No.39 作戦
ラドルエ側から急襲するつもりでしたが、一度王宮に戻ります。
軽くとは言え、わたしの電撃を喰らった父は、髪の毛が逆立ち、全体的に焦げた感じになっていた。
『マユちゃん、電撃なんていつ覚えたのさ? 王宮での日光といい、驚かされてばっかりだよ!?』
電撃は、ダンジョンの中でグリーンスライムを撃退するために作り出したものだが、日本で電気のことを詳しく知った父でも、魔法で電撃を生み出すことは考えられなかったらしい。
「でも、さっきの話だと、わたしの魔法がそのまんまおとうさんに移っていることになるから、電撃だって、転移だって使えるはずだよ? なんなら、ここに国王陛下でも召喚してみたら?」
『そんなことしたら、リリーが・・・って、まさか、リリーごとこっちへ連れてくれば、回復ができるって考えてた?』
「バレたか!?」
もちろん、そんなことはできない。通路の中には3人目は入れないから、外に出なくてはならないが、ネオリク側はモンスターのいるダンジョンだし、ラドルエ側なんて問題外だ。どちらにしても国王が危険に晒されてしまう。もっとも、わたし達がいるなら、逆に安全かもしれないけどね。
とりあえず、当初の計画通り、わたし達はラドルエ側に出ることにした。
『いきなり攻撃されたりして?』
「近くに敵の気配は感じないよ。」
念の為、索敵魔法を発動したが、やはり扉の周辺には誰もいなかった。誰かを見張りに残すくらいなら、レニーちゃんのような子を2人中に入れて扉をロックした方が戦力を分散させずに済むはずだし、やはり、囮の「先生」を信用しているということか。
ラドルエ側の扉から外に出てみたが、扉は建物の中ではなく、森の中にあった。もうすっかり暗くなっているので、通路の中で発動させていた光魔法があっても、周囲の状況はよくわからなかった。
「こんな辺鄙な場所にあるんなら、そりゃ誰も見張りは立てないよね?」
『ひとまず襲われる心配はなさそうだけど、ラドルエの地理も知らないのに、侵攻しようとしている1万がどの方角にいるのかわかるかい?』
「魔力は食うけど、索敵魔法の範囲を広げるか、あるいは、空から行くか?」
『マユちゃん、飛翔魔法も使えるの?』
「やればできるかもだけど、いきなり本番はちょっと無謀だよね? 失敗して1万の中に落ちたら確実にアウトだろうし。」
『確かに空から日光というのが1番確実だけど、ぶっつけ本番ができたとしても、飛翔魔法と同時に光魔法を広範囲発動するのはさすがに無理だろうね。』
「そうだっ! だったら飛べる人を呼べばいいんだよ!」
『ソフィアかい? でも、彼女の肩書きは王宮魔道士だからねぇ? 僕らが勝手に呼び出すわけには・・・って、そうか、大賢者の僕なら問題ないのか?』
父の肩書きなら、国王の許可がなくても、王宮魔道士を動かせるらしい。だが、王宮の面々は父がわたしの魔法を継承したとは知らないから、今、ソフィアを呼び出してしまうと、それはわたしがやったことになってしまい、後々問題になりかねないらしい。
「どこへ行っても、お役所仕事ってあるんだね? なんか面倒くさい。」
『まあ、陛下の安否にかかわることだけに、仕方ないよ。と、なると、1度戻らないとダメかもな。』
「それってわたしもだよね? でも、わたし、多分無理かも。」
『別にマユちゃん自身が転移する必要はないよ? 僕が連れていけばいいんだからね?』
父がいきなりわたしを抱きしめてきた。だから、別にそこまでしなくてもいいんだってっ!
『あれっ、マユちゃん、転移ってどうやればいいんだっけ?』
「王宮の謁見の間だったっけ? 転移したい場所を思い浮かべて、そこに自分自身を送り込むイメージ・・・って、わたしのほっぺたにスリスリするのはやめろーっ!!」
抱きしめてる父の両腕の力が強くなる。たまらず、わたしは電撃を放とうとしたが、次の瞬間、目の前の景色が変わった。
「其方らはいったい何をやってるのだ?」
ううっ・・・ わたしを抱きしめながら、顔に頬ずりしている状態で転移しやがったよ、このクソ親父!
* *
セクハラ行為をした者には厳罰を与えた。またしても髪の毛が逆立ち、一見しただけでわからないほど容貌が変化したものの、『ヒール』と唱えた瞬間、元の大賢者に戻った。
「サトゥールよ、其方が回復魔法を使ったのを余は初めて見たような気がするが・・・」
『いや、実際、初めてです。使えなかったわけではありませんが、あまり得意ではなかったものですので。』
「そうか、第2の扉の中で、テュカやユリのように以前の魔法が強化されて戻ったということか。マユよ、礼を申すぞ。よく、サトゥールに魔法を戻してくれたっ!」
「あの~・・・ 陛下、詳しいことをあまり説明している時間がなさそうなんですが、とりま、おとうさ・・・もとい、父は魔法が戻ったのではなく、わたしの力をそのままコピーした形になっていますので・・・」
「なんと、其方は自分の力で他者の力を上書きできると申すか?」
「あ、いや、わたしがではなくって、通路の新ルールというか、まあ、詳しいことは事が済んでから、父に聞いていただければいいかと。それよりもっ!」
『陛下、私とマユで吸血鬼どもの一団に空から日光を浴びせてやろうかと思うのですが、ソフィアをお借りしてもよろしいですか?』
「私を? どこまで飛べと言うのだ?」
「リリー、日光が射す中で、霧化してどれだけ上に飛べるかな?」
「うーん、普通に陽が射していたなら自殺行為だからやらないと思うけど、いちかばちかで飛ぼうとしたら、ダンジョンの天井くらいの高さが限界じゃないかな?」
「なら、100メートルは見ておけば平気かな?」
「奴らが弓などを使ってくるとは考えにくいが、その可能性を考えたら、もう少し上にいないと危ないかもよ?」
『広範囲に日光を浴びせようというなら、高度は上げないとダメだし、とは言っても、上げすぎると威力が落ちるからね。難しいところだね・・・』
王宮にネオリクの兵たちが集まっているとは言え、剣や槍では足止めがいいところで、吸血鬼どもにダメージを与えるのは難しいらしい。火魔法なら燃やしてしまえるので有効だが、これだけの数を相手にできる使い手はテュカぐらいしかいないらしい。テュカの場合、普通の矢に火魔法を付与できるので、単純に火魔法を放つよりは広範囲に効果が見込めるが、ラドルエに水魔法を使える吸血鬼がいるとしたら、これは通用しないだろう。やはりわたしと父の「日光」を最大限生かす作戦しかないようだ。
「それなら、コーザを連れていくといい。ソフィアの隠蔽魔法で姿は消せても、光魔法の発生地点はさすがにわかるだろうから、そこをめがけて魔法で攻撃してくるだろうし、もし霧化して近づいてきたとしても、同じ吸血鬼のコーザなら対処できるよ。」
「本当はリリーの方が適役なんだろうけど・・・」
「ボクは、陛下が最優先だからね。気持ちとしてはマユ様一択なんだけど。」
「余の前で、よくそんなことが言えるの?」
『だけど、進軍を止められなかった場合、僕達と一緒に空にいた方が、かえって安全かもしれないですよ?』
「そうかもしれんが、4人も乗せた上に隠蔽魔法まで使うとなると、私の魔力が持たないかもしれんぞ?」
まあ、リリーがいればいざという時、回復できるというのはあるけど、今回はわたしと同じ力が父にもあって、単純に倍は持つ勘定だから、たぶん大丈夫だろう。
「それじゃ、ソフィアさん、お願いしますね。」
「やれやれ・・・ サトゥールよ、後でこの埋め合わせはちゃんとしてもらうからな!」
『わかりまちた、ソフィアたん(バキッ!)』
「そのしゃべり方はやめいっ!」
母が呆れ気味にこちらを見ている。さっき通路の中の真剣な父はどこへ行ったのか・・・ おかあさんも昔から苦労してるんだろうな・・・
なんか、サトゥールが良くも悪くも目立っている・・・




