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八龍士  作者: 本城淳
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八龍士

次々と変死を遂げる依頼主のチャイニーズマフィア。

その原因は依頼主に贈られてきた木彫りの虎の置物の中に含まれていた呪石と呼ばれる物が原因だった。

それも、呪いのスペシャリストとも言える旭の目から見ても高度な技術の術式が組まれた呪い!

依頼主はそこで更に原因となった敵の殲滅を3人に依頼する。

依頼主の敵であるチャイニーズマフィアのアジトに潜入した健斗、信、旭の3人。しかし、敵の実力はあまりにも低すぎる。

とてもではないが、高度な呪術師を雇えるような相手ではない!

裏には黒幕の存在が見え隠れしている。

一体敵の黒幕は何なのか!?そして彼等は無事に依頼を終わらせる事が出来るのか!?

ー敵のアジト内部ー


「あっさり潜入出来たな……」

「あまりにもあっさりな」

健斗と信は更にゆっくりと邸宅の中を探索する。

内部は誰の気配も感じない。

「アイツ、上手くやってるようだな」

「相変わらず、見事な腕前だな」

恐らくは、先に潜入していた旭が内部の敵を静かに忍より、処理しているのだろう。

適当な部屋を……風呂場等を開けてみると、予想通り適度に首でも絞められたのであろう構成員達が両手両足を縛られ、猿轡をはめられて放り込まれていた。

信と同じように思っていたのか、気絶だけさせられていて命までは奪っていないようだ。

旭は暗殺などの活動が得意だ。

諜報に暗殺、泥棒と活動内容は多岐に渡る。忍者みたいな真似が得意なのだ。

そう言うと、正面からの戦闘は弱そうに聞こえるが、実際は弱くない。あくまでも任務では能力も相まって暗殺等の仕事が得意というだけだ。

「で、敵の居場所はあたりを付けたのか?旭」

健斗がそう言うと、いつの間にか旭が物置の影からニュッと現れた。

相変わらず心臓に悪いなと思いながら、旭の様子を見る。

「まぁな。オーソドックスにも書斎。それに、お前らだって感じているんだろ?呪いの発生源を」

旭が言うように確かに呪いの発生源を健斗と信は感じていた。伊達にその世界にどっぷりと浸かっていない。

こういう仕事を始めたのは最近でも、元々幼いときからこの手の世界に属していたのだ。

それも………家業のせいで。

「それで……中の様子まで確かめたのか?」

「いいや……俺では手に余るわ。解呪とかは苦手だしな」

旭は呪いの解呪などは得意ではない。

何故なら呪いという物に強い耐性を持っており、それ故に先程は呪石を素手で掴んで気を通すような真似が出来たのだ。それ故に自身で呪いを解くのは苦手だったりする。必要がなかったからだ。

「じゃあ、行くか……書斎へ」

健斗が皆を促すように行こうとすると、信がその肩を掴んで止める。

「気ばさ付け。イヤな予感さぁするっちゃ」

信がわずかな東北弁を口にして言う。信は出身が仙台だ。普段は事情により標準語を使ってしゃべってはいるが、時折こうしたわずかな東北弁が出てしまう。

能力者のシックスセンスほど、信憑性と言うものがある。ましてやイヤな予感であればあるほど、その勘に従った方が利口であると健斗達はこれまでの人生でいやというほどに経験している。

健斗が問題の書斎のドアを開ける………そして、一気に突入すると……。

「こ、これは………!」

「酷い………」

「これはさすがに予想外だ……いや、少し考えれば分かるか………」

書斎には………。既に問題の組長は絶命しており、そして構成員達も痩せこけた状態で命を落としていた。

「コイツらは……捨て駒だったんだ…。だが、何の為にこんなことを……」

健斗は懐から祓い串を出して軽く振る。

そこで健斗の眉がピクリと動く。

「敵さんの目的は………もしかして俺達か?」

信が歯をギリギリとならしながら構えを取る。

「最悪の結末だな」

旭も体の力を抜いて自然体になる。

「コレが結末なら良いけどな」

健斗も祓い串を仕舞い、構えを取ってステップを踏み始める。

何故彼等が戦いの構えを取るのか……。それは……。

「オオオォォォォ……」

死んでいる構成員や組長が起き上がり、襲いかかってきた。

「ヤッパリゾンビもので来やがったかよ!」

信が拳に炎を纏わせ、ゾンビの集団に備える。

「結末じゃなくて序章ね。趣味が悪くて結構だ!」

同じく黒い気を拳に纏わせ、静かに力を練る。

「先にやらせて貰うぞ……木藤流霊術…空波!」

健斗は体内の霊力を解放し、さざ波のような霊気の波を波紋のように広げた。その霊気の波に当たったゾンビは動きを鈍くする。

「こんなアフリカンなゾンビを相手にするのは初めての経験だが、幽霊を相手にするのと一緒だと思えば、楽なものだよな!」

鈍ったゾンビを相手に健斗は脚に霊気を込めてハイキックを見舞わす。

「ヴードゥー教に謝るべきだけどな!燃えろオラァ!」

信が炎を纏った拳術でゾンビに拳を当てて火葬にする。

いつ炎が建物に燃え移らないかヒヤヒヤものであるが、効率よくゾンビを倒すには有効手段である。

「しかし、既に死んでるのが相手だと、倒す手段が少なくて困るな!おい!」

旭が言うように、既に死んでいる相手に急所攻撃や首の骨を折ったりなどの攻撃は意味がなかった。めんどくさがった旭は手に気を貯める。

「反若砲!」

放った闇の気がゾンビの頭を吹き飛ばすが……。

「まぁ、死んでいるゾンビの頭を吹き飛ばしたところで意味が無いよな……もはや呪いで動いているんだから。自分の脳みそで考えて動いて無いんだから……」

旭があきらめて、柔術の技で投げてから念入りに骨や関節を破壊しはじめる。

和田流古武柔術。

暗殺を前提とした柔術技で、安倍流古武術や木藤流古武術と同様に時代の闇に生きる流派の武術だ。その性質は殺人が前提の技である。その性質を遺憾無く発揮すれば、不死のゾンビであろうとも行動不能にする手段はいくらでもある。

「マジで250万じゃ割り合わねぇな!」

「結局、術者は出てこなかったしよ!」

取り敢えず今はここから脱出することが先決だ。

敵の目的は3人をここに誘き寄せる事であることは間違いない。こんな手の込んだ罠まで用意して。

だが、何故自分達を?

言っては何であるが、自分達は特殊な一族の出身であることを除けば大した存在ではない。

それよりかは親元の実家の方を狙うべきだろう。

それとも、狙いはそっちなのか……。

「実家狙い……という路線はあるのか?」

健斗のその呟きに答えたのは、信でも旭でもなかった。

「違うな。狙いはやはり君達狙いさ」

バリィィィィンとガラスを破って派手に侵入してきたのは二人の男女。

片方は見たことのない、今時中々見かけない真ん中分けの格好をした、これぞ正当主人公だ!と主張が激しい顔だけはイケメン?…に見えなくもないの棒を持ってきた少年と、見覚えのある………

「塚山麻美……」

健斗が麻美の姿を確認して敵意を剥き出しにして睨む。

「ヤッパリお前はこちら側の人間だったな…」

旭も麻美に対して言う。

「身のこなしに訓練を受けたものの動きがあったからな。お前が黒幕か?塚山麻美。来るなら来い。まとめて相手にしてやる」

信も麻美に対して敵意を隠そうともせずに戦いながら睨み付ける。

そう、彼ら3人は麻美に対して何故冷たかったのか。それは彼女が自分達側の人間だと気付いていたからである。細かい動きで、目の動きで、位置の取り方で。

癖と言うのは中々抜けるものではない。特に訓練などで身に付いた動作というのは無意識の内に出てしまうものだ。例えそれを隠そうとしても。

3人は家業の関係、そして商売柄そういう人間を見分ける必要がある。

命に直結するからだ。

もっとも、信と旭の場合は実家にいたときの方が酷い状況であったのだが。

そして、信は麻美と男に対して拳を向ける。この二人が本当の黒幕ではないかと疑って……。

麻美は手をブンブンと振って否定する。

「ちょっ!違う違う!違うから!むしろあたしは味方だから!」

「味方と言って敵だったって話はよくあるからな」

麻美がゾンビに対して水流のカッターのような魔術を展開し、切り裂く。

(こいつ!特殊能力まで!それもかなりの実力!しかも行動に躊躇いがねぇ!)

信が麻美の実力に対して戦慄する。

目の前のゾンビの集団よりも麻美の方が恐ろしい。自分達の側にいる存在だとは思っていたが、まさかここまでのレベルだとは思っていなかった。

ここで重要になるのは麻美とこの少年は味方なのか…。この少年の実力はどうなのか…。何よりこいつらは味方なのか…。

「そう警戒すんなって。取り敢えずは味方だよ。お前らのな」

少年は懐から3つに折り畳まれ、紐で繋がれた棒を取り出した。

三節棍。中国の武術家が使う西洋のフレイルの1種とも言われる武器の1つである。

昔はカンフー映画で使われていたことから昭和の一時期は漫画等でも使われていたが、ヌンチャク等でも挙げられる通り、その扱いの難しさから教える者も流派も少ない。

三節棍はヌンチャクのように最初からバラバラ状の物があるが、少年の三節棍は接続部が付けられており、その三節棍を繋げて棒のように一本の棒に纏めた。

「自己紹介をしようか。俺は流木明。お前らと同じように武術を嗜み、更にある特別な力を使うことが出来る」

明と名乗った少年は、軽やかに一歩踏み出すと、ゾンビに対して棒を突き刺す。そして、そこからアッパーのように振り上げた後に、そこから見えない刃のような物でゾンビを八つ裂きにする。

「サイコリッパー。風の魔力で真空の刃を作り、俺の念動力でそれをコントロールした技だ。俺の力は念動力と風の能力。コレが俺の伝説の龍の神の力…龍神の兵士、風の八龍士…流木明だ」

明の力を目の当たりにした健斗達3人は、戦慄を覚える。

自分達が見てきた中でも相当の力を持っていることがわかる。そして……

「伝説の龍の兵士……だと?」

「そ。そしてあたしは水の八龍士、塚山麻美。まぁ、あんた達ほど特別な力は持ってないけれど、水の魔術は得意なのよ」

何のこっちゃ?…と信と旭は頭に疑問符を浮かべる。

だが、健斗だけは……その『八龍士』という単語に引っ掛かりを覚えた。

(『八龍士』……何故だろう。聞いたこともないはずの単語なのに、俺は妙に引っかかる…。朝に見たあの夢が関係しているのか!?)

健斗はオーラに破邪の力を込めつつゾンビを蹴り飛ばす。木藤流古武術は蹴り技に重点を置いた流派。戦いにおいては足技を多用する。

「おい、流木、塚山。この騒ぎはお前らが関係しているのか!?三珠砕き!天狗火!」

信がゾンビの鳩尾、喉、眉間を砕き、そこから炎を流し込みながら明と麻美に尋ねる。

安倍流の技の1つである正中線の急所三ヶ所を素早く突き、破砕する三珠砕き。そして手の大きさに炎を投げ込む魔術技の天狗火の複合技だ。

「いや、まぁ……関係してると言えば関係してるが、そいつらを使ってお前らを拐おうとしていた奴等とは敵対関係にある……っていう意味ででの関係者ではあるな」

自分達を拐おうとする存在だって?3人はなおのことわからなくなる。健斗はともかく、信と旭は一族から半ば追放された身である。逐電したとも言えるが、家から見放されている以上は大して拐う意味はない。

誘拐されても実家に対して何の交渉材料にもならないのは既に裏の世界でも、更にその裏の中でもより深い闇に関わっている暗部の世界でも知れ渡っている話である。

「何故お前ら3人なのかは……まぁ、色々あるけどな。取り敢えず、俺達の目的はこのゾンビを作りやがった奴等の黒幕を邪魔することと、お前らを守る事だ」

そう言われてはいそうですかと素直に応じる奴はいないだろう。

「じゃあ、お言葉に甘えてここは……」

言っていることが本当である可能性なんてほとんどない。少なくとも前者は本当だったとしても、後者については信用して良いものなのかがわからない。

よくある敵の敵は味方と言うが、味方の振りをして実は敵だった……油断させておいて背後からバッサリなんて事はよくある話だ。

依頼も半ば失敗していることだし、ここは……。

「信!旭!」

「わかっている!」

「あばよ!」

3人は早々に突破口を見つけ、三方向に撤退を始める。

引き際を誤れば命に直結することは3人ともわかっているからだ。

既に自分達以上に強い奴等が現れた以上は、ここに長居をする意味はない。

「ああ。ここは任せろ。あと、依頼主の方も危ない。ノコノコと戻ったらここの二の舞になる可能性になる。依頼料の方は諦めろ。俺の他の仲間が張大人には報告しているから心配するな」

こいつは本当に何者なのだろう……。八龍士とは一体なんなんだ!

知りたいことは沢山あるが、縁があるのならばまた会う機会があるだろう。

ここは素直に撤退することにした。

(依頼主が裏切る……何らかの罠がある……そんなことは今まで何度もあった…なのに、この屈辱は何だ!)

健斗

(こういう風に逃げ帰る事は何度もあった……けれど、それは今まで自力でその場を凌いだり、逆に契約違反の報復をしてくることで落とし前を付けてきた……けど、第三者に頼りきりになるなんて初めての屈辱だ!)

(くそっ!コレが敗北って奴か……くそっ!くそっ!)

三者三様に屈辱を感じながら撤退をする。

思えばこの仕事を初めてからの、自力で乗り越えられなかった初めての失敗に対して…怒りを覚えていた。

3人は必ず黒幕の正体を暴くと誓い、拠点である家へと戻った。

やっと八龍士という単語が出てきました。

一体八龍士とはなんなのか?

それでは次回もよろしくお願いします。

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