第126話 チーム戦に出ました
なんだか個人戦の決勝が激しすぎて大会全部終わった気持ちになってしまっていたが、今日は大会3日目です。チーム戦があります。
ハギスによるとチーム戦には個人戦との重複出場も含め50チームが出ます。個人戦の235人と比べるとトーナメント表は小さくなりますが、2日分けて開催された個人戦に対し、1日間で終わるチーム戦の50チームは、あわせて150人が出ます。
「詳しい傾向は会場に入ってトーナメント表と出場チーム一覧を確認しないと分からないけど、副将に弱い人が置かれているチームと対戦したらウチらのチームは不利になってしまうなの」
私の隣に立っているハギスはそう言って腕を組んでいます。
「現実から目をそらすな、なのだ」
私のまた隣に立っているナトリは、眉をひそめて言います。
今、私たちは3人で、早朝、選手専用入り口の待機列に並んでいるのですが、私のところに集まっているファンの数がすごいです。多分正確には私のファンではなく、この大会全体のファンでしょうが、とにかく注目度が違います。
『サインをください!』
『視線お願いします!』
『応援しています!』
『今日のパンツは何色ですか?』
『次の大会には出ますか?』
『魔王様との関係は?』
私はいろいろな魔族たちにもみくちゃにされて、次々と魔族語で言われます。まるでアイドルみたいです。ううーっ。目立つのは少しだけなら好きなんですけど、あまり目立ちすぎるのは得意じゃないです。
『は、はい、サインだけ書きます』
私はそう言って、何人かの服や紙に自分の名前を書きました。サインってこんなのでいいのでしょうか。次々と、人間語で「アリサ・ハン・テスペルク」と書いていきます。みんな嬉しそうな顔をして私に何回もお礼を言います。
『握手も!握手もお願いします!』
と言われたので握手もしてあげます。これ完全にアイドルです。恥ずかしいです。
そうやって私が困っていると、私のところに人が集まりすぎて混雑しているのを見かねたのか、何人かの緑の蛍光色のゼッケンをつけたスタッフが割り込んできます。
流暢な魔族語で何かを話してくるので私は聞き取れずナトリの顔を見ます。
「このチームだけ特別に先に入らせてくれるそうだ」
「あ、ありがとうございます‥」
ナトリは私の人気ぶりをひがんているのか、腕を頭の後ろで組んで投げやり気味に言います。
私たち3人はスタッフに付き添われて、行列で私たちの前に並んでいた人たちにぺこぺこ頭を下げながら、先に会場へ入りました。
1階ロビーではまだスタッフたちが慌ただしくしていましたが、観客席と通する2階、3階の円い廊下まで行くと、そこではスタッフたちの準備はもう終わっていたのか、ほとんど誰もいませんでした。選手の中では私たちが一番乗りですね。
「あ、見て、あそこにトーナメントがあるよ」
壁に、50チーム分のトーナメント表が張られています。近くのテーブルには、トーナメントの縮小版と各チームの選手名が書かれた冊子もあります。
「うーん、チーム戦にまおーちゃんは出ないみたいだね」
「ナトリ、この人知っているのだ。魔族の賞金王と呼ばれて有名な男なのだ」
「副将に弱い人を配置してるチームはそんなに多くないなの。これなら優勝狙えるかもしれないなの」
私、ナトリ、ハギスはそれぞれの視点で情報に接します。
私たちのチームは、トーナメント表で左に近いです。ですが、シードです。最初の試合までまだ時間はあるでしょう。ハギスに聞いてみると、大会スタッフの選考や、大会に深く関わる人達から推薦があったときにシード権が与えられるようです。私は大会に出るまでは無名に近い存在だったので、個人戦ではまおーちゃんが推薦したのでしょう。ハギスは以前から大会に出ていてそこそこの成績を残していたので、個人戦も今回のチーム戦も、スタッフが選考で選んでくれたのかもしれません。
50チームなので、シードのチームは5回戦うことになります。
◆ ◆ ◆
観客席は、個人戦のときに負けず劣らず、大勢の人で埋まっています。
この中にメイやラジカの姿もあるのでしょうか。私は手を振ります。
チーム戦2回戦第5試合で、先鋒のナトリは負けました。相手は水の魔法を得意とするようで、ナトリのドラゴンは水に包まれて火も吹けず、簡単に負けてしまったのです。
副将の私の相手は、相手チーム3人の中でも特に強いらしく、普通に浮遊の魔法でグラウンドの中央へ移動する私に対し、相手は水でできた馬に乗りながら、走ってきました。
『お前が、昨日の決勝に出たアリサだな。お前と試合ができて嬉しく思うよ』
その男は魔族語でこう返事してくれたので、私はにっこり笑顔で返しました。
水で消しきれないほど大量の炎のブレスと一緒に。
『アリサです。よろしくお願いします』
無詠唱で私の手のひらから吹き出されるそれは、相手の水の馬の中へ潜り込み、馬こと一瞬で蒸発させます。
隙を作るなと言うハギスの教えの通り、私は本当に一発で相手を倒します。
本来なら、ウヒルも私より格下の相手でした。それが途中まで私を圧倒できたのは、私に隙があったからなのです。それさえなければ、どんな弱そうな相手にも油断さえしなければ、私は強いのです。うん。
水の馬が消え、尻餅をついた相手は、それでも抵抗するらしく水の魔法を放ちますが、それを私は、水より弱いはずの火で防ぎます。
できればあまり相手を怪我させたくなくて、降参してくれたほうが都合がいいんです。あまり人を殺したくないので。なので、力の差を見せるにはこうしたほうがいいんじゃないでしょうか。
水のドリルを火で蒸発させて逆に砕き、水を冷やして氷となった無数の槍にも火をかぶせて逆に砕き。
私はその場から一歩も動かず、次々と相手の水の魔法を火で砕いていきます。
ついに手持ちがなくなったのか、相手はがくんとひざをつきます。私の勝ちですね。
私の勝利が決まった時の歓声を昨日の決勝と比べてはいけないのですが、それでも昨日の準々決勝のときよりは大きくなったような気がします。私を応援してくれる人も、多数いるようです。
私は、そうした観客たちに手を振りながら、浮いてすーっと移動して、グラウンドを後にします。
控室でのハギスは、すでに臨戦態勢で、空気を固めて作った光る巨大なフォークを持って、対戦相手と火花をちらしています。
『ウチが勝つなの』
『お前に負けることはできない』
そうして掛け合っているタイミングで控室に戻った私は、ハギスの頭をなでてあげます。
「ハギスちゃん、頑張ってね」
「任せやがれなの。ウチは王族だから強いはずなの。根拠はないけど」
そう言って、見た目10歳の幼女は、ふんと胸を張ります。
ハギスはフォークで突き刺して相手の水の玉を割りまくり、風圧で相手を吹っ飛ばし、圧倒しました。実況が流暢で早口だったので、控室にいる私はナトリから状況を教えてもらいましたが、とにかくハギスによる一方的な試合だったそうです。
「‥ナトリの新しいライバルができたのだ」
ナトリは眉をひそめて言います。
「無茶はしないでね」
「‥‥善処するのだ」
私のお願いに、ナトリは少し考えるように言います。
私たちは2回戦に勝利し、3回戦に進出することになりました。




