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第127話 有名税を払いました

私は昨日の大会ですっかり有名になりすぎて、控室の外には何人かのファンが待ち構えているためになかなか控室から出られません。控室の隅にある椅子に座って、ナトリに実況の翻訳をしてもらい、ハギスに飲み物や食べ物を買ってもらいながら、ずっとそこにいました。

控室にいると、他の選手たちの様子も分かります。グラウンドの入り口に向かう前からすでに魔力を身にまとう選手もいましたし、浮遊の魔法を使って槍のように猛スピードでグラウンドへ向かう選手もいました。もっともその選手は、グラウンドの中央に着く前に相手選手の背中に激突してしまい、試合開始前の攻撃として失格になってしまいましたけど。

チーム戦なので、3人で相談し合う光景も頻繁に見られました。出場する選手に他の2人がエールを送る場面、勝った選手が他の2人と歓喜する場面、負けた選手を励ます場面も見られました。それらを見て、私自身も楽しいなと感じたりします。

ですが、どのチームも話し合いながらちらちらと、部屋の隅にいる私を見ているような気がします。なんだか視線を感じます。うーん。


「控室から観戦するのも悪くないのだ」


私の翻訳サポートをしてくれているナトリが、ジュースをストローで飲みながら言います。


「うん、直接見られないのは仕方ないけど、ナトリちゃんのおかげで内容がよく分かるよ、ありがとう」


私がにっこり笑って返すと、ナトリは「ふふ」と少し笑った後で、また続けます。


「昨日の試合でテスペルクがナトリに勝っただろう」

「うん」

「ナトリが負けたら魔族語を教えてやる約束だったのだ」

「あ、うん、そーだね。早速明日から教えてもらっちゃおうかな」

「いや、ナトリは明日も観戦したいから、あさってからにして欲しいのだ」


明日は100人対100人のグループ線です。小さい戦争のように作戦を組んで戦います。ちなみに私たちは出場しません。


「分かったよ」


私が返事するとナトリはしばらく控室の様子を見て、それから私の耳に顔を近づけて、小声で話します。


「ナトリたちのチーム、マークされているのだ」

「えっ?」

「テスペルクは絶対倒せないからナトリとハギスをどう攻略するか、みんな話し合っているのだ」

「ええ‥‥」


控室の選手たちがやたら私に視線を送ってくると思っていたら‥‥。やっぱりといえばやっぱりですね。昨日の決勝で目立ちすぎてしまったんですね。


「だがナトリは、どんな苦境でも絶対に負けないのだ」


ナトリは面白そうな顔をして、ガッツポーズを作ります。燃えているみたいです。

私も同じ気持ちです。どんなチームが来ても、決して油断はしませんよ。


◆ ◆ ◆


観客席で、例によって仕切りの壁の隣に座ったメイと、それを守るように隣に座ったラジカは、他のチーム同士の試合を見守ります。


「ねえ」


メイがラシカのひじを引っ張ります。


「何?」


ラジカが尋ねると、メイは間髪入れず質問します。


「あたしたちがアリサの仲間ってこと、どこから漏れたのよ?」

「多分、昨日の表彰式の後にアリサ様が控室から出たタイミング」


そうです。2人の周りには魔族が集まってきて、メイにお菓子をくれたり、ラジカに飲み物をくれたりしています。「アリサへ」と書かれた袋もすでにいくつか受け取っています。

『アリサは普段どんな人?』『アリサの強さの秘密は?』などという質問まで浴びせられています。メイは魔族語は分かりますが魔族はまだ怖いので、質問するたびにラジカが適当に答えています。

メイが自分は目立ちたくないと言って、2日目以降はアリサに近付いてこないよう言いましたが、これでは意味がありません。


「貴様らも人気者だな」


人混みから、深緑のフードローブをかぶったまおーちゃんが出てきます。ラジカの隣の椅子にはまわりからもらったプレゼントが積まれていましたが、まおーちゃんはそれをアイテムボックスに入れて空っぽになった椅子に座ります。

まおーちゃんは、自分の正体がばれないように、周りの人たちがメイやラジカへプレゼントを渡すのを止めたりはしませんでしたが、『アリサちゃんは何カップ?ハァハァ』など変な質問がくると横から割り込んできて手を振って止めたりしていました。やっぱりメイやラジカと同席しているので、目立つといえば目立ってしまいますね。


「何しに来たのよ」


メイが尋ねると、まおーちゃんは自分の声で周りにばれないよう、裏声で返します。


「妾は普段は特別席におるのだが、貴様らの様子が気になってな」

「ふふっ」


ラジカがまおーちゃんの裏声に笑ってしまいます。メイも、事情は分かるのですが口角が上がっています。


「次の大会では貴様らにも特別席を用意せねばならんのう」


まおーちゃんはそう言って、ため息をつきます。


しばらくして、3回戦第3試合。私たちのチームの出番が、また回ってきました。

その試合の様子を、まおーちゃんたちは一般向けの観客席から眺めます。選手一覧を見ていたまおーちゃんいわく、相手のチームは、風の魔法を得意とする集団の一員だそうです。

先鋒同士の試合では、これまで火の魔法を中心に使っていたナトリが急に方針を変えたようで、火のブレスを吐くドラゴンは控室に置いてきて、ナトリ単身で試合に臨むようです。

ナトリは自分の体に風と水の魔法をかけて、猛スピードで相手に突っ込みます。水が凍って盾となり、風の魔法を操る相手に尻餅をつかせます。そのあとも一進一退の攻防が続きますが、火の魔法を使うと予想して対策していた相手はナトリの突然の方針転換に対応できなかったらしく、降参してナトリの勝ちになりました。


「ベスト8はもらったな」


まおーちゃんが言うと、メイとラジカも無言でうなずきます。


「まあ、アリサは強いからね」


そう威張って言うメイに、まおーちゃんは尋ねます。


「周りの客が言うから妾も気になっていたのだが、アリサの強さの秘密は何だ?どうすれば妾に匹敵するほどの実力を持てるのだ?答えによっては姉である貴様とも戦ってみたくなるのだが」


まおーちゃんがいたずらっぽく微笑みます。

メイはまおーちゃんの最後の一言を聞いて怖じ気つきますが、ラジカの「アタシも気になる」という言葉を受けて少し考えてから返答します。


「あたしにもわかんないわよ。あの子は一日中絶えずに魔法を使い続けるのが好きだから、そうなったんじゃない?」

「ほう、一日中魔法を使うのも途中で疲れるはずだ。何歳から使えるようになったか分かるか?」

「うーん、10歳くらいかな?」


まおーちゃんとメイはその後も、私の強さの秘密についていろいろ話し合っていました。


「普通はどのような訓練を積んだ魔法使いでも、寝ながら浮遊の魔法を使うことは不可能だがな‥‥わずか10歳でろくな家庭教師もつけずにそれができるようになったということは、アリサは天賦の才を持っているようにみえる。神から授かった力だろう。アリサはそれを努力によって使いこなしてみせたが、まだ無駄が多い」


まおーちゃんの中ではそういう結論に落ち着いたようです。


「だが、神がアリサにそのような力を与えるからには、何か目的があるだろう。大方、ウィスタリア王国の討伐か‥‥?こればかりは神に聞かんと分からぬな」


まおーちゃんはまたそう推理して、微かな笑みを見せます。

私たちのチームは3回戦も通過し、準々決勝に駒を進めました。

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