表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それは守るための…  作者: キーラック
1/2

前編

 雨、曇天から降り注ぐ冷たい雫は一人の青年、江本準の身体を濡らしていた。江本は静かに空を見上げる。

 ―ああ、また同じ事の繰り返しだ・・・

 江本は力のない笑みをこぼした。彼の周りには致命的なケガを負い、意識を失って倒れている不良達が転がっている。

 ―ほらみろ、あいつ、怯えてるじゃねぇか・・・

 江本の視線の先には一人の少女が唖然とした表情で座り込んでいた。そして、その少女の瞳には恐怖に怯える光が灯っていた・・・


 時を遡ること数ヶ月前、江本は今までの全てを振りだしに戻すため、新たな土地へと引っ越してきた。江本は元々口は悪いが自ら不良行為を行うことなどは決してしないまじめな生き方をしていた人間であった。そう、地元の悪名高い不良高に入るまでは・・・

 その高校では、不良グループの派閥争いが日常的に行われていた。江本は入学したときからその事情を承知していたので、不良グループには関わらないようにうまく立ち回っていたはずなのだが・・・

 事件は、江本がこの高校に入学する動機となった小学生以来の親友が、不良グループの争いに巻き込まれたことから始まった。親友は元々お調子者で危ないことに悪ふざけで関わろうとする傾向があったのだが、それが災いし、不良グループに目をつけられたのだ。


「おいてめぇら、俺の親友に何してくれてんだ?」

 江本は集団でリンチされ、ボロボロになり涙目で助けを求めている親友を目の前にして怒りが頂点に達していた。

「こいつが勝手な真似をしてくれたんでなぁ。悪いけど、あと二三発は殴らせてもらうぜ?」

 そう言いながらヘラヘラ笑う不良を前に、江本は自分の中で何かが切れる音がした。そして、気がつくと先程まで余裕の表情をしていた不良達は一人残らず地面にひれ伏していた。江本の服は不良達を殴った際に浴びた返り血で染まっていた。

「・・・あ、大丈夫か」

 江本はふと我に返り、親友に声をかけようとした。

「う、うわぁ!! 頼む、来ないでくれ! 」

「え・・・ お、おい・・・」

 慌ててその場から逃げ出す親友。しかし、江本はその後を追いかけようとしなかった。逃げ出す直前の江本を見る親友の目は、明らかに怯えきっていた。そう、それは心から江本を恐れている、そんな恐怖の眼差しだった。


 それ以来、江本とその親友だった男は学校で顔を合わせてもお互いに声をかけることはなく、江本は不良グループの一派を一人で壊滅させた怪物として学校中の生徒から恐れられるようになった。

 ―ああそうか、俺は居場所を失ったんだな・・・

 江本は静かに絶望した。ただ守りたかっただけなのだ。唯一無二の親友の身を・・・。

 そして江本は全てをやり直し、今度こそ平穏でまともな生活を送れるようにと他県の高校へと転校した。その学校は名門とは言えずとも、不良の噂は滅多に入らない至って平和な学校であった。

 江本は親友を失った悲しみを抱えながらも、この学校で静かに、波風立てず過ごすことを望んだ。―なるべく人と関わるのも避けよう。そうすれば、また大切なものを失うようなことは起こらないから・・・


「ねぇ、ずーっと窓の外なんか見てどしたの?」

 どこからかあどけない調子の良い声が聞こえる。江本はその声が聞こえた方へと向き直ると、そこには髪を少しだけ茶色っぽく見える髪をセミロングヘアーに整えた女生徒が物珍しげにニコニコと微笑んでいた。

「・・・お前、確か村本美紗ってやつだっけか」

「わお、大正解! いや~、てっきりここは『お前誰だ?』っていう定番の冷たい反応が来ると思ったのになぁ」

 随分と元気なやつだなと江本は素直に思った。どこかこのテンションには懐かしいものを感じる。

「あの、俺になんか用でも?」

「ありありだよ! だって転校生だよ、転校生! 超ビッグな一大イベント様だよ!」

 彼女にとって転校生は珍獣か何かだろうか。江本は怪訝そうな目で様子を眺めていると、美紗はさらに話しを続けた。

「そんな世にも珍しい転校生君に朗報です! じゃじゃ~ん、これ新聞部の入部届! 高校と言えば部活でしょ? うん、これは入るしかないね」

 一方的に話す美紗が江本に突きつけたのは一枚の入部届だった。なるほど、俺は勧誘を受けていたのか。表情を殆ど変えず話を聴いていた江本は納得した。

「・・・悪いが、俺は今んとこ部活がどうとか考えてないんだ。他を当たりな」

「もう! そこはテンプレートに冷たい反応なんだね。つまんないなぁ」

 そう言うと美紗は席を立ち教室の外に向かった。案外、諦めが早いのかと思った江本だが、それは間違いだった。

「じゃ、とりあえず放課後部活の見学においでよ。どうせ予定は空いてるでしょ? 場所は東棟の三階ね!」

「お、おい。俺は一言も行くとは言ってねえぞ。勝手に話を進めるな」

「もう、そんな怖い顔しないでよ。気が向いたらで良いからさ。じゃ、また放課後待ってるね!」

 そして美紗はくるっと踵を返すとなんだか楽しそうな足取りでどこかへ行ってしまった。

 ―やれやれ、やたらと一方的なやつだな。

 ―でも、あんなに一生懸命誘ってくれたんだ。行くだけ行かないと失礼な気もするな・・・。

 江本は根は真面目な性格であり、人の好意を無駄にしてはいけないとつい思ってしまう傾向にある。結局江本は、つれない反応を示していながらも見学に行くだけ行ってみると決意した。


「やっほー! 来てくれると思ってたよ!」

 江本は『新聞部はこちら』と大きな文字で掲げられた看板を見つけ、試しに部屋の中に入ると、美紗が両手を広げて出向かえてくれた。

「えっとー、じゃあ改めて自己紹介するね。私は村本美紗。こちら新聞部の副部長を務めておりまず!」

「あー、俺は江本準っていうんだ。転校したてでまだ分からないことのが多いが、その、よろしくな」

 この学校に来て面と向かって人と挨拶を交わすのが初めてだったので、江本は気恥ずかしさを感じながら名を名乗った。美紗は、ニコニコとした笑顔を向けながら江本の手を引っ張る。

「お、おい・・・」

「ではでは、さっそくこの部活の活動の案内をいたしますね~、お客様どうぞこちらへ~」

 手を引かれながら江本はかつて感じたことのある温もりを思い返した。かつての親友…彼もまた、江本と出会って間もない頃に江本の手を引っ張りながら街中を連れ回したことがある。

「準、俺のとっておきの場所を教えてやるよ!」

 ニコニコと楽しそうな表情を浮かべる美紗とかつて笑い合えてた親友の姿が重なって見える。江本はどこか寂しさを感じながらも、その手綱に身を任せた。


 日も沈んで間もない頃、江本の地元であるS市の廃工場に怪しげな人影が集まっていた。

「・・・そんで、俺の後輩どもをぶちのめしてくれたその江本って奴はどこへ逃げたんだ?」

 巨漢の男が一人、恐らく部下である何人かの若者を従えながら、ある高校生を問いただしていた。

「あ、ああ・・・ 噂によると、M市のちょっとした市立の学校に編入したとか・・・」

 その男はかつて江本の親友であった男、杉本薫だった。彼は江本に助けられた後、殆ど彼と関わる機会を失ってしまったのだが、江本が転校する際に転校先をそれとなく先生達の会話から聞いていたのだ。

「そんじゃあよう、その学校の場所について教えてもらおうかね」

 巨漢の男は明らかに目をぎらつかせながら問いただす。思わず身も震えるような圧迫感を杉本は感じた。

「お、おい! もうあいつは俺たちの学校から去ったんだ。これ以上関わろうとしなくても―」

 次の瞬間、巨漢の男は杉本の襟首を掴み、軽々と片手で持ち上げた。

「おいおい、ここまで話しといて内緒にするこたぁねぇだろ? なんだおめぇ、未だにそいつに友情でも感じてんのか?」

 ぎりぎりと首が絞まる感覚に杉本はかすれる声で助けを求める。

「かはっ・・・わ、わかった! 話す、話すからこの手を離してくれぇ!」

 どさっ、と杉本の体が地面にひれ伏す。必死で呼吸を整えると杉本の頭上からはゲスじみた笑い声が木霊した。

「・・・準、俺は最低最悪なやつだ」

 杉本は自分に対して吐き捨てるように呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ