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第131話 魔王のお願いを読みました

「‥‥ふふ‥ふふ‥ふふっ‥‥」


なんだかいつもよりおどおどした感じで部屋に入ってくる私を不審に思ってまおーちゃんに何かあったかしつこく聞かれて私が答えた時のまおーちゃんのリアクションがこんな感じでした。

肩を震わせて、笑っている顔が私に見えないよう必死にうつむいていますが、声が漏れています。


「ひ、ひどいよ、まおーちゃん、笑うなんて‥‥」

「すまぬ、つい‥」


まおーちゃんはそう答えて、私から封筒と魔族語の絵本を受け取ります。

魔族語の勉強が先ですね。私はまおーちゃんの隣に行きます。

まおーちゃんが絵本をばらばらめくっている時に何か思い出したように、私に視線を向けて、2人きりの部屋なのにこそっとささやくように言います。


「他の者には絶対ばれるな」

「わ、分かったよ、まおーちゃん‥‥あれ、ケルベロスさんにはばれてもいいの?」

「‥‥さあ、どうだろう。わざわざこちらから交際の進捗を教えに行くこともなかろう」


まおーちゃんはなぜか気まずそうに視線をそらします。

あれ、まおーちゃんとケルベロスの間に何があったのでしょうか?気になったけど、まおーちゃんが絵本を読み上げ始めたので、私も勉強に集中です。ううっ。


しばらくして。


「貴様も読解力が上がったな。子供向けの文章であれば、問題なく読める」

「えへへ、まおーちゃんとナトリちゃんのおかげだよ」


昨日から、言語学校が終わった後に時間を作ってナトリに魔族語を教えてもらうようになりましたが、ナトリは今まで努力して勉強してきただけあって、魔族語の学習で何が大切なのかよく分かっていて、要点をかいつまんで教えるのが得意です。おかげで私も魔族語を早くマスターできるような気がします。まおーちゃんより効率がいいな―と思ったのは内緒。まおーちゃんと2人きりの時間は大切にしたいです。


「‥そうか、ナトリか。あやつは勉強が得意だ。貴様もすぐ身につくだろう。今度のデートで新しい本でも買うか」


まおーちゃんがさりげなくデートの話を振ってきます。どきーん。

私の頬が一気に赤くなってきます。


「う、うん、買おうね、まおーちゃん‥‥」

「貴様、どうした?急にしおらしくなって」

「だって、2人でデートするかと思うと緊張しちゃって‥」

「ふふ、貴様は緊張するのが早い」


まおーちゃんはいたって冷静です。でも、私にしか見られないような特別な笑顔で、私のことを見てくれます。普段は厳しいまおーちゃんが私と2人きりになって話す時にこうして頬を緩めるの、かわいらしいです。先の決闘大会の影響もあるのでしょうか、距離がまたひとつ縮んだような気がします。

まおーちゃんは絵本を閉じます。


「‥‥4日前の決勝、妾は楽しかったぞ」

「うん、私も。まおーちゃんがすごいのは分かってたけど、思う存分に魔法が使える相手はこの世の中でまおーちゃんだけなんだって分かった。その、私、魔法を使うのが大好きだから嬉しくて‥」

「妾も同感だ」


そのあとしばらくの間、先の決闘大会の話で盛り上がります。決勝の感想だけでなく、ハギスの過去の大会について、私がいない間に観客席でどういう会話をしたのか、特別席の存在など‥‥。


「話がそれてしまった。デートの話をしたい」

「あ、うん、話の続きはデート中にしようか、明日から3連休だしまおーちゃんどれか1日とれそう?」

「それはだな‥」


まおーちゃんは申し訳無さそうに、私から視線をそらします。


「3連休はどこも予定でいっぱいでな‥ただ、しあさっての3日目、午後ならとれる」

「ほんと?本当は一日中一緒にいたかったけど仕方ないね、しあさっての午後でもいいよ」


私は元気よくうなずきます。まおーちゃんはそれを見てから、机上の封筒に視線を移します。


「‥さて、デート中にしてほしいことをお互いこの紙に書いて封をしたのだな」

「うん、私も決勝が終わってから何が書かれてるのか気になっちゃって‥‥」

「それで、ひとつ妾から提案なのだが」


まおーちゃんはそう言って、引き出しを開けて私が書いた封筒を取り出します。


「貴様もこれを開けろ」

「えっ、でも勝った方の封筒を開けるって約束じゃ‥‥」

「負けた方の封筒を開けるなとは言っておらん。提案というのは、この封筒に関係することなのだが‥‥貴様、これには『貴様が妾にしてほしいこと』を書いておるのだろう?逆にこれに書かれている内容を『貴様が妾にする』というのはどうだろうか?」


まおーちゃんはやや恥ずかしくなってきたのか、言葉を詰まらせながら私に尋ねます。

なるほど、そういうことですね‥‥って、ええっ、私は確か封筒に「しっかり抱きしめる」と書いたのですが、私がまおーちゃんのことを抱いてあげるという意味ですか?それなら今までにも‥‥あれ、確か。


「確か、私が書いた内容、決闘大会の時すでにまおーちゃんにしてもらったような‥」


思い出しちゃいました。私がナトリを殺したと勘違いした時、まおーちゃんは私をしっかり抱きしめてくれたのです。

まおーちゃんは眉をひそめます。


「‥‥ここに書かれていることを妾がすでに貴様にしたというのか?知らぬ間に?それでは不公平ではないか‥‥」

「ううっ、だ、だって‥」

「問答無用だ。貴様は妾に、この2つの封筒に書かれていることを両方やれ」


まおーちゃんは自分の書いた封筒、私の書いた封筒の両方を片手に持って、私に示します。

うう、言っちゃってよかったのかな?恥ずかしいです‥‥。

私、もう1つ気になることが会ったので質問してみます。


「そ、それで、その、まおーちゃんはこの封筒に過激なことを書いたのかな?」

「なぜそう思うのだ?」

「だって封筒を交換した時、貞操は保証できないって言ってて‥」

「ああ‥確かに言った‥言ったのだが‥‥」


まおーちゃんはなぜか、そこで頬を赤らめます。いつものまおーちゃんらしくなくて、恥ずかしくてもじもじした様子です。


「その‥なんだ、妾は貴様に一番してほしいことを書いたのだが‥‥」


うーん、この様子だと、実はそんなに過激でもないことかもしれません‥‥普通の友達同士でもやることかもしれません。けど逆に、初夜とかガチなやつだったらどうしましょう。中身に何が書かれているのか、両極端な候補しか思いつきません。

私は胸をどきどきさせて、そーっとまおーちゃんに言ってみます。


「そ、その‥‥」

「とりあえず、妾の願いから先に開けるぞ」


まおーちゃんは私の言葉を遮るように、机の上の2つの封筒から自分が書いたものを選んで開封します。そして、中の紙を取り出して私に渡します。

私は手紙から顔をそらして、少しずつ覗くように、おそるおそる折りたたまれた紙を開きます。


「う、ううっ‥えっ?」


そこには「ケーキを食べさせる」と書いてありました。思ったより普通で一安心しました。


「まおーちゃん、これって‥」

「いっ言わせるな恥ずかしい、妾は恋人ができたらこれをやってもらいたいと思ってた、だけだ‥‥」


まおーちゃんは私から顔をそらしながら、小さい声で言います。率直に言ってかわいいです。


「も、もっと大胆なことも考えたのだが‥その‥妾は下手な接触よりもこういうのが一番嬉しい。もう少し踏み込んだことも書きたかったのだが‥‥」


なんだか、紙に1つのお願いしか書けないことを惜しく思っていそうな感じが伝わります。

まおーちゃんは一呼吸ついていつもの調子に戻って、私と目を合わせます。


「それより貴様こそ何を書いた?開けろ」


そう言ってまおーちゃんから突き出された封筒を私は受け取って、封を開けて、中の紙をまおーちゃんに渡します。


「‥‥貴様のことだから、普通の友達同士でもやるようなことが書かれているだろうな、なになに‥‥」


まおーちゃんはその紙を開いて読みます。

最初、「んっ?」と少し訝しげにしていましたが、その紙をしばらく眺めた後、うんうんとうなずいていました。ええと、そんなに長い文章は書かなかったと思うけど、どうして読むのに時間がかかるのでしょう。

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