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第125話 チーム戦のことを忘れてました

私は城に戻った後も、まおーちゃん抜きで食事するときに話題の的でした。


「火がくすぶったと思ったら急にドーンドーンって爆発するもん、肝を冷やしてしまったわよ」


メイが珍しく興奮気味で話しています。妹のことですから、自分も嬉しかったのでしょうか。


「アタシは初めて腰を抜かすという経験をしたかもしれない。10の首を持つ水のドラゴンが暴れる時の雄叫びが、とにかくやかましかった」


ラジカもまだ興奮から冷めていないようで、珍しく食事を一度に口に詰めてしまっています。


「ウチは試合が熱すぎて、途中で疲れて眠ってしまったなの‥‥激しすぎたなの。あんな姉さんは見たことなかったの。あの表情を引き出せるのはテスペルクだけだと思うの」


ハギスも、さっきまで寝ていたとは思えないほどに眠気を感じさせず、楽しそうに思い出を話します。


「ナトリも途中から見ていたが、今はテスペルクと試合ができて幸せだと思っているのだ」


死地から生き返ったばかりのナトリは、さすがに体の所々がまだ痛むらしく、控えめの笑顔で果物入りサラダを頬張ります。

えへへ、みんなの話題になってちょっと恥ずかしいかな‥‥。


「今頃、ウェンギスのどの家もあの決勝の話でもちきりじゃないかしら?アリサも、とんでもないことをしてかしたわね」


メイが誇らしげに、楽しそうに、ひじで私を小突きます。まるで酒に酔っているみたいです。


「でも、誰も死なないで大会終われたのはよかったな‥‥!」


私が居心地の悪そうに控えめの声でそう言って、パンをちぎってスープにつけてまたメイの顔を見ると、メイは頭の上にクエスチョンマークをつけています。


「‥‥どうしましたか、お姉様?」

「アリサ、忘れてない?明日はチーム戦よ」

「あっ」


そういえばそうでした。大会は全部で4日間、個人戦はそのうちの2日です。明日の3日目はチーム戦なんです。私、ハギス、ナトリが出場します。


「確か先鋒はナトリちゃん、副将は私、大将はハギスちゃんだったね」


私が思い出して言うと、ハギスは大きくうなずきます。


「ウチ、個人戦では優勝できなかったけど、チーム戦では頑張るなの!テスペルクの力を借りて優勝するなの!賞金の1億ベルで新しい盆栽を買うなの」

「テスペルクがいれば優勝も夢ではないのだ」


私の向かいに並んで座っているハギスもナトリも、親指を私に突き立ててきます。

え、えーと‥‥。なんだか頼られている感じがします。


「アリサのほかにどれか1人が勝たないとチームとしては勝ち上がれないのよ?2人も頑張りなさいよ」


メイが私の代わりに突っ込んでくれます。ありがとうございます。

メイはぽんと私の肩を叩きます。


「まあ、あれだけのことができるんだからアリサは魔王以外だったら勝てるでしょ。今日の疲れがまだ残ってると思うけど、頑張りなさいよ」

「はい、お姉様」


私はにっこり笑って返事します。

疲れといっても、ナトリが死んだと思って泣き叫んだ疲れと、まおーちゃんと4時間も死闘を繰り広げた疲れしかありません。‥‥あれ、私、実は結構疲れているんじゃないでしょうか?

確かにいつもより体が重い気持ちがします。それに、まおーちゃんとの試合が終わった直後に感じたように、全力で魔法が出せるような気がしないのが今も続いています。


「それもそうですね、今日は早く休みます」

「うん、そうすべきよ」


個人戦とチーム戦両方に出る選手ってかなりタイトですね。多分決勝で4時間も戦った私だけでしょうけど。


「それと、アリサ様気をつけて」


メイのまた隣に座っているラジカが急にこんなことを言うので、私は尋ねます。


「どーして?」

「アリサ様は決勝でものすごく目立ってしまった。だから、明日のチーム戦ではアリサ様を応援する人たちに囲まれて邪魔されたり、試合で対策されたりするかもしれない」

「そーいえばそーだね、うーん、自分にたくさんのファンがつくって想像したことなかったなあ‥‥」

「これもアリサ様の力」


ラジカも、まるで自分のことかのように嬉しそうです。


「‥‥アリサの対策って何すればいいのよ」


メイが半笑いでため息をつきます。


「そーいえば、私は隙だらけって言われたな‥」


ウヒルが私に、そう言ってきたのです。

それを言ってきたウヒルは、私が最初の魔法を使う前に攻撃してきました。そのあとしばらくはウヒルのペースにのせられた試合になっていたのでした。


「確かにテスペルクは隙だらけなの」


ハギスがさっきまでの興奮を忘れたかのように、急に真面目な顔になって話します。


「どーいうこと、ハギスちゃん?」

「姉さんとの戦いで集中してる時はいいんだけど、それ以外では油断し過ぎなの。最初の攻撃も、いつも相手の様子を伺ってからしていたなの。だから常に相手に先手をとられてしまうなの」


なるほど。そういえばそうでした。今日だって、私が先制攻撃したのは相手が攻撃したがらない時か、ナトリのように相手といくらか喋ってからでした。その間にはつけ込みやすいのかもしれません。


「ありがとう、私、明日は注意してみるよ」


◆ ◆ ◆


私たちの部屋に戻って寝る直前、私はふと本棚の頂上まで浮き上がります。

私は常に浮きながら移動するため、本棚の上のような高いところにある物を置ける場所は、私専用のスペースのようになっています。

本棚の頂上に置いてある一枚の封筒を手に持ちます。これは、この前まおーちゃんと交換した封筒です。

今日の決勝で私はまおーちゃんに負けたので、次のデートのときに私はこの封筒の中に書いてあることをやらなければいけないのです。


「‥‥何が書いてあるんだろう」


まおーちゃんいわく、魔族は過激なことが好きなのだそうです。私は胸をどきめかせ、頬を赤らめながら、その封筒をぎゅっと大切に、胸に抱きます。

この封筒を開封できるのはまおーちゃんだけです。その開封の瞬間まで、私はずっとどきどきしなければいけないのでしょうか。

あまり過激なことじゃなければいいんだけどね‥‥。


「アリサ、早く寝なさいよ」


メイが呼びかけるので私は「はーい」と返事して、封筒をまた本棚の上に戻して、ふわふわ浮いたまま目を閉じます。

おやすみなさい。


◆ ◆ ◆


その日の夜遅く、自分の部屋に戻ったまおーちゃんは机の引き出しを開けて、ため息をついていました。

引き出しの中には、まおーちゃんが私と交換した封筒が入っています。

この中には、私とまおーちゃんのデート中に私が希望した内容が書かれています。

これを開封して、この中に書かれたことをやってしまうわけにはいきません。まおーちゃんが私に勝った意味がなくなるからです。

でも。


「‥‥このまま永遠に開けられなくなるのだろうか」


まおーちゃんも、封筒の中身に興味を持っていました。

なんだかんだで、実は私からもらう最初の手紙なのです。

一度開けて見たいし、可能ならやってみたいと考えていました。だって、恋人の私が確実に喜ぶような指示なのですから。

まおーちゃんが告白して本当の恋人関係になってからは照れ恥ずかしそうにするようになった私のことですから、きっとあまり過激ではない、友達同士でもするような簡単なスキンシップが書かれているのでしょう。もしかしたら自分はもうすでにやってしまったレベルのことかもしれません。


「‥‥だがなあ」


この封筒を開けられるのは私だけです。まおーちゃんの力で無理やりこじ開けることもできますが、それが露見してしまったら私からの信頼を失うでしょう。

まおーちゃんはその封筒を一度取ってから、また引き出しの中にしまいます。

さて、どうしたものでしょうか。まおーちゃんが勝った今、これを開けると不公平になってしまいます。

しばらくまおーちゃんは腕組みしながら考えます。


「‥‥そうだ」


いいことをひとつ、思いつきました。これは罰ゲームです。この封筒の中には、私がまおーちゃんに「やってほしい」ことが書かれているのです。それを逆に私がまおーちゃんに「やってあげる」のであれば、形式上は罰ゲームとして成立しますし、まおーちゃんも封筒の中身を見ることができて、私を喜ばせる方法を知ることもできます。いつかそれを実践してあげましょう。

まおーちゃんはそこまで考えると、引き出しを閉めて、タオルと替えの服を持って浴場へ向かいました。

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