30話: 復元・取り戻すチャンス
「結衣、なんかポストに手紙入ってたよ。ほいどうぞ。」
仕事から返ってきたであろう母が私にその手紙を渡す。
「私に手紙?誰からだろう。」
「差出人の名前は無かったよ、まぁとりあえず読んでみたらいいんじゃない。」
名前無し、なんだか少し怖いが手紙の中身も気になったので自分の部屋に行き、それを開けた。
「これは...」
恐らく送ってきたのは黒岩くんだろうな、ぱっと見の内容でなんとなくわかった。
手紙の内容に関しては彼の思いが書き連ねられているだけで、何が言いたいのかはよくわからない。
だが、手紙の最後にもう一度会って話をしたいとの旨が書かれていて、恐らくそこで彼の意図がわかるのだと思う。
彼の事を忘れようとしていた所にこんなものを寄越されたら忘れるに忘れられない。
しかも、「黒岩くんに会いに行きたい」と考えている自分が居る。
好きという訳ではない。だが、私の中身を褒めてくれた彼を完全に嫌う事が出来ないのだ。
「一度だけなら、会ってもいいかな...」
私は黒岩くんメッセージを送った。
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手紙を投函したはいいものの、なんか粘着してるみたいで気持ち悪くないだろうか。
俺は不安になったので七原にメッセージを飛ばした。
「手紙書いてポストに入れてきた。だけど白銀さん来てくれるかな?気持ち悪いと思われるかも。」
すると、すぐに既読がつき返事が返ってきた。
「手紙で全ては書かずに直接会うようにしたんだっけか。白銀さんは来るよ、多少の恐怖は感じるかもだけど。」
「怖がらせていいのかな... それに、なんで彼女が来ると言い切れるのさ。」
「人間ってのは嫌なことを忘れるのはほぼほぼ無理なんだよ、現に黒岩も白銀さんを諦めきれなかった。きっと、彼女も同じ。忘れようとしても出来ない、そこで手紙なんて出してみろ。白銀さんは絶対に来る。」
絶対に来る。か、
本当かな、なかなかそうは思えないけど。
「でも、やっぱり不安だなぁ。」
「大丈夫だよ、そこを考慮した上での計画なんだから。今お前が考えるべきは彼女と会った時に何を話すかだ。そこは俺にも、鏡にもサポートする事ができない。」
そうだよな、もし白銀さんが会いに来てくれてもそこで失敗すれば本当に終わりだ。
正真正銘ラストチャンス。ドジはできない。
色々と考えているとメッセージの通知音が鳴る。
そのメッセージは白銀さんからだった。
「おい七原、白銀さんからのメッセージきたぞ。OKが出た。」
「ほらね、来るって言ったろ?」
「疑って悪かった、ごめん。」
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「明日中庭で会いましょう。」
その日はあまり眠る事が出来なかった。
そのおかげか授業も全く頭に入らず、挙げ句の果てには寝てしまい、叱られる始末。
「今日はどうしたの結衣、心なしか顔が死んでるぞ、大丈夫?」
「文香、うん。寝れなかったんだ。」
「寝れなかった、ね。さては何かあったなー。」
「まぁね。でもあんまり心配しなくていいよ、大丈夫だから。」
「そう、結衣がそう言うなら大丈夫だ。でも、ぼうっとし過ぎてると部活でボールに当たっちゃうぞ。」
「ふふ、なにそれ。」
「白銀!危なーい!」
ゴツン
痛い、飛んできたサッカーボールが頭に激突したらしい。
本当にボールに当たってしまった...
「ヒエッ、、ごめんなさい白銀先輩!」田中、お前か。
「悪い白銀、田中に色々教えてたんだけど、あらぬ方向にボールが飛んじゃったわ。」
「中野先輩、いえいえ大丈夫です。痛かったですが気にしないでも。」
「あぁ、って。お前大丈夫か?」
「?」
「お前クマができてるぞ、さっきもぼうっと空見てたし。絶対何かあったろ。」
「それ友達にも言われました。」
今日の私、そんなにひどい顔をしているのだろうか。
「あと、この前ハンバーガー食いに行っただろ?その時と同じ表情してる。何かあったなら相談してほしい。」
「いや、本当になんでもないですから。」
「ダメ、俺も一応先輩なんだからさ... 心配なんだよ、お前の事が。」
色々はぐらかしてみたが、効果が見られない。
もう話さないと返してはくれなさそうだ....
「はぁ... 実は、、」
私は先輩に黒岩関連の話を全て話した。
「それ行くのか?ちょっとヤバイ雰囲気を感じるんだけど...」
「分かってますよ、でも行きます。」
「そうか、別に止めはしないけどさ。話してくれてありがとう、もし何かあったらちゃんと話せ。1人で抱え込むのはやめろ。」
「あの、そんなに私が心配ですか?なんだってそこまで...」
「え?そりゃあ、、心配だよ。」
「どうしてですか?」
「どうしてって、どうもこうもないよ...」
なぜか中野先輩は顔を赤らめている。
この反応はなかなかに謎だ、そこまで私を心配する理由もよく分からないし...
「とにかく、俺はお前が心配なんだ。そこはわかってほしい。」
「あぁはい、頭に留めておきますね。」
「あ、田中くん。中野先輩知らないかな?」
「石神か、ほれあそこ。」
「なんで白銀先輩と話してるの?」
「さぁ、でも色々心配なんだろうね。なんだって中野先輩、白銀先輩の事大好きだから。」
「えっ、そうなの?」
「あぁ、この部じゃ有名な話だよ。」
「へぇ....」
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部活を途中で切り上げ、私は中庭に向かった。
彼は既にそこに居た。
「待ってたよ、白銀さん。」
「黒岩くん...」