稽古と事情と誓い
次の日、公平はリューナ、ゴーイム、グルドリムからそれぞれ魔術、格闘術、剣術を教わろうとする。その中で公平は二つの能力に目覚めると共に、魔族が非魔族領土にいることを知り魔族を助ける事を誓うが
次の日、早速公平はリューナ達から魔術を教わろうとしていた。
「それにしても、リューナ様達の家はでっかいですね。」
昨日は驚いた。魔王であるからにはそれなりの家に住んでいるんだろうとは思ったが、あそこまで大きいとはサグ◯ダファミリアの完成形のようだった。
中も広く、無駄に部屋が多かった。しかも執事やメイドといった雇い人が100人は超えていただろう。
「まさかこの世界でメイド服が見れるとは。」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、何も。魔王の家はどこもあんなに大きいんですか?」
「あぁそうだ。家の大きさは、その主人の権力の大きさを示すからな。でも広すぎるくらいだったから気にするなよ!」
「は、はい!」
ゴーイムさんは本当に優しい。これで魔族なのがもったいないくらいだ。
「それじゃあ俺が今日から公平に教えるのは格闘術だ!」
格闘術?魔術は一体どうしたというのだろうか。
「格闘術ですか。そのー魔術の方はいつ教えてくれるんですか?」
「悪いが、俺は魔術はあまり得意じゃなくてな、その代わり格闘術は得意だからな。格闘術をお前に叩き込んでやる!」
「は、はぁ。」
「と言っても魔術が効かない種族もいる。そういう時に格闘術は使えるから覚えておけ。」
ゴーイムさんが言うことだから信じて教わろう。公平はゴーイムにはかなりの信頼を置いていた。
「今日は格闘術を教える前に公平の身体能力を見させてもらうぞ。」
「はい!」
公平は不登校であったが、その前までは母に勧められて色んなスポーツをしていたので、運動神経は良い方だと思っていた。
「じゃあ、まずは足の速さだ。あの木の所まで全力で走ってこい!俺はゴールで待ってるからな。」
「わかりました。」
「それじゃあいくぞ。」
「よーい、スタート!」
その言葉と同時に公平は、右足を思いっきり踏み込んだ。すると次の瞬間、右足を蹴り上げた途端に一瞬でゴーイムを通り過ぎその先の岩にぶつかった。
「大丈夫かーーー?公平ーーー?」
「イテテ、はい大丈夫です。」
「・・・!これは・・・」
公平がぶつかった岩は粉々になっており、公平は頬に軽い擦り傷を負っただけだった。
「えっ?嘘でしょ?これ俺が」
ありえない。いくら運動神経に自身があってもこんなのアスリートでも無理だろう。
「なんで急にこんな・・・」
試しに公平は少し力を入れて垂直飛びをしてみた。すると、建物で3階ほどの高さまで飛ぶことができた。
だが、経験した事のない高さに公平はビビることしか出来なかった。
「だ、だ、誰かーーーーーー!」
半泣きになりながらもひとりで勝手に落ちていき、最後は綺麗に着地した。
「はぁー、怖かったー。ゴーイムさん少しは助けてくださいよー」
冗談半分で、笑いながらゴーイムの方を見ると、ゴーイムは公平を驚いた目で見ていた。
「お前、今のは生まれつきなのか、それとも何か特別な訓練でもしたのか?」
「いえ、生まれつきでもなければ特に鍛えた訳でもありません。なんか急についたと言うか、そんな感じです。」
今思えば、公平には心当たりがあった。プールでもよくある事だが、長時間水に浸かった後水から出ると、異様に体が重く感じるあれだ。
今回異世界に来た時、公平は体が重く感じなかった。むしろ軽くなった感覚だった。
「だから特に気にならなかったのか。」
ようやくこの身体能力の謎が解けた。つまり、公平がいた世界とこの世界では重力に差があり、こちらの方が軽いということだ。
つまり、この時点で公平はかなりのアドバンテージを得たということになる。
そう分かった瞬間、公平は希望と興奮で幼稚園児のようにはしゃぐことになるところであった。
「ゴーイムさん身体能力はどうですか?」
「もちろん、合格だ。明日から格闘術の本格的な修行を始めるから、覚悟しておけよ!」
「はい!」
公平はすぐに分かった。ゴーイムは作り笑いをしているだけで、内心はかなり驚いており、すぐにリューナに報告することを。
「じゃあ、次はグルドリムに剣術を教わるといい。」
「グルドリムさんは剣術が得意なんですか?」
「あぁそうだ。リューナが魔術、グルドリムが剣術、そして俺が格闘術に特化しているんだ。だからグルドリムに教わるといい。あいつはこの領土では剣術において右に出るやつはいないくらい強いからな。たくさん技を吸収してくるといいさ!」
「わかりました!」
「今の時間なら海辺で一人稽古してると思うから行ってみるといい。」
「はい。」
ゴーイムの言われるがままに海辺に行くと、一人でグルドリムが剣術の稽古をしていた。といっても剣を海に向け目をつぶって、じっとしている。
「あの、グルドリムさん・・・」
「はーーーぁーーーっ!」
次の瞬間グルドリムは剣を思いっきり斜めに振りかざした。すると振りかざした跡が海へと放たれ、海が数十メートル真っ二つになった。
「すげー!」
「なんだ公平いたのか。」
「あっ、はい。ゴーイムさんがグルドリムさんから剣術を教わるのが良いといわれまして。」
「なるほどわかった。それじゃあ教えよう。」
「いいんですか?ありがとうございます!」
グルドリムも無口なだけで意外と優しいのかもしれない。
「まず最初に説明しておくと、俺達第五魔族が使う剣術の流派は、その領土の魔王の名前をとる。」
「ってことはつまり、リューナ流ってことですか?」
「そういうことだ。さっきお前が見たのはリューナ流の技の一つだ。」
グルドリムの話を踏まえると、この世界の剣術は少なくとも七つ以上の流派があるということになる。
「とりあえず、今日はこれで終わりだ。」
「えっ、でもまだ流派を教わっただけですよ。」
「あぁ、だが一番身につけるのが難しい魔術に時間をかけるべきだ。」
「そうなんですか。」
「リューナ様はおそらく家の図書室にいるはずだ。そこに行って教わるといい。俺との稽古は明日からだ。」
あまり納得はいかないが、とりあえずリューナのもとへと行ってみる。
図書室の中はとても広く、数えきれないほどの本があった。
「おおー。すごいなぁー。」
ものすごい本の量だか、どうやら字は読めないようだ。
しばらく図書室の中を散策していると、リューナを見つけた。
リューナは熱心に何かの本を読んでいた。
「何読んでるんですか、リューナ様?」
するとリューナは驚いた表情で、公平を見つめた。
「こっ、公平か。ど、どうした?」
「魔術を教わりに来たんですが、大丈夫ですか?」
「まっ、魔術か分かった。」
まだ驚きを隠せない様子だったが、承諾してくれた。
「じゃあ、まずは公平の適正チェックをする。利き手を出してくれ。」
公平が右手を差し出すと、リューナはその手を握った。
するとその瞬間、公平の全身に電気が走った様な感覚が起きた。
電気が走った後、脳裏には図書室の壁に大きく穴があき、そこにはゴーイムが気絶している。その穴の延長上は地面ごとえぐられており、その先には公平がいた。
(なんだこれは。誰かの記憶か?)
そしてその視線はゴーイムに近づいて行った。ゴーイムの近くには窓の破片があり、そこにかすかに映ったのはリューナだった。
(もしかしてこれは、リューナ様の視点?)
「お、おい大丈夫か公平?」
公平は冷や汗をかき、若干の過呼吸になっていた。
「だ、大丈夫です。ところで俺の適正は分かったんですか?」
「それが、公平に適正する属性は無かった。そもそも公平からは、魔術を使うための魔術エネルギーが全くない事が分かった。」
それもそうか、もともとこの世界の人間でなかったのだから。
「ってことはつまり、俺は魔術が使えないってことですか?」
「そ、そういうこと。」
「ま、まじですか。」
せっかくの魔術が使える異世界、どうせなら使ってみたかった。
それに同情してくれているのかリューナの表情が暗い。
「ん?どうしたんですかリューナ様?」
「公平は私達魔族のことどう思ってるの?」
「どうって言われても、俺は優しい人達の集まりって感じですね。」
「優しい・・・」
公平の思わぬ言葉にリューナは少し驚いた様子でその後嬉しそうに微笑んだ。
「どうして急にそんな事を聞くんですか?」
「魔族はドラゴンの一件から、ずっと非魔族から迫害を受け、相当恨まれているんだ。魔族は今も非魔族領土にもいるが、彼らはもう奴隷としてしか扱われない。奴隷以外の魔族は干渉する事が契約によりきないから助けに行くことも出来ない。」
公平はこの時久々に苛立ちを覚えていた。こんなに可愛い子に不安と心配をさせる非魔族に一発喝を入れてやろうと思った。
(俺に出来る事、俺は非魔族に分類されるってことは・・・)
「なら、俺に任せろ!」
「何を?」
「俺が強くなって非魔族領土にいる仲間を全員連れて来てやるさ。」
「本当に?」
「あぁ、この世界の事や今こうやって色々を技を教えようとしてくれてるお礼だ。」
「でもそんなことしたら・・・」
「大丈夫だ、俺は魔族の味方だ。たとえ敵対関係であっても、俺は魔族を守ってみせる!魔族には手をださないって誓うよ。」
公平の言葉に嬉し涙を浮かべたリューナに、公平は頬を赤くして照れていた。
「ありがとう公平。私達も全力でサポートするわ!」
「ありがとう。これからもよろしくお願いします!」
これからもっと強くなって、魔族を守る。誓ったからには守ってやる。
そう思っていたのに・・・
次の日、公平は誓いを守れず、ゴーイムを吹っ飛ばしてしまい、気絶してしまった。
「や、やっちまった・・・」
読んでいただきありがとうございます。もう少し話を早く進めるようにしていきたいと思いますのでよろしくお願いします!また、感想、意見があればお待ちしています。