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第121話 決勝が始まりました

決勝の組み合わせが決まったことにより、会場はかつてない盛り上がりようです。

見回すと、いつの間にか『アリサ頑張れ』という大きな旗まで作られていました。用意周到ですね。

だけど、『魔王様頑張れ』という白抜き文字の真っ黒な旗が、私の旗よりも大きく作られて、張られていました。


私はケルベロスと一緒に、控室へ戻ります。決勝前の30分間は休憩時間なのです。

控室は私、まおーちゃん、ケルベロスの3人しかいません。あんなに賑やかだった部屋も、今はすっかり寂しくなってしまっています。

控室で仁王立ちして待ち構えていたまおーちゃんが、まずケルベロスに話しかけます。


『まずはケルベロス、ご苦労だ。‥‥先王の代から仕えてきた貴様にはいろいろ思うこともあっただろうが』

『魔王様、さっきの試合中の会話をお聞きになって?』

『いや、貴様の今までの言動から大抵は予想ができた』


まおーちゃんとケルベロスは流暢な魔族語で早口言葉のように話していて、ひとつひとつの単語は分かるものの、あまり聞き取れません。うーっ、もうちょっとゆっくり話してくださいよ―。

そのあとも、まおーちゃんとケルベロスの話はまだ続きます。私は暇になって、ふわっと浮いて控室のドアを開けます。ちらっと廊下を覗くと、目の前のベンチにメイ、ラジカ、ハギスが待ち構えていましたとばかりに腰掛けていました。

3人は席から立ち、私のところへ歩いてきます。


「‥アリサ、決勝進出おめでとう」


メイは目を開けて笑っています。


「ありがとうございます、お姉様」


私はいったんそう返事しますが、すぐにまたうつむきます。


「‥お姉様、勘当でしょうか?」

「え?」

「ここまで戦っても、ナトリが帰ってくるわけではありませんし‥‥」

「ああ」


メイは何事もなかったように返事します。さもナトリの死のことを軽く考えているかのようです。


「‥勘当の話はなかったことにして。あたしも強く言い過ぎたわ。今まで通り、姉として接してあげる。ナトリはナトリ、アリサはアリサよ。気にしないで、決勝でぶつかっていきなさい」


そう言って、私の両肩を掴みます。


「は、はい、お姉様」


私が戸惑いながら返事するとメイは少し気まずそうに、ラジカと顔を見合わせます。ラジカは私の方を向いて、かすかな笑顔を作って言います。


「アリサ様、決勝応援している」

「うん。頑張るよ!」


私はぽんとラジカの肩に手を置いて、それから「あっ」と声を凝らしてしまいました。

ラジカはその瞬間に顔を真っ赤にして、目をくるくるさせて、ふらふら、足元がおぼつかない様子になってしまいます。

ラジカは私に触れられるとこうなってしまうのでした(第1章参照)。私が慌てて手を離すと、ラジカはスイッチが切れたように顔の赤みも一気に引いて、ぴたっと立ち止まります。


「今の、何?」

「‥今のは何なの?魔法使ったなの?」


メイとハギスが気になって尋ねてきますが、私は「ううん、ラジカちゃんは大丈夫だから」と言ってごまかします。


「‥じゃ、次はハギスよ」


メイがハギスに話を振ります。ハギスはちょっと考えてから、私に言います。


「姉さんとテスペルクが戦うことになってウチは複雑なの。でも、どっちも頑張りやがれなの」


そう言って、にっこり笑います。かわいいです。私はハギスの頭を優しくなでます。

決勝は嫌だ、来ないで欲しいと心の中で思っていましたが、自分を応援してくれる人達がいると、何が何ても頑張らなくちゃという気持ちにさせられます。


「ありがとう、ハギスちゃん。みんなも私のこと応援してくれて」


私、最初は自分が怪我しないことばかり考えていました。戦うのがちょっと怖かったんです。

でも、蓋を開ければみんな一生懸命で。必死で。

ナトリやウヒルなど、圧倒的に強い力を持つ私に対しても差別することなく正面からぶつかってくる人もいました。特にナトリは‥‥印象的でした。

私が勝ち上がるということは、私に負けた人たちからの気持ちを受け取るということです。

まおーちゃんと戦うのは怖いけど、私も全力で戦わないと、今まで私と戦ってきた人たちや、今ここで応援してくれた人たちに失礼です。


「みんな、大好き!」


私はメイとハギスを抱きしめます。


「アリサ、どうしたの突然!」


メイがちょっと抵抗しますが、私は構わず抱きしめます。私たちをラジカは遠巻きに、笑顔で見ていました。


◆ ◆ ◆


そのあとメイ、ハギス、ラジカとベンチに座って話していましたが。


『休憩時間はあと5分で終了します』


こういうアナウンスが流れたので、私は椅子から浮き上がります。


「頑張って」


後ろからメイの声がしたので、私は振り向いて、笑顔でうなずきます。

そうして、控室のドアを開けます。


中では、まだケルベロスとまおーちゃんが立ちながら話していました。

しかしケルベロスは、私に気づくと話を終わらそうとしたのか、まおーちゃんにこそっと耳打ちします。


『どうした、ケルベロスよ』

『‥釣り人と結婚するという占いでしたね。くれくれも逃されぬよう(第3章参照)』

『な‥なっ、貴様、まだそのことを覚えていたのか!?』


耳打ちの内容は私には聞こえてきません。まおーちゃんが頬を赤らめて騒いているということは分かります。


『交際は始められましたか?』

『そ、そんな個人的なことが話せるわけなかろう』

『そうですか』


ケルベロスはまおーちゃんの耳から口を離すと、一礼します。


『魔王様、応援しております』

『う、うむ‥どっちの応援かは分かりかねるが、貴様の気持ちはありがたく受け取っておこう。くれくれも言いふらすな』

『ははっ』


ケルベロスはまおーちゃんとの話を終えると、控室の出口まで歩いて、そして私に軽く会釈します。私も軽く頭を下げたのを見ると、ケルベロスは控室を出て、部屋のドアを閉めます。

控室は、私とまおーちゃんの2人きりになりました。


「‥ついに来たな、この時が」


まおーちゃんが私に背を向けて話します。


「うん。まおーちゃんと戦うのは怖いけど、私、頑張るよ」

「その意気だ。くれくれも油断するな」


まおーちゃんは、少しだけ私を振り向きます。

獲物を仕留める獣のような、鋭い目で。


「貴様が油断したが最後、妾は容赦なく貴様を殺すかもしれぬ」

「‥うん、私も手加減しないよ、まおーちゃん」


正直そのまおーちゃんは怖かったのですが、私は少し目をつむります。

まおーちゃんと戦うのはまだ怖いけど、戦略魔法の使えるまおーちゃんには負けるかもしれないけど、でも私が死ぬことはないでしょう。

相手がまおーちゃんだからといって、私は手加減しません。

全力で戦います。

私は強いんです。

ここで弱いなんて言ったら、ナトリに失礼だから。


アナウンスに従って、私とまおーちゃんは、グラウンドに姿を現します。

会場を、大歓声が満たします。

私は浮遊しながら、まおーちゃんは歩きながら、歓声に手を振って応えます。

ゆっくり移動して、そして、グラウンドの中央まで辿り着きました。

私もまおーちゃんもお互い向かい合っています。

私もまおーちゃんも、不敵な笑みを浮かべて、相手をしっかり観察していました。


『第767回決闘大会決勝は、我らが魔王様、ヴァルギス・ハールメントと、突如現れた新人選手、アリサ・ハン・テスペルクの対戦です!なお、双方の選手が戦略魔法OKでエントリーしているため、この試合では戦略魔法の使用が許可されます』


興奮気味の実況の声が、会場に響き渡ります。

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