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八龍士  作者: 本城淳
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八龍士の謎

ー横浜木藤家セーフハウスの客間ー


「粗茶ですが」

恵里香が健斗をキッと睨み付けながら流木明ら三人にお茶を出す。

何故恵里香が健斗を睨んだのかといえば、すぐに3人を門前払いしようとしたからだ。恵里香は問答無用で玄関を閉めようとした健斗を慌てて止め、3人を招き入れる。

早朝という常識外の時間に訪問してきた彼らに対しては恵里香も思うところがあるが、それにしたって用件も聞かずに追い返そうとする健斗も健斗だ。

客間には普段着に着替えた信、健斗、旭が上座に座っており、テーブルを挟んで下座に麻美、明、威圧的な女が座っている。

一応はこの家の家長は健斗となっているので上座の真ん中には健斗が座っているのは自然なことである。

そして反対側の真ん中には明が座っているということは、『八龍士』側のリーダーは明なのだろう。

客間は和室になっており、土間や神棚、掛け軸等の一通りの物は揃っている。

何気にこの部屋に……いや、家その物に客を招く事は初めてのことである。もっとも、リビングを始めとしたほとんど全ての部屋が目も当てられないくらいに散らかっており、この部屋しか明達を通す部屋が無かったのだが。

「いやいや、粗茶なんてそんな……お姉さん並みに美味しそうなお茶じゃないですか」

明の言葉に頬を染めて照れる恵里香だが、ちょっと待ってほしいと思う木藤家の3人。

「お上手ですね♪イヤですよ、美味しそうだなんて…え?美味しそう?」

そう、聞こえによっては卑猥に聞こえる内容だ。

「こほん、失礼しました。キレイなお姉さんが淹れるお茶なんですから粗茶な訳がありませんよね?ホントに失言でしたよ♪」

「あ、あははははは……」

恵里香は然り気無く明と距離を取り、残る客にお茶を配る。

(こいつ……軽そうなのは見た目だけじゃないな……)

異口同音とは言うが、心の中で健斗達が思ったのは同じことだった。

もしかしたらわざと誤解を生む言い回しをしたのかも知れない。昨夜に見せた強さや不気味さとは裏腹なこの態度の違いは逆に底が見えない。深読みをしすぎなのかもしれないが。

「雑巾の絞り汁で充分だろ。こんな奴ら」

こちらも敢えてわざと言ったのか、信が冷たくいい放つ。

「こら!信くん!しっ!」

歯に衣着せぬ信の物言いに恵里香が叱責するが、信に反省する気はまったく無いようで、行儀のぎの字も無いような座り方をし、右耳の穴を小指でほじっている。態度が悪いなんてものじゃない。友好的にする気がまったくないのは明白である。

「おいおい信。あまりにも失礼だろ。雑巾の絞り汁なんてあまりにも礼を失しているぞ」

対する旭はキチッとした正座をし、背筋もピンっと伸ばしている。

滅多に見せない旭のその凛とした佇まいに思わず見惚れそうになる恵里香であったが、それもここまでだった。

「恵里香。お茶漬けを持ってきてくれ」

居住まいと言っているその内容のギャップにずっこけそうになる恵里香。

京都に拠点を置く木藤に雇われているだけあって恵里香も京都人の常識は弁えている。

京都人の会席料理などの席で、お茶漬けが出たときは、もう会食や宴会が絞めに入ったという意味だ。これ以上何も出ない。即ちもうお開き……という意味である。

話が始まらない内からお茶漬けを出せと言った旭の言葉の意味は……遠回しに『話すことは何もないからとっとと帰れ』という意味である。

関東人である旭が何で京都の隠語を知っているのかはこの際は置いておくとして、客人をもてなす気がまったくない事だけは恵里香にはっきり伝わった。

「お?気が利くな。実は腹が減ってたんだよ」

しかし明は意味を知らないのか、パチパチと手を叩いて喜ぶ。

「明。遠回しに帰れって言ってるのよ」

メガネ女が冷静に明に突っ込む。

「真樹。知ってるよ。帰る気が無いってこっちも遠回しに言っただけだから」

「そう。なら良いわ」

メガネ女の下の名前は真樹と言うらしい。

それにしても明も中々図太い性格である。

お茶漬けを出せ=さっさと帰れ…という意味を知っているのならば、よほど気の長い人物でなければ普通なら怒って帰ってしまっていても不思議ではない。

にも関わらず、意味を知ってる上で帰るどころか無知を装って更に居座ろうとしている辺り、心臓に毛が生えていると言える。

明だけではない。麻美は爆笑しながら腹を抱えているし、真樹も立ち上がる素振りはまったく見えない。

「ちっ……」

あからさまに舌打ちをして旭も諦めたように黙る。

「はっはー!面白いな?お前ら。実際はそれほど互いの仲が良くないくせして、息が合ってるじゃないか」

「……………」

「沈黙は肯定……だぜ?3人とも」

場の温度が数度下がる。

遊びは終わりだ。3人とも既に裏の顔に変わっている。

「何を知っている?流木明、塚山麻美、それと……」

健斗が自分でも驚くくらいに低い声を出して睨む。

「花月真樹よ。明と麻美と同様に、あなた達と同じ(・・)だけど」

「それは和田旭や安倍信と同じ……と言うことか?」

旭がそう言うと、花月真樹はメガネをくいっと上げる。

「ええ。あなた達の事情は全て知っているわ」

「!!」

そう、明が指摘するように健斗、信、旭の3人は仲が良くない。むしろ健斗はともかく、信と旭の実家は不倶戴天の敵同士であるし、健斗の実家である木藤も安倍と和田の本家にとっては分類すれば敵である。

今でこそ信と旭は利害一致の関係から実家を飛び出て木藤を頼り、健斗を交えて共同生活を送ってはいるが、昔は本気の殺し合いをしたことも何度かある。

安倍と和田の本家は日本の闇に深く根付いており、そして歪んでいる。特に闇の気を扱う和田の歪みは深刻であり、旭が高校の日常に溶け込んでいるのは奇跡に近い。

そして旭程では無いにしても信の歪みもまた、根深い。

健斗が二人と共に生活しているのも監視の意味合いが強かったりする。

二年前のこの二人は何かにつけて互いを排除しようとしていたのだから、もし健斗がいなければ今頃はどちらか一方……もしくは両方が死んでいた可能性もあった。

だが、その事実は当事者である3人と、木藤の一部の者しか知らない。

「恵里香さん。すいませんが、席を外してもらえませんか?この三人はただの客では無いようです。それに、俺達の朝食もお願いしたいですし」

健斗が恵里香に対して出ていけと促す。

元々普通の客では無いことは解っていた。だが、ここまで事情を知っているとは思っていなかった。

先程から何の話をしているのかちんぷんかんぷんな恵里香は、しかしこの異様な雰囲気を放って逃げ出して良いかどうか迷っていた。

「恵里香さん。失礼な言い方ですが、あなたは所詮は使用人です。雇い主の込み入った事情に深入りするのは良くないですよ」

「少しばかり長くなりますし、プライベートに関わる話になりますので、恵里香さんはお仕事をお願いします」

普段、信と旭が恵里香に対して敬語を使うことはない。それは信頼している形を態度で示していたものであるが、今この場では恵里香は他人だと言外に示した態度である。

「え、ええ……わかったわ」

3人の態度にいささか傷付いた様子ではあるが、込み入った話であることはわかったし、何より聞かれたくないという態度が三人からひしひしと伝わる。

それに言い方はキツいが、三人が言っていることも事実だ。所詮、自分と三人は使用人と雇い主の息子とその同居人の関係。

少し砕けた距離感で接していたものの、その事実は変わらない。恵里香は一礼した後にそそくさと客間から出ていく。

……そして、彼女の気配が充分に離れた後、健斗が口を開いた。

「で、お前らは何故、普通では知り得ない事を知っている?お前も八龍士とやらの一人か?」

「ええ。私は雷の八龍士。もっとも、私は明と違って肉体労働は苦手だけど」

八龍士にも色々いるらしい。

「そもそもだ。八龍士ってのはなんなんだ?」

信が尋ねる。

現段階では自分達よりも強い力を使いこなす明と麻美。わかっているのはそこだけで、その全容がまったくわからない。

「あははは…そうだよね~。あたしもよくわからないんだけど」

当事者のお前もわかってないのかよ…。健斗達はとりあえず麻美を無視することに決め、明と真樹の反応を待つ。

「この国だと八岐大蛇(やまたのおろち)が有名だろうな」

「はぁ!八岐大蛇ぃ!?日本神話の化け物の象徴とも言える化け物の中の化け物じゃねぇかよ!」

武の神と言われる素戔嗚が八塩折酒といわれる度数の強い酒、天羽々斬剣を始めとした十拳剣と、草薙の剣…別名天の叢雲と呼ばれる剣の伝説に直結した伝説だが、その八岐大蛇が何の関係があるというのか?

もし、こいつらが伝承通りであるのなら、人類の敵である可能性があるわけだが…。見たところ彼らにそんな素振りは見られない。

「へ、確かにこの国ではその伝説が主流だけどよ、所変われば伝承というものは変わるものだろ?中国の多頭龍とかキングヒドラとか」

「……全部怪物の代表格じゃねぇか。俺達特殊な一族としては倒したら大金星の対象となる。つまりはあれか?お前らは人類でも滅ぼしに来たのか?」

思わず突っ込んだ旭は悪くないだろう。

いずれも映画や物語では怪獣の中でも強い怪獣として恐れられている。

「そのつもりがあったなら、夕べは助けて無いってば。話を最後まできいてよ」

確かにそうだ。それに狙うにしても自分達では格が低すぎる。わざわざ狙う必要などないよなと旭も健斗も信も思う。

「まぁ、聞けよ。真実の八岐大蛇ってのは、とある邪教の侵略からこの国を救った神の力を持つ英雄の伝説だったんだ。それが俺達八龍士の真の伝説だな。スサノオ…だったっけ?そいつらは2代目八龍士の仲間だな。叢雲の剣なんては2代目から譲られた物だ。今となっては本物の叢雲の剣がどこにあるかわからんけど」

「熱田神宮にあるんじゃないのか?」

信が聞くと、明は首を振る。

「いや、それは4代目の時に失われている。本物は日本の壇之浦って所で沈んだとされているぜ?伝説の聖剣の1つがあんなぼろぼろの訳がないだろ?」

天の叢雲の剣。別名草薙の剣は三種の神器の1つとして有名だ。

レプリカの草薙の剣が熱田神宮の御神体とされている事から、天の叢雲は今となっては別物と考えて良いだろう。

「じゃあ何か?お前らは伝説の力を使って今でもその邪教とやらと戦っているってのか?」

「おお、察しがいいな?木藤健斗。まさしくその通りだ。俺達は邪教と戦っている。今回の事件もその一環だな」

「なんだ。ただのあぶねぇタイプの中二病かよ。そういうの、よそでやってくれね?」

信がいらただしげに文句を言う。

力を持つごっこ遊び……明の言っていることはそうとしか受け止められない内容だった。

「いやいや。そう受け止めるのは構わねぇけど、実際は奴らの侵攻は始まってんだぜ?昨日のその邪霊石がその証拠だ」

また新しい単語が出てきた。

「邪霊石?」

「和田旭。お前が昨日手に入れた石のことだよ」

呪石の事を言っているらしい。

大抵の流派が呪石(のろいいし)、または呪い石(まじないいし)と呼ぶので、違う呼ばれ方をされるとピンと来ないものである。

明達の流派は呪石の事を邪霊石と呼ぶらしい。

「確かにこの呪石に込められている術式は見たことがない上に、驚く程に高度な物だったな」

旭は胴着の袖のポケットから例の呪石を取り出した。

同じく明もラムネの瓶に使われるサイズの呪石を10個近く取り出してテーブルに置く。

信達三人はその呪石の術式を確かめる。

「昨日、火災に巻き込まれずに済んだ物だけを回収して来た邪霊石だ。大半が燃えてなくなってしまったがな。あ、和田が放置していた人間は救出してきたから。あのままだったら焼け死んでいたからな?気を付けろよ?」

「ああ、忘れてたわ。一応サンキュー」

人一人の命の扱いが軽いものである。もっとも、一般人ならばともかく、健斗達はヤクザを一般人として扱っていないので、その抗争の果てに命がどうなろうが知ったことでは無いのだろう。

「それにしても……呪石の術式はほぼ同じ……だが、こっちの術式も見たことがない。なのにその完成度は恐ろしく高い……」

「だろ?そんな奴らが俺達の敵だ。そして、お前らを狙う奴らでもある」

明が爆弾をぶっ込んできた。

「何でそいつらは……俺達を狙う?」

健斗が明に対して尋ねる。

「さぁな。それは俺にもわからん。だが、1つだけ言えるのは、奴らは無駄な事はしない。お前の誰かが…または三人全員が奴らのターゲットになりうる何かがあるんだろう」


続く

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