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No.5 父の秘密

 やっと登場人物のフルネームが出てきます。しかし、やっと異世界に着いたのに、扉の前から全然動こうとしない・・・

 「ほうひえら(そう言えば)まららろっれらいな(まだ名乗ってないな)?」


 ・・・食べながらしゃべらないでくれないかな?


 それにしても、こちら側(ネオリク)の食料事情ってどうなっているんだろう? 目の前で猛烈な勢いでカレーライスを食べている彼女を見てると、あちら側(日本)の食べものが珍しいからとか言うより、食事自体をあまりしていないように見えるのだが・・・


 「おかわりっ!」


 うーん、いいんだろうか? 彼女の話が正しければ、おそらくどこかのカレー屋さん(おそらく家の近所の)から盗んでいることになるのだが・・・ 1回は失敗しているとは言え、これまで3回、まあ、こうなったら3回も4回もたいして変わらないか。


 「これが最後だからね。」


 2杯目を食べ始めたが、勢いはそのままだ。カレー屋さんに悪いと思う気持ちと、目の前の彼女の豹変ぶりから、わたしは二度とカレーライスをイメージするのはやめようと思った。スチールの魔法自体を封印した方がよさそうだ。


     *     *


 「私はここで扉の番をしている、テュカ=バードバレーという()賢者候補だ。テュカと呼んでくれて構わない。」


 カレーライス2杯をそれこそあっと言う間に平らげ、ご丁寧に(?)皿を2枚ともに綺麗に舐め尽くして満足そうに息を一つ吐いて、彼女=テュカは自己紹介を始めた。


 「わたしは花澤マユ、こちらの言い方だと、マユ=ハナザワになるのかな? マユだけでいいですよ。」

 「ふむ・・・ 名前の方が後に来るのは、こちらの世界(ネオリク)でも珍しくはないよ。東の方ではそれが普通らしいからな。だが、ハナザワ・・・どこかで聞いたような気がするんだが・・・?」


 そうか、扉のことを知っていた父が、通路がこちら側(ネオリク)に繋がっていることを知らないはずがない。危険がないと確信していたからこそ、わたしに入っていろと言ったのだ。つまり、扉の中、通路のこと、こちら側(ネオリク)のこと、すべての事情を始めから知っていたに違いない!


 「テュカさん、花澤悟という人、もしかして知らないかな? こちらだと、サトル=ハナザワという名前になるのかな?」

 「サトル・・・ もしかしてサトゥール様のことか? しかし、サトゥール様はフラワスワンプという家名だったから、別人なのか・・・?」


 何、その舌噛みそうな家名は・・・? でも、花はフラワーだし、澤は・・・? 以前、自分の名前を検索してみた時、翻訳サイトに飛ばされ、「花澤」がそのまま「hanazawa」と変換されたので、気になって「澤」ではなく「沢」で翻訳してみたことがあった。たしか「沢」は「swamp」と変換されていたと思う。 

 花澤=フラワースワンプ? おい、「ー」を外しただけで、そのままやんか? 何のひねりもないなっ!


 「その、サトゥール・・・サトルというのは、君の何なのだ?」

 「父ですが」

 「なにっ!? いや、それなら納得できるか。これだけの魔法を使えるのは、サトゥール様のお子様なら当然だろう。」

 「えーと・・・ もしかしてサトゥール様とかいう人も、魔法を使えたということ?」

 「何を言っている。サトゥール様は大賢者と呼ばれるほどに高位のお方だ。だが、マユ君がサトゥール様のお子様だとしても、一つわからないことがある。なぜ()()()()()()()()()()()?」

 「何のことかさっぱりわからないよ・・・」


 どうやら、父が実は大賢者と呼ばれるほどの人物だったらしいが、どうにも信じがたい。わたしは大賢者サトゥールについて、テュカに知ってることを話してほしいと告げた。


 「先ほども話した通り、ネオリクの住人は何かしらの魔法を一つだけ使えるが、二つ以上使えるのは稀で、そういう者達が王宮で防衛軍などを組織している。サトゥール様はその総大将を務められておられた。」

 「そのサトゥール様は、どんな魔法が使えるの?」

 「すべてだ」

 「すべて?」

 「私の知る限り、光、火、水、風、土といった基本魔法は当然として、キュアを始めとする回復魔法、君がさっき使ったスチールやサーチなどの特殊魔法なども使われていた。できないことなど何もないと言ってもいいくらいだ。」


 そんな凄いの、おとうさん? でも、魔法なんて使ってるの、見たことないよ? それにわたし自身、扉の中に入るまでは魔法なんか使えなかった。


 「でも、そんな凄い人がどうしてあちら側(日本)に行っちゃったの?」

 「サトゥール様は・・・魔法を失ってしまったのだ」


 始まりは、わたしが出てきた、この扉だったという。


 「この扉は、最初からここにあったわけではないんだ。もう20年も前になるが、ある日突然、ここに現れた。」


 しかし、誰にも扉を開けることができなかったそうだ。扉の前には交代で見張りを置き、昼夜関係なく監視をしていたそうだが、扉の中から出てきた者もいなかったとか。


 「しかし、当時の王が、サトゥール様に扉を開ける様命じたことで、とんでもないことになってしまった。」


 王は大賢者の魔法なら扉を開けるのは容易いと思ったようだ。大賢者は特に害がないなら、魔法を使ってまで開ける必要はないと難色を示したが、結局、王命には逆らえず、扉を開けることになったとか。

 大賢者は扉を開けたが、わたしが最初に入ってきた時の様に、中は真っ暗だったという。


 「サトゥール様は光魔法で中を照らし、お一人で行こうとされたが、私を含め何人かの弟子が同行を申し出て、中に入ろうとした。だが、中に入れたのは、サトゥール様と私だけで、3人目からは中に入れなかった。サトゥール様の魔法で開いていたはずの扉が閉じてしまったのだ。」


 テュカが大賢者を追いかける形で中に入ったところで扉が閉まったので、大賢者自身が扉を閉めた可能性もあるが、先に進んで行った大賢者は後ろを振り返らなかったそうだし、何よりも扉を閉めなければならない理由がない。


 「サトゥール様は、ご自分のお力なら何が起きても対処できるとのお考えで、中を調べることを優先されたと、後に仰っておられた。」

 

 うーん、こういうところは父らしいというか、思い込んでしまうと周りが見えなくなるんだよね。


 「サトゥール様の光魔法は、さっきマユ君が見せてくれたような、かなり強い魔法だったので、私たち以外には中に誰もいないことはすぐにわかった。念の為、索敵魔法も発動したが、虫一匹たりとも感知されなかった。だが、サトゥール様は何も気にされなかったが、虫一匹いないことには私は違和感を拭えなかった。」


 その時点で引き返していたら・・・と、20年近くもずっと後悔しているという。


 「どうやら単なる通路に過ぎないのではないかと結論づけ、反対側に進んで行ったが、半分近く進んだところで、急に光魔法が消えたのだ。」


 最初、テュカは大賢者が自分をからかおうとして、わざと魔法を消したのだと思ったようだ。だが、あらゆる魔法を発動させようと躍起になっている様子が暗闇の中でもよくわかったので、ひとまず、テュカ自身の持つ火魔法でたいまつを灯してみたが、そのまま大賢者の方に近づくと、それも消えてしまったと言う。


 「魔法を失った私とサトゥール様は、来た道を引き返したよ。一度歩いて来た道なので暗くても戻っては来れた。」


 しかし、魔法を失ったからか、大賢者自身が中から扉を開けようとしても、びくともしなかったらしい。だが、テュカがやるとあっさり開いたと言う。


 「いくらサトゥール様でも、魔法が使えなくなれば普通の人より弱くなる、ということだと思った。そんな状態で総大将など務められる訳がない。だが、当時のネオリクは周辺の地域と紛争状態にあり、そんな中、大賢者が魔法を失ったなどということが知れ渡れば、その影響は計り知れない。通路から出る前に、このことは決して口外しないよう、約束させられた。」


 扉の中には何もなかった、そして、何も起きなかった。表向きにはそう公表し、大賢者は王にだけは真実を伝えた。それを聞いた王は、大賢者の総大将の任務を解き、あらたに扉の監視と、魔法を悪用した犯罪者から魔法を剥奪する任務を与えた。

 このことは一般国民はもちろん、王の側近達からも非難の声が上がったが、王は紛争など大賢者無しでも解決できなければ、この国に未来はない、と一蹴したという。事実、大賢者の弟子達が活躍し、紛争はほどなくして平定されたとか。


 「王は、サトゥール様を守る為、『扉の中に入ったものは魔法を失う』ことを秘匿し、『扉の中で魔法を剥奪する』ということにして、それをサトゥール様に一任する形としたのだ。それなら、扉の中のことは誰にも知られず、サトゥール様が魔法を失った様にも見えないので、あとは、このことを知っている私の処遇だけということになった。私は口封じに殺されるかもしれないとも思ったが、サトゥール様が私にも同じ任務を与えて頂けるよう進言なさってくださった。あの時のことは、私は一生忘れない。」

 

 その後、大賢者は何度も扉の中に入り、いろいろ調べていたという。だが、決して反対側の扉は開けなかったという。そう、彼女が現れるまでは・・・

 マユから見たら、サトゥールは娘にメロメロな末期症状的親バカなので、大賢者と言われてもピンと来てません。

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