No.4 扉の向こう側
ようやく(電話の父親を除けば)二人目のキャラクターが登場します。マユとの出会いをどういう形にした方がいいか、散々悩みましたが、こんな感じになってしまった・・・
反対側の扉を目指して歩き出した。途中までは灯りもなく真っ暗な中を手探りで進んでいたので結構な時間がかかったが、今は光の魔法があるし、通路内に危険はないとわかったので、それこそ「あっという間に」反対側の扉にたどり着いた。わたしは、扉を開けようとドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
入ってきた扉は、ドアノブが回らなかった。こちらはちゃんと回る。扉をゆっくりと開けて、外を見るが・・・何も見えなかった。
通路の中と違い、床、壁、天井、すべてが白く、わたしの出している光魔法が反射してまぶしい。
「◎▲◇×、$%##◇*▲◇&♭○□▽?」
誰かの声が聞こえてくるが、何を話しているのかわからない。・・・そうか、やっぱりこちら側は異世界なんだな、とあらためて思ったが、そうなると日本語が通じないのは当然か。翻訳魔法って使えるのかな? どういうイメージが必要なんだろう?
とりあえず、まぶしいので光の魔法を消してみる。すると、目の前に白い服を来た美人さんが見えた。背が高い。近くまで来ると見上げる感じで、手を伸ばせばなんとか頭に届くかも・・・ わたしは、胸じゃなくって身長がもう少し欲しかったと切実に思った。
そして、銀色の長い髪から覗く尖った長い耳・・・アニメで見たのと同じだ、この美人さんは、あのエルフという人なのかな?
そんな簡単にいくかどうかはわからなかったが、とりあえずわたしは、この美人さんと話をしている自分をイメージしてみた。
「♭□▽▲#◇ないか、今の私では翻訳魔法は使えないし、さて、どうしたものかな?」
「わたしの言葉、わかりますか?」
「・・・!?」
美人さんは驚いて少しわたしから離れたが、すぐに気を取り直すと、とんでもないことを言い出した。
「君は、ドワーフか? これは翻訳魔法だろう? なぜ魔法を二つも使える? いや、それ以前に、なぜ魔法が使える?」
「誰がドワーフやねんっ!!」
何か重要なことを言ってた気もするが、「ドワーフ」という言葉の方に過剰反応してしまった。これもアニメで見たが、ドワーフって背が低く、小太りというイメージで、女性は胸がやたらと大きかったような・・・ わたし、胸は確かに大きいかもしれないが、別に太ってないわっ!!
「そう言うあなたはエルフね? いくらなんでも、人をいきなりドワーフ呼ばわりは失礼じゃない? これだから男は・・・」
エルフは男女関係なく美形が多いと聞いていたので、わたしはある1点をみて、この美人さんを男性だと思い込んでいたのだ。
「ま、まて、聞き捨てならないことを言ったのはそちらもだろう!? 私は女だっ!」
「へっ!?」
気がつくと、お互いが自分の胸を押さえて、涙目になっていた・・・
* *
「ごめんなさい。」
これはわたしが悪い。よく考えてみれば、ドワーフの女性の特徴が今のわたしに近いかどうかは別の話であり、わたしの偏見でドワーフを貶めるような物言いをして良いはずがなかった。ましてや、彼女の胸を見て男だと勘違いしたなど、とんでもない話だ。わたしの胸だけを見て「おっぱいお化け」だとか「ロリ巨乳」だとかほざく馬鹿な男子と同レベルの、わたし自身が一番して欲しくないことを、やらかしてしまったのだから・・・
「いや、外見で君を判断した点は、私も同じだ。すまなかった。だがな、知っての通り、我々エルフは成長が遅いんだ。私とて後15年もすれば、君のように大きくなる・・・なるはず・・・なるに決まっている。」
だんだん声が小さくなって、また涙目に・・・ なんか、わたしが苛めてるみたいじゃない!?
わたしは話題を変えてみた。
「そう言えば、どうして魔法が使えるのかって聞いてたよね? こちらの世界では普通のことなんじゃないの?」
「こちらの世界か・・・ どうやら君は本当に向こう側の扉から来たんだね。そうだよ、ここネオリクの住人は、自分で選べるものではないが、何らかの魔法を使える。ただ、ほとんどの人はそれを一つしか使えない。もし、二つ以上の魔法を使えたら、その種類にもよるが、ほぼ無条件で王宮に招かれるだろう。そしてそれが五つ以上なら、賢者になる資格が与えられる。」
わたしは、ここまでのことを思い出してみた。わたしが使った魔法は一つや二つではなかった。光から始まって、水、熱風・・・これはもしかして風と火の融合魔法か? また、カレ-を出したのは? 消えてしまった濡れた服を呼び戻したのは? さらには今発動中の翻訳魔法まで含めると、あれ? わたし賢者の資格ある?
わたしの顔は青ざめていたかもしれない。様子を伺うようにわたしの顔を覗き込み、彼女は言った。
「どうやら、君が使えるのは翻訳魔法や光魔法だけじゃないみたいだね?」
「えーと、なんのことでしょうか? 賢者ってなに? それっておいしいの?」
・・・我ながら、なんというテンプレなセリフだ?
「賢者がおいしいかどうかは置いておくとして、さっきから気になっていたんだが、君はいい匂いがするね。何とも食欲をそそられる匂い・・・ うん、食べちゃいたいくらい可愛いなんて言うが、そんなことを実感するとは思わなかったよ。」
ちょっと意味が違うんじゃ・・・? 彼女は、わたしをじっと見て舌なめずりをしている。うん、綺麗な人はどんな仕草も絵になる・・・なんて悠長に構えてる場合じゃない。
このままでは本当にかじりつかれてしまうと感じたわたしは、カレー抜きではない普通のカレーライスを、それこそ懸命にイメージした。失敗したら食べられてしまう。
「ほう・・・ これはいったい・・・?」
彼女の前には、さっきわたしが食べたものと同じカレーライスがあった。これを出そうとして失敗し、頭からカレーをかぶったことで、今のわたしからカレーの匂いがすることもちゃんと話した。
「驚いたな・・・ それが本当なら、君は無意識にスチールとサーチの二つの魔法を融合したことになる。」
彼女が言うには、実在する物質を手元に引きつけるのがスチールの魔法だが、これはその物質がある場所を明確にイメージする必要があるらしい。
「だから、スチールの魔法は、まあ、忘れ物をした時ぐらいにしか使い道はなく、犯罪に使われることの方が多いんだ。」
ようするに、万引きね。それがある場所がイメージできさえすれば、遠くからでも引き寄せることができるから、店で物色した後で、外へ出てこれを使えば、誰にも知られずに盗めるというわけだ。
「だが、転移防止の魔法で防ぐことができるし、同時にサーチの魔法を使えば、スチールを発動した犯人もわかるので、この手の犯罪はここ数年ほとんど見られなくなったよ。」
もともと、二つ以上の魔法を使える人がほとんどいないこともあって、スチールだけを警戒していればよかったのだとか。
「しかし、サーチが融合されてしまうと、転移防止や同じサーチが付与されているものはスチールの対象から外されてしまうだろうから、ようするに、盗み放題ということになってしまうわけだ。」
これ、すごくヤバい話じゃ・・・ つまり、水や熱風はともかく、カレーライスについては実際にあるものを探して持ってきたことになる。そう言えば近所にカレー専門店があったな? もしかすると、これからお客さんに出そうとしていたものが、目の前からいきなり消えたなんてことがあったのかも・・・
「もっとも、この食べものは明らかにネオリクのものではないし、君がもともといた通路の向こう側の世界のものなら、私がとやかく言うことではないので・・・」
なんかもっともらしいことを仰ってますけど、視線がカレーに釘付けですよ。ヨダレも出てるし・・・
「わたしはさっき食べたので、どうぞ召し上がってください。」
そう言った次の瞬間・・・ あーあ、美人さんが台無しだよ。
彼女の名前は決まってはいますが、なんかマユがいろいろやらかしてしまうので、そのタイミングがない・・・
ちなみに、あちらの世界の名前「ネオリク」は特に意味はなく、なんとなく響きがいいかなというだけで決めてます。