第128話 プレゼントをもらいました
準々決勝、準決勝はいずれも、私というよりはナトリとハギスのための試合でした。
私はゆうべハギスからもらったアドバイス通り、自分にできるだけ隙をつくらないよう意識して、試合が始まった途端に自分を結界で包むよう心かけました。なので相手は誰も私を攻撃できませんでした。
大変なのはナトリとハギスです。私が強すぎて倒せないとみるや、相手は他の2人に全振りしだしました。ナトリとハギスのどちらが強いかは分かりませんが、ナトリもよく戦ったと思います。使い魔のドラゴンと一緒に激しく戦って、火の魔法を惜しげもなく繰り広げて、負けてしまいます。ハギスはフォークをぶんぶん回したり突き刺したりして善戦しますが、準決勝で力尽きました。
「負けたなの、ごめんなさいなの‥‥」
私たちのチームは、準決勝での敗退が決まりました。1位や2位になることはできなくなりました。
試合終了後、ハギスが申し訳無さそうに、しおらしそうに空気を固めて作ったフォークを消して、ふらふらと控室に姿を現します。
「ううん、ハギスちゃんはよく頑張ったよ」
私はハギスちゃんにハグしてあげます。
「ううっ‥悔しいなの」
「ハギスちゃん、また次の大会でリベンジしよう」
「分かったなの」
ハギスもすっかり私の匂いに慣れたのか、抱き返して私のおなかに頬をすりすりさせてきます。かわいいです。
「お前のせいではないのだ。ナトリもまだ修行が必要なのだ」
ナトリはやれやれという顔をして、ハギスの頭をなでてあげます。
決勝の後の3位決定戦でも見事に負けてしまい、表彰はかないませんでしたが上位者に贈られる参加証はもらいました。私たちはそれを持って、控室のドアを開けて出ようとしますがハギスが後ろから止めます。
「待ってなの。そのドアを開けたが最後、テスペルクはファンたちにもみくちゃにされるなの」
「あっ」
私はドアから手を離します。そういえばそういう問題がありました。
私たち3人は頭を寄せ合って、ひそひそ話を開始します。
「どーする、ナトリちゃん?」
「結界を作って強引に突破するのだ」
「待ってなの、今は表彰式の途中だから、表彰が終わるのを待って他の選手と一緒に出るなの。そのタイミングで出れば、スタッフもファンたちをまとめて押さえつけてくれるなの」
「確かに、昨日も同じようにして出れたしね、ハギスちゃんの言うとおりにしようかな」
作戦会議の話はまとまりました。有名になるのってつらいです。
◆ ◆ ◆
激しい戦闘があった翌日の朝です。大会4日目、100人対100人のグループ戦の日です。
大会はあるのですが、私はすっかりくたびれてしまい、魔王城の中の私たちの部屋の中で、ぼんやり放心状態になりながら浮遊していました。
「はぁ‥‥」
メイもラジカも、もう起きているのですがベッドの上でくたびれたように横になっています。
「有名人の姉ってつらいわね‥特別席用意してくれるまであそこには行かないわよ」
「アタシも同じく‥‥」
感情表現が苦手なラジカもさすがに疲れたらしく、くったりしています。
一方で、ナトリは「ナトリだけで見に行くのだ」と言って、朝早くからハギスと一緒に観戦しに行きました。おそらく今頃、私と同じチームを組んだということで3〜5人程度のファンに絡まれているのでしょうか、友情を育んだのでしょうか。ひとまずそれはもう別の話です。
昼に差し掛かったころ、ドアのノックがしたので私が魔法で開けてみます。まおーちゃんでした。
「まおーちゃん、どーしたの?」
「ああ、貴様に渡しそびれていたものがあってな」
そう言って、まおーちゃんは空中に穴を開けてアイテムボックスを開けて、大量の『アリサへ』と書かれた袋を取り出してテーブルの上に置きます。
「普通なら決勝であれほど戦った選手には、このテーブルにも乗せきれないほど大量に来るんだがな、貴様は初出場だったから贈る方もすぐには用意できなかっただろうな。次回以降はこうはいかないから覚悟しておけ。昼食は用意しておらぬ。妾は大会の仕事があるから戻る」
そう言い残して、また急ぐように部屋から出ていってしまいました。ばたんとドアが閉まります。
「えー、待ってよ昼ごはんどーするの‥‥」
私が戸惑いますが、メイはテーブルのところまで来ると、袋の山を指差して言います。
「昼ごはんはこの中に入ってるでしょ」
「ウィスタリア王国のアイドルも、お菓子だけでなく弁当もプレゼントに混ざることがあると聞いたことがある」
メイとラジカは椅子に座って、プレゼントの袋をひとつひとつ開け始めます。私も仕方ないのでテーブルの椅子まで下りてきて、プレゼント整理の輪に加わります。
「あっ、チキンだ」
「混ぜパンもあるわよ、売店で売っていたやつね」
「パンやクレープも多い。早く食べないと腐っちゃう」
メイ、ラジカは発見した食べ物から順にかぶりつき始めます。私もチキンをかじり始めます。
「お菓子はすぐには腐らないから後回しよ」
「分かりました、お姉様」
私たち3人は食べ物を整理しながら効率よく食べていきました。
総菜パン、菓子パンなどいろいろなパンがあっておいしかったです。魔族の料理にデルポというものがあって、鳥の肉に穴を開けてパンの生地を流し込んで焼くものなのですが、それも肉の中に混ざるパンの独特の食感がよかったです。
何日も保管できるお菓子を除いた料理は、ちょうど3人分ありました。3人とも満腹になったみたいです。
「おいしかったね」
私が言うと、ラジカは親指を立てます。ふふっ。
メイは「せめて保存食にしときなさいよ、会場の売店の料理をそのまま出すってどういうことなの」などと文句を垂れつつも、「でももらって嬉しくないことはないわね」とも言ってました。
「これ、アリサだけでなくあたしやラジカ向けにくれたものも混ざってんのよ」
メイが自分で説明してくれました。全部私へのプレゼントというわけではなさそうです。魔族には、アイドル本人だけでなくその周囲の人にもプレゼントをする文化があるようです。
「ところで、食べ物以外のプレゼントってあるんだろう?」
私はそう尋ねました。
確かに今までの袋の中に入ってきたのは、お菓子やパンなど、食べ物ばかりです。
「ないんじゃない?あたしも食べ物以外見てないわ」
「アタシも」
うーん、魔族のプレゼントは食べ物を贈らなければいけないという決まりがあるのでしょうか。疑問に思っている私に、メイが追加で説明します。
「魔族は大食いもいるからね。魔物の姿に変身できるケルベロスっていう人とかはよく食べるはずよ。でもそうした人は今は少数派になっていて、今は昔の文化が残っているだけだと聞いたわ」
「最近は人間とのハーフ、クォーターも増えているらしい」
なるほど、昔からの伝統というわけですね。
特に最近は亡命も増えているから、人間と魔族の混血はこれからも加速していくかもしれません。
「‥そーいえば、ふと思ったんだけど」
私が話し出します。
「魔族って先王の代までは戦争が大好きで、人間をとってくう残虐な民族だったらしいけど、どーしてまおーちゃんは急に人間に優しくなったのかな?」
メイとラジカははっと気づいたように、お互いの顔を見合わせます。
デグルの昔話を聞いていたラジカが先に反応します。
「‥そういえばそうだ。今の魔王は即位直後から今の政策をとっていたらしいから、クァッチ3世に対抗した政策というわけでもない」
「魔族3000年以上の歴史の中で、つい最近の300年で急にそうなったというのは明らかに不自然ね‥‥でも王女次代に何かがあったんじゃない?あたしに聞かれてもわからないわよ」
メイは他の袋を確認しながら答えます。
うーん、これは後でまおーちゃんに聞いたほうがいいですね。聞かなくても大丈夫だけど、なんとなく気になります。




