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それは守るための…  作者: キーラック
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後編

「・・・てな感じで、今日は放課後の時間で野球部のキャプテンにインタビューお願いね、準君!」

 転校からおよそ一ヶ月、見学のみのはずだった江本は、結局あの日に美紗の必死なおねだりによって新聞部の手伝いとして活動することになった。正式な部員ではなく、あくまで「お手伝い」のはずなのだが、結局毎日のように美紗に誘われるのでもはや部員とあまり変わらない。

「お、おい。俺一人でインタビューするのか?」

 大体これまでの手伝いは取材に走る美紗に付き添って情報のメモをとるのが主だった。

「いえす! 準君にはそろそろ大仕事を任せようかと常々考えてましたので!」

 まるで自分のことのように嬉しそうに話す美紗。江本は心の中で「これはもう部員の仕事だよな」と突っ込みながらも、目の前ではしゃぐ美紗を見ていると何も言えない気持ちになった。

「ていうか、美紗はなんもしないのか? いつもは率先してインタビューに向かってるのによ」

「うーんとね、今日は私大事な外部の仕事がありますので」

 瞬間、江本は美紗が何かを誤魔化しているような様子を感じたが、詮索するのは失礼だとも思ったのであえて尋ねることはしなかった。

「ん、そうか。まぁ、やれるだけやってみるけどよ。あまり期待すんなよ?」

「うん、準君ならそう言ってくれると思ってたよ!」


「ふぅ、なんとかこなせて良かった・・・」

 あまり人と話すことになれていない江本だったが、途中しどろもどろになりながらも無事にインタビューを終えることができた。

―想像より相手が気さくな良い奴で良かった・・・。

 心の中で安堵していると、江本のスマホが突如鳴り出した。画面を見ると非通知の着信がかかっている。勧誘か何かだろうか。特に気にもとめず、とりあえず電話に出た江本だったが・・・。

「よぉ、江本準。やっとおめぇにたどり着いたぜ」

 電話の奥から聞こえる野太い声。江本は聞き覚えがなかったが、明らかに敵意を向けているのは感じられる。

「お前は何者だ・・・ どうして俺の携帯番号を―」

「村本美紗」

 ドクン、江本の心臓の音が高鳴る。なぜ、この電話の主は美紗のことも知っている? 江本は唖然として言葉を失っていた所、電話の主は続けた。

「美紗ちゃんはなぁ、俺たちの取材をしていたんだよ。ミステリアスな転校生の転校前の話でもしてやろうと思ってなぁ」

 電話の声の向こうから、かすかに助けを求める女性の声が聞こえている。

 ―こいつは、あの不良グループの・・・!

 江本は背筋が凍るような感覚に襲われ、思わずその場でよろめいた。この電話のやつは俺に復讐を果たすため美紗を利用したのだ。かつての親友のピンチが脳内にフラッシュバックし、江本は明らかに冷静さを失った。

「ふ、ふざけるな! 美紗に手を出したら許さねぇ! 絶対に許さねぇぞ!」

「かはは! 察しが良くて助かるわぁ準君よぉ」

「その呼び方をするな! ゲス野郎!」

 江本の声は怒りに震えていた。自分はどうなってもいい。せめて美紗だけは、あいつだけは助けなければ―。

「美紗ちゃんを助けたかったらなぁ、今から一人でこの町の廃車処理場にきな。おっと、言っとくがバックれたり、仲間を呼んだらどうなるかは分かるよな・・・?」

 ブツッ。江本は一方的に切られた携帯を力なく地面にぶら下げた。

 ―結局、こうなるのかよ・・・畜生が・・・!!


 過去の出来事が江本の頭の中で繰り返し再生される。

怒りのままに不良達をなぎ倒した時、そして親友から向けられた畏怖の視線・・・。江本は無我夢中に走り抜け、電話の主が指定した廃車処理場にたどり着いた。

 ―・・・! 美紗!!

 視界の先には、鉄骨の柱に縛り付けられ身動きがとれなくなっている美紗の姿があった。美紗も江本の姿に気がついた様子で驚きと不安が入り交じった様子を見せている。

「準君! こっちに来ては駄目!」

 美紗の元に駆けつけようとする江本だったが、複数の人の気配を感じ立ち止まる。

「よぉ、準君。会いたかったぜぇ。」

 物陰から姿を現したのは、電話の主と思われる大柄の男だった。さらにその男の後ろには仲間と思われる者達が大勢待ち構えていた。

「・・・お前達、俺に何の恨みがあるんだ?」

 江本は、自分の中から沸き上がってくる怒りを必死で押さえ込むように声を絞り出した。

「前の学校であれほどのヤンチャしやがって、どの口が言うんだ? おぉ?」

 大柄の男は下品な笑みを浮かべながら詰め寄る。

しかし江本には微塵の恐怖心も抱かなかった。

「さぁ、純君よぉ。俺たちと楽しもうぜぇぇ!」

「―だ、駄目! 逃げて準君!!」

 一斉に襲いかかる不良達、必死に声を上げ江本の身を案ずる美紗。その中で江本は静かに瞳を閉じた。


 そして物語の冒頭に時は追いつく。無情にも降り注ぐ雨。なぎ倒した不良達に囲まれ立ち尽くす江本。そして、その様子を怯えた表情で見つめる、美紗―

「・・・準君?」

「・・・悪い、美紗」

「・・・え? 準君!!」

 美紗を拘束から解放すると、江本は耐えられなくなり背を向け走り出した。きっと美紗はもう以前のようには接してくれないだろう。そう思うと江本は胸が張り裂けそうになった。

 今自分は雨に濡れているのか、それとも涙で濡れているのか自分でも分からないまま、江本はただ走り続けた。


 後日、江本は学校にも行く気になれず、少しでも気持ちを落ち着かせるためある場所に向かった。そこは、以前の学校の近くにある街全体を見下ろせる丘の上だった。

 この場所は、かつての親友である杉本と出会ったばかりの頃、彼に連れ出された場所である。そこで江本と杉本は、日が沈むまで雑談に花を咲かせながら過ごしていた。

―そうだ、俺にはかけがえのない思い出がある。それを頼りにこれからは生きていこう・・・

 自分に言い聞かせるよう心で呟く江本だが、そんな思いとは裏腹に、江本の頬には涙がつたった。

「・・・美紗。」

「おーい、そこの世界一ドアホのお兄さん!! 何やってんの!」

 聞き覚えのある声がする。江本は顔を上げ振り返ると、ここに居るはずのない人物の姿があった。

「み、美紗!!」

「このドアホ! アホのアホ! アホの天才!!」

 美紗は江本に近寄ると両手でポカポカと体を叩いた。

「・・・天才なのか、アホなのかどっちなんだ」

「うるさい! 私がどんなに心配したか分かる?  あれっきり学校にも来ないし、連絡も取れないしさ」

 美紗は怒っているようなどこか安堵したような表情で江本に告げる。江本は申し訳ない気持ちで一杯になり、どう謝罪しようかと考えながらも、ある疑問について尋ねた。

「どうして、ここの場所が分かったんだ? 」

「私を誰だと思ってるの? 今回ヘマして怖い目には会ったけどさ。私は情報収集のプロなのよ?」

 少し得意げな表情で美紗は続ける。

「あの、ろくでもない不良達からケガの介抱をするお礼に色々聞かせて貰ったわ。あなたが以前の学校で何をしたのか、誰のためにそんなことをしたのか諸々をね」

「この場所は、何で知ったんだ?」

「一番あなたのことを知ってそうな人を考えたときに、あなたが身を呈して守ろうとした親友なら間違えがないと思ったの。特徴はあの不良達から聞いたから、見つけるのは簡単だったわよ」

 江本は美紗の行動力に驚きながらも、事の経緯の全貌を理解した。

「・・・それで、あいつがこの場所を教えたわけか」

「そういうこと。彼、とても申し訳なさそうだった。自分が事件に巻き込んだ罪悪感であなたに話しかけれなかったってさ」

「そんなこと・・・! あれは俺が勝手にやっただけなのに・・・」

 江本は意外な事実を聞き、驚愕した。お互いが恐れていたのは自分を嫌っているのではないかという疑惑そのものだったのだ。

「それは本人に言ってあげなさい。彼、学校に残ってあなた来るのを待ってるらしいから」

 江本は、心からの喜びと今までの自分の思い過ごしに対する後悔に包まれながら、美紗に告げた。

「美紗、本当に、本当にすまなかった。だけど、ありがとう・・・お前のおかげで自分の本当の過ちに気づけたよ」

「ほんとにもう、喧嘩は強いのに気は人一倍弱いのね。」

 美紗は、やれやれと手を振りながらも、少し恥ずかしそうな表情で告げた。

「あの時は本当に怖かったけど、あなたのおかげで助かったわ。あ、ありがとう準君・・・」

「美紗、お前照れているのか?」

 ポカッ。美紗は再び江本を叩く。

「ドアホ! わ、分かってるならわざわざ言わなくてもいいの!」

 美紗は江本の手を引き走り出した。

「あ、お、おい! どこへ行くんだ?」

「決まってるじゃない。あなたの親友の所! さっさと仲直りしなさいよね!」

 江本は感謝した。親友と再び出会えること、そして美紗という人物に出会ったことに。これからはもう逃げない。自分からも、彼女たちからも。江本はグッと拳に力を入れながら、美紗とともに走り出すのであった。

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