでいるのに気づきます。その手を離して、平にして布団の上に置きます。


「私は最初、まおーちゃんを軽く思っていたかもしれないことは認めるよ。でも今は、まおーちゃんの彼女になれて嬉しい。まおーちゃんほど話の続く相手もいないし、私のことを真面目に真剣に考えてくれる人もいないし、決闘大会の決勝でも、互角の戦いができたよ。あれもずっこく楽しかった。遊園地で告白された時も、とっても嬉しかった。相手がまおーちゃんじゃなければ絶対楽しくないと思った」


そこまで言って、私はまおーちゃんから視線をそらして、布団に落とします。


「私、前世から‥じゃない、小さい頃からずっと魔法を使うのが大好きで、とにかく魔法を使うのが好きで、ずっと魔法を使っていないと気が済まなくなってきてずっと浮遊するようになったよ。でも、私、ナトリちゃんと勝負しても勝ってばかりで、ギルドのクエストもニナちゃんやナトリちゃんがGランクのところから探すのに対して私だけSランクのものをとらされたりして、みんなとのギャップをなんとなく感じていたの。だから、決勝でまおーちゃんと戦えて、とても嬉しかった。まおーちゃんは私と同じくらいの魔力を持っていて、私の魔法を全力で受け止めてくれて、だから私も全力を出して気持ちよく戦うことができたの。私に対してこんなことができるの、この世界の中でまおーちゃんしかいないって思ったの。だから‥‥」


私はまおーちゃんが視線を落とす先に手を差し込んで、振って合図します。


「私の目を見て」


私の手を見るとまおーちゃんはゆっくりと顔を上げ、そして伏せていた目を私に向けます。

涙が少しだけ分泌されたのか、いつもより光を反射してきらきらしている瞳でした。

そしてまおーちゃんを包んでいた黒いオーラが、さっきより薄くなっているのを感じます。

メイが席から立とうとしますが、それをラジカは腕を引っ張って止めます。


「今まで中途半端でごめんなさい。まおーちゃんは本気で私のこと、好きでいてくれたんだよね。だから、私との関係がもっと深くなるように努力してくれた。私もまおーちゃんにもっと振り向いてもらえるよう、頑張るね。私、まおーちゃんとずっとずっと一緒にいたい」

「‥‥‥‥」


まおーちゃんはしばらく黙って私の目を見ますが、ふうっと息をついて、次はメイやナトリ、ラジカたちのほうを向いて言います。


「人払いしたい」

「どうする?」


メイがラジカに尋ねますが、ラジカは黙ってうなずいて椅子から立ちます。

メイは不安そうに、おそるおそる私を見ながら、離れていくラジカの腕を掴んでついていきます。

ハギスは「気をつけてなの‥」と力なく言った後、ナトリに背中をさすられながら部屋を出ます。

部屋は私とまおーちゃん2人だけになりました。ただ静寂だけが訪れます。


まおーちゃんはまた、私と目を合わせて言います。


「妾は貴様のことをこれからも信じていいのか?」


いつもの質問と同じ調子で話してきますが、これは間違いなく今回の問題の根源に関わることで、とても大切な質問だと思いました。

私はまおーちゃんの目をずっと見つめながら唇を噛んで、考えます。

そして、言葉をひとつひとつ選ぶように答えます。


「私はもう他の人とデートの練習なんかしないし、まおーちゃんとの関係をずっと大切にする。私には、まおーちゃんしかいないから。まおーちゃんにも、私以外に相手がいないって思わせてあげる。もう二度と裏切らない。だから、私を信じて」


まおーちゃんはしばらく目を閉じて考えた後、また目を開けます。

まおーちゃんを包んでいるオーラが、いつの間にか完全に消えています。


私が布団の上に置いた手を、そっと掴みます。


「妾も貴様の体をこんなにして悪かったと思っている。だから明日のデートまで、看病させてくれ」

「えっ、でも明日の午前の予定は‥‥」

「キャンセルだ。どうせ貴様に比べると大した用ではないからな。だが‥その代わり、明日の午後はしっかり妾をエスコートしろ。貴様が受けでは困る。それでよいな」


私はまおーちゃんの手を握り返します。


「‥うん、分かった。私、精一杯頑張ってみるね」


もう、まおーちゃんが近くにいるだけでどきどきするなんて言えません。

恥ずかしがっている場合ではありません。

まおーちゃんだって、きっと、告白のときも恥ずかしいのを我慢して私に言ってきたんだと思います。

だから今度は、私が恥ずかしいのを我慢して、まおーちゃんにお返しする番です。

まおーちゃんは、真剣に私と交際したいと言っているのです。もう中途半端な気持ちでは付き合えません。

私はそう、何度も心の中で自分に言い聞かせます。


何より、その時のまおーちゃんの顔が印象的です。

まっすぐ、濁りのない目で、私をしっかり見つめていました。

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