17話: 共鳴・一緒の気持ち
「白銀さん、待ったかな?」
今日は白銀さんと映画を見に行く日だ。
「いえ、この前は黒岩くんの方が早かったから。」
「そんな、気にしなくてもいいのに。それじゃあ行こうか。」
俺はもう彼女と話すのに緊張するなんて事は無くなっていた。
友達のような感覚、最初は手足の震えが止まらなかったのに、人間は慣れる生き物だ。
「そういえば、白銀さんは夜ご飯食べた?」
「実は食べてきて無いんですよね。時間が凄い微妙で...」
「じゃあ、映画を見終わったらご飯食べに行く?」
「はい、そうします。」
ご飯の誘いも躊躇なく出来るようにもなった。自分が成長していくのがわかり、とても嬉しい。
「ねぇ、黒岩くん。一応来る前に映画について調べてみたんですけど、結構面白いらしいですよ。」
「俺も調べましたよ。評価とかも高くて、楽しみですよね。」
こんな何気ない会話がすごく楽しい。
これが俗に言う、「幸せ」とやらなのだろう。
お喋りをしながら歩いていると、映画館に着いた。
「着きましたね。あ、ちょっと聞きたいんですけど、白銀さんは映画見る時にポップコーンとか買うタイプ?」
「私は飲み物だけ頼みますね。ポップコーンは量が多くて食べきれないから。」
「なるほど、俺は逆にポップコーン頼んじゃうタイプなので買ってきます。ついでに飲み物買ってきますよ、何がいいですか?」
「じゃあ、メロンソーダ。」
「了解、行ってきます。」
そう言って、俺は館内の売店にポップコーンと飲み物を買いに行った。
「うわ、凄い量。」
彼女は俺のポップコーンを見て、驚愕している。
「それ、晩ご飯食べれなくなりますよ...」
「大丈夫、別腹だよ。」
スイーツは別腹というやつだ。ポップコーンがスイーツかは議論の余地があるが、細かい事は気にしない。
「それじゃあ行こうか。」
チケットを映画館のスタッフに渡し、指定の席に座った。
「結構いい席ね、ここ。ちょうどいい感じ。」
「そうですね、これは俺の友人に感謝です。」
正確に言うと、七原の親戚の人だ。ありがとう、七原の親戚の人。
そう感謝していると、照明が暗くなり、映画が始まる前の他の映画の予告が流れ出した。
ピエロ風のメイクの男が警察に追いかけられている。
今はこんな映画があるのか。そんな風に思っていると、画面が切り替わり、本編が始まった。
お、始まった。
事前に見た情報だと、フランス革命の後の人々の姿を描いたミュージカル映画だそうだ。
結構硬派な感じの映画だが、面白さはピカイチで、評価もかなり高い。
.....これ女性と一緒に見る映画じゃねぇぞ。
いや、今物語の中盤でめっちゃいい所だし、面白いよ? でも、、うーん....
白銀さんはどう思っているのだろうか、彼女の方を見やる。
彼女の目はスクリーンに釘付けだ。
まぁ、楽しんでるっぽいしいいか。
映画が終わり、スタッフロール的なものが流れる。
その後、照明が明かりを取り戻し、映画が終わった。
「うーん、楽しかったぁ!」
白銀さんは背伸びをしている。
「そうだね、しかも結構ボリュームもあったし。」
「最終的にはみんなハッピーエンドって事でいいのかな?」
「どうだろう。海外版の古典みたいなものだし、ハッピーとかバッドとかじゃないのかも。でも、幸せになって欲しいよね。」
映画が結構長めという事もあり、もう夜の10時前になっていた。
「白銀さん、今10時前だ。早くご飯食べて帰ろう。親御さんも心配するだろうし。」
「そうですね、もう店を吟味してる時間は無いかな。そこら辺にあるのは.... ラーメン屋さん。」
ラーメンか、俺はいいが白銀さんはどうだろう。時間もあれだし、その体重的なソレも気になるのでは無いだろうか。
「ラーメンだけど、大丈夫?」
「はい、全然良いですよ。なんなら私好きですし。」
そうだったのか、余計な心配したな。
「へぇ、白銀さんラーメン好きなんですね。ちょっと意外。」
「女の子だからって、舐めちゃいけませんよ。ペロッと食べちゃいます。あわよくばスープも!」
「あはは、本当に好きなんですね。ラーメン。」
俺たちはラーメン屋に入り、ラーメンを食べた。
因みに、彼女はスープまで飲んでいた。
食べ終わった後の彼女の満足そうな顔はとても愛らしく、さらに彼女のことが好きになってしまいそうだ。
「流石にこの時間だ、送っていきますよ。」
「そんな、黒岩くんの親御さんも心配するんじゃ...」
「俺は白銀さんが心配なんですよ、女の子だし。何かあったら俺が困ります。ピアノ聴けなくなりますし。」
「そんなに言うんだったらお言葉に甘えて。よろしくお願いします。」
幸い、白銀さんの家は駅からそう遠くない場所にあり、自分の家からも3駅程の距離なので思ったよりも早く帰宅出来た。
今日は本当に楽しかった。映画を見ている時は同じ気持ちを共有する事ができ、その後の会話も盛り上がった。
もし、俺があの日ピアノの音色を聴いていなければ、こうはならなかっただろう。
いつも通りの退屈な毎日。
でも、今は違う。心から楽しいと思えている。
本当に、毎日が楽しい。
彼らが見た映画はアレです。
みんなも見ましょう