漂流そして魔王との出会い
謎の少女こ声とともに再び息を吹き返した公平、そして彼はとある島にたどり着いた。だか、そこにいたのは魔王と名乗る人だった。そして、公平は異世界に転生したことを初めて知るのであった。
(苦しい)
(息ができない)
真っ暗な空間の中で公平は動けずにいた。少しでも動かそうとするもビクともしない。
「大・・・丈・・・夫・・・だよ」
「安心・・・して・・・私・・・が・・・いるから」
「生き・・・て・・・」
聞き覚えのない声。一体誰の声なんだろうか。そんなことを考えていると、ふと公平の視界は光に包まれた。
体が動かせる。でも息ができずに苦しい。そして手がしびれてくる。
(なんだ、右手が痺れ・・・)
ふと右手を見ると見たことのあるキノコのような形をした生物。クラゲだ。どうりで痛いわけだ。
クラゲがいると考えると、やはりここは水中!そうはっきりと自覚した瞬間猛烈に苦しくなった。
(早く呼吸をしないと)
体内にあるすべてのエネルギーを駆使してなんとか海面に出ることができた。
「ぷっはーーー!生き返るー!」
「というより本当の意味で俺は生き返ったのか?」
「とりあえずここはどこだ。」
しかしあたりを見回すと360度すべて海であった。
そして唐突に記憶が蘇ってきた。
「そうだ、俺はあの時・・・」
家族は無事だろうかまず公平はそのことで頭がいっぱいになった。
「みんなを探さなきゃ」
そう決意を固めるも辺り一面の海。いくら泳いでも拉致があかない。そう悟った公平は救助が来るのを泳がずに波に身を任せ待つことにした。
今この状況で泳いで体力を失えば死ぬ確率が高いと考えたからだ。
「とりあえず、何か浮かぶものはないかな」
だが、周りを見渡しても何もない。
そこで公平は小学校で行った着衣水泳で教わった方法で切り抜けることにした。
「確か仰向けになって、服の中に空気を入れてってと。」
多分これでいいだろうとそのままじっとしていた。周りから見たら妊婦にでも見えるような腹の膨らみっぷりだった。
「あとはこのまま救助が来るのを待つだけだ。」
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この体勢で何時間経ったろうか。もうそろそろ夕方になってしまうが、未だ救助が来る気配はない。
「このままじゃまずいなぁ」
もうそろそろ意識が飛びそうだ。
しかしそれを耐えながらも何か良い方法はないかと考えていた時、突如周りが霧で覆われていった。
「なんだ急に。」
霧のせいで一、二メートル先までしか見えない。これでは救助に来た人たちが気づかないかもしれない。
そんな不安を抱きながらも海の流れは関係なく、霧の中をどんどん進んでいった。
すると、霧の向こうで逆さまの三人ほどの人物が手を振っている。
いや、逆さまなのは公平自身が逆さまで見ていたからだった。
「これが、三途の川ってやつなのかな」
あそこにいるのは誰だろうか、もしかして家族だろうか。
「みんなやっぱりあの時・・・」
少し悲しかったが安心感もあった。やっとこれでみんなの元へ・・・と。
「おーい。父さーん、母さーん、ゆめこー」
大きく叫ぶも反応が無かった。未だに手を振り続けている。
そこで、仰向けから体を戻し、次は大きく手を振ってみる。
すると手を振ったのか気づいたのか、次は飛び跳ねて手を振り始めた。
その期待に応えるように公平は三人のところへ向かって泳いでいった。
ようやく足がつくようになり、久しぶりに地に足をつけた。
(三途の川を渡りきったという事は、俺も死んだのか。それよりも早くみんなのところに)
そして顔についた土や水を拭い、三人の方へ目を向けると、そこには家族ではなくいかつい男が三人立っていた。
一人は背が高く筋肉がしっかりとついた大型のハゲた男、もう一人は身長体格共に普通の男。だが髪の毛が目にかかっていてよく見えない。そしてもう一人は小柄の女の子だった。その女の子は140cmで、髪の毛が膝裏までかかるほど長く、綺麗な白髪だった。
とりあえず、こういう場合は怪しまれないように挨拶をすることが肝心である。さらに付け加えるならば、自分は助けが必要ですアピールが出来れば上出来だと思っていた。
「あのーすみません。旅行中に大波に巻き込まれて船から飛び出してしまって漂流してきたものなんですが。ここはどこでしょうか?」
久々の家族以外との会話だったがいい感じに挨拶ができたと、若干の達成感があった。
だが、三人組は顔をしかめて公平を見つめていた。
「あのー?聞こえてますか?」
日本語が聞き取れないのだろうか。確かによく見ると、男二人もほりが深く、目の色が緑色と日本人というよりアメリカやイギリスと言った外国人の顔だ。
とりあえず、少ししか話せないが英語で意思疎通を試みる。
「アー、ハロー。アイムコウヘイ、ナイストゥーミートゥー。」
だが英語でも、意思疎通を図る事は出来なかった。
「この人達は何語を話すんだ?」
「おめぇ、さっきから何をぶつぶつ言ってやがる。」
「なんだ普通に話せるのかよ。」
「おい、聞こえねぇのか。あまり俺達をなめるなよ。」
「はいはい、聞こえてますよ。ところでここはどこですか。」
ちょっと態度が悪かっただろうか、少し不安に思ってしまった。
「お前、ここがどこかわかんねぇのか?」
「気づいたら海の上にいたもので、全然ここがどこかは分かりません。」
「なるほど、なら教えてやるよ。ここは第五魔族領土だ。そしてここにおられる白髪のお方こそ、この第五領土の魔王ウォーシャル・リューナ様である!」
未だに大男しか話してない。こいつしか話せないのか?
それにしても第五魔族領土?一体どういう事だ?こいつらイタイ中二病なのか?
世界で五番目にでかい面積の国ってことか?
「つまり、ブラジルって事ですか?」
「なんだ、ブラジルって?」
どういう事だ?こいつらが嘘をついてるとは思えない。という事は外部からの情報が入らない離島なのか。
実際、こいつらが来ているのは独特のローブのような服だ。
いや、でも魔族というのが本当ならば離島は考えにくい。
「ちなみに、魔族というのは?」
「聞いたままだ。魔術が使えるある部族のことだ。」
やはり、どうやら俺はあの大波で一度死に、あの霧とともに異世界へと転生を果たしたという事だ。
ならばここは情報収集の為に、この人たちと友好関係を作らなくてはならない。
「なるほど。誠に申し訳ございませんでしたリューナ様。勝手にあなた様の領土に踏み込んでしまい。」
今まで公平のことをずっと睨んでいたリューナだが、公平の丁重な挨拶により、ほんの少し目が優しくなった気がした。
「申し遅れました。俺の名前は尾山公平と申します。」
すると、リューナは少し頬を赤くした。
「お、おう良いだろう。魔王としてお前の上陸を歓迎しよう。」
意外とあっけなく許されたものだ。しかし、このリューナの反応と言葉といい、公平ははっきりと分かった事がある。リューナもコミュ症だ。少し安心した。
だがもう一人の男は黙ったままだ。こいつもコミュ症なのだろうか。
「リューナ様が歓迎したのならば、お前は立派な客人だ。歓迎しよう公平!俺の名前はゴーイムだ。よろしくな!」
こいつは本当によく喋るなでも体格もいいし、色々と頼れそうだ。
「そしてさっきから黙っぱなしのこいつが、グルドリムだ。無口だが時々話しかけてやってくれ!寂しがり屋だから。」
笑顔でグルドリムの肩を叩きながらゴーイムは言った。だが一向にグルドリムは無表情だ。
「はぁ、よろしくお願いします。」
でも、安心した。言葉は通じるし魔王と言いながらも案外優しそうだ。
あとはこの世界の大まかな情報と衣食住の確保だ。
まずはこの世界の情報からだ。
「ここが第五魔族領土って事は他にも魔族領土はあるんですか?」
「お前、本当に何も知らないのか?」
「はい、本当に何も知らなくて。色々と教えてもらえないでしょうか?」
「いいだろう。このゴーイム様が色々と教えてやろう。だが、俺らの家に帰りながら話すからついてこい。」
そう笑いながら言うと、色々とこの世界のことを教えてくれた。ゴーイムさんは本当に優しい。
ゴーイムさんの話によると、この異世界には七つの魔族領土があり、魔族領土の他にも人族やエルフが住む、非魔族領土があると言う。
そして今から500年前、魔族と非魔族の間で大きな戦争があったらしい。
きっかけは七領土の魔王が生み出した、ドラゴンであった。
もともとこの世界にはドラゴンは一匹しかいなかったらしい。そのドラゴンは非魔族の象徴と言える存在だったと言う。
だが魔王達が生み出した二匹目のドラゴンが元いたドラゴンへと攻撃を始め、そこから二匹のドラゴンによる長い戦いが始まったと言う。
そして、魔王達が生み出したドラゴンを殺す為に立ち上がった非魔族と、魔族による戦いが起こった。だが、ドラゴンと戦争による被害は、両者に多大な被害を与えた。
その為魔王と非魔族の代表が集まり、お互いのドラゴンを強制封印するとともに、今後一切の干渉を禁ずると言う契約のもと、戦争は終わり、今に至るらしい。
「もし、契約が破られるとどうなるのですか?」
「もし、破られた場合ドラゴンが復活し相手の領土を滅ぼす事になっている。」
「なるほど・・・って俺バリバリ盟約破ってませんか?」
「俺もそう思ったが、リューナ様に何も反応がなかったから大丈夫だ。だがそこが不思議なんだ。」
確かに。公平が異世界から来たからなのか特に嫌な予感もしなかった。
「ちなみに、それ以降契約が破られた事は?」
すると突然、ゴーイムは険しい表情をした。
「それが、つい一週間前に破られた。しかも破ったのは魔族と非魔族どちらもだ。」
「って事は二匹とも・・・」
「あぁ、だが非魔族側の白いドラゴンが異世界に転移させられて、今は落ち着いているようだ。」
その瞬間、公平は背筋が冷える感覚に陥った。
「ちなみにドラゴンの特徴とか分かっていたりします?」
「非魔族側のドラゴンか?」
「はい。」
「確か攻撃するときに雷を放つって聞いた事があるな。外見はようわからんが。」
公平が見たドラゴンそのものだった。その時、ドラゴンに襲われた時のことを思い出し、明らかに頭から血の気が引いていくのがわかった。
「大丈夫か?顔が青いぞ。」
「はい大丈夫です。」
一度ドラゴンに殺されたが、こうやってもとどうりだ。これから公平はもうやられないように、強くなろうと決心した。
「ゴーイムさん、グルドリムさん、リューナ様、どうか俺に魔術やこの世界のことをもっと教えて下さい。その為なら俺、なんでもします!」
ここまでやる気になったのはいつぶりだろう。だが絶対に強くなってみせる。他の家族の分まで。
するとリューナの口角が少し上がった。
「いいだろう尾山公平。お前に私達が知りたいこと全てを教えよう!」
「本当ですか⁈やったー!」
(尾山公平、こいつはもしかしたら・・・)
絶対に強くなってこの世界で生き延びる。それが当分の目標である。公平はそう決心した。
(漂流先が異世界とか信じられなかったが、やるしかない。もし家族が生きているならば、今度はちゃんと守れないと。)
こうして尾山公平の新たなる生活はスタートした。
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その頃第三魔族領土では一人の忍者のような男が木の幹に話しかけていた。
「ダイスケ様、尾山公平が第五魔族領土にて生きておりました。」
するとその声は、木のてっぺんへと流れていった。
「公平、溺れ死んでいなかったか。流石俺の息子だな。まぁいずれ殺せる日が来るだろう」
今回も読んでいただきありがとうございます。今後はより一層話を面白く展開できるように頑張りますので次回もよろしくお願いします!