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八龍士  作者: 本城淳
1/8

夢の戦士達



ー???ー


廃墟の町。倒壊した家屋の中。

少年は混乱していた。ここがどこなのかはわからない。ただ、戦場であることは確かだ。自分の周囲には多数の死体が転がっている。それは自分と同じ人間であったり、異形の物であったり………。

死んでいる人間の種族も様々だ。少年と同じ黒髪黒目の東洋人であったり、金髪碧眼の西洋人であったり、はたまた黒人であったり、アラブ系の人間だったり。

性別も男女入り乱れている。

廃墟となっている町の風景もおかしい。少年が住み慣れた近代日本の町並みではない。まるで中世ヨーロッパのような町並み…。そこに何故自分が立っているのか……。

「リフォン!」

紅い鎧を纏い、その鎧に合わせたような赤毛の大男が誰かを呼ぶ。少年はまるで子供の頃から共に過ごして来たケンカっぱやいあいつにそっくりの男だと思った。

「おいリフォン!聞いているのか!おい!」

返事がないリフォンと呼ばれる誰かに苛つく大男。

(リフォンさん。返事をしてあげなよ。暑苦しいんだ)

大男は少年の知人と雰囲気はそっくりなのに性格が少し……いや、かなり短気なようである。

すると大男は少年の肩を掴んできた。深紅の籠手が少年の付けている白い鎧を掴んで金属音を立てる。

(あれ?何で俺、鎧なんか装着してるんだ?)

少年が疑問符を浮かべていると、更に軽そうな漆黒の鎧に同じく黒い長髪を靡かせて線の細い男が現れた。

「おい。リフォン。ゼルが苛立っているから返事くらいしてやれよ」

黒髪の男が少年に話しかけて来る。

「わかっている、ディアス。何の用だ?ゼルガティス」

少年は自分の意思とは無関係に口が開き、ディアスと呼ばれた黒髪の男に返事を返した後に、黒髪の男の言うゼル……赤髪の男、ゼルガティスに声を返す。

(俺がリフォン?)

言われてみれば目線が普段と高くは無いだろうか?

声が自分の物では無いような気がする。

それに、何故か自分はソードと呼ばれる長剣を手にしていた。

「奴等がお前の結界を破るのにどれくらいかかる?」

ゼルガティスの質問に対しては少年は……リフォンは疲れ気味に返す。

「もって10分ってところだろう。今回は敵の大隊の将軍が白神将ナラバ・レナだ。奴に対して私の霊術はそう持ちはせぬ」

「ち……こちらも兵力を失い過ぎた。(りゅう)の野郎ははぐれるし、俺達の力も戦いっぱなしで限界だ。戦いは完全にこっちの敗北………それでナラバの相手はキツいな……」

ゼルガティスははきすてるように言う。どうやらリフォン達はこの街の防衛をしており、街は完全に陥落して戦況は完全に劣勢のようだ。

(どういう状況か皆目見当が付かないし、なによりこの俺は誰だよ。一つわかっていることはコレが夢であると言うことなんだが……それにしても酷いな…これは)

リフォンとなっている少年……健斗(けんと)は周囲の有り様に(心の)顔をしかめる。人の生き死ににはそれなりに場数を踏んではいるが、それでも戦場というのは経験をしたことがない。

「行くぞ……間もなく結界が破られる」

リフォンが言うと、ゼルガティスもディアスも立ち上がり、武器を構える。

ゼルガティスは剣に紅蓮の炎を、ディアスも黒い気を短剣に纏わせ、家屋から出る。

そしてリフォンも青白く輝く霊気を全身に纏わせ、石造りの町だったであろう廃墟へと身を晒した。

リフォンが張ったであろう薄いオーラの結界の外は目を爛々と白く輝かせ、こちらを見る大量の異形の群れが埋め尽くしている。

「今回は本気というわけだな。ナラバめ…」

ギリッ!と奥歯を鳴らせてゼルガティスが忌々しげに声を出す。

「逆を言えばここを凌げば反撃のチャンスだ。いくぞ、ゼル、リフォン」

疲れたからだに鞭を打ち、三人は戦場に躍り出た。

「……と」

リフォンは町に張った霊力の結界が破壊されると同時に刃に通した霊力を解放し、異形の物へ向けて放つ。霊力の刃は敵を二、三体胴を切り裂く。動かなくなった数体の獣と人が合わさったような異形を無視してリフォンは霊力を溜めつつ、体を回転させて旋風脚を放ち、そのまま軸足を入れ換えて顎を蹴りあげる。そして喉を剣で突き刺して絶命させる。

(凄い……剣を持ちながら洗練された鋭い蹴り技を放ってそのまま剣技を突き入れた。それに、霊力の力もコントロールも遥かに巧い。俺よりも遥かに……)

「…んと」

次にリフォンは再び刃に霊力を通して突きを放つ。

「エレメント・ランス!」

突きから槍のように伸びた霊力が敵の腹を貫通し、更に後ろの敵を次々と刺し貫いた。その先には白神将ナラバ・レナの姿がある。

「そのまま!突き進め!リフォン!バーニング・カノン!」

大剣を納剣したゼルガティスが敵に向けて手をかざし、魔力を集中させる。魔力が魔方陣を形成し、そこから炎が何重にも重ねられ、人ひとり分の深紅の炎と重なり、方向性を定めて発射される。

(な!普通は魔方陣を魔力で、しかも空中で書くなんて時間がかかる!紙とかに事前に書いた魔方陣を媒介して放つのが一般的だ!それに、(まこと)が言っていたが、魔方陣は素の魔力を炎とかに変質させる事が出来ない未熟者や、基本的に魔力が低い者のブースターとして使用する事くらいしか使い道が無いって言っていた……こんな使い道があるなんて!)

ゼルガティスが放った炎の砲弾は、更にゼルガティスが炎の中に展開された魔方陣がブースターとなって飛ばされた弾丸を更に巨大化させる。

(巧い!こんな魔力の使い方を考えるかよ!)

最初は人の大きさくらいだった炎の砲弾は、ブーストされて更に大きくなり、今では民間一件分の大きさに変化して敵を飲み込んでいく。

敵将への道は出来た!

「リフォン」

リフォンはゼルガティスが作った焦土の道を突き進む。そのリフォンへと脇からなだれ込む魔物の群れ。

「邪魔な奴は任せろ。武光流奥義、邪刃・散会邪功砲。闇の扉を通り、敵を穿て」

体中にほど走らせた闇の気を一気に解放したディアス。放たれた闇の気が何本もの矢に変わり、そして闇の空間に飲み込まれたと思うと、次の瞬間には闇に空間が群がる魔物の前へと現れ、中から先程の闇の矢がドスドスドス!っと刺さる。

(リフォンもゼルガティスも化け物ならディアスも化け物だな!技術も魔力や気力や霊力も!)

健斗も信も(あさひ)も似たような技術は使うが、この三人のように馬鹿げた力は持っていない。

そして、リフォンはそんな三人を信頼しているのか、自分に当たるとは微塵に考えておらず、そのまま敵将のナラバ・レナへと進み………




ー横浜中区にある一軒家ー


「健斗ぉぉぉ!」

ドカッ!

「ゲホォ!」

ドサッ!

突然の衝撃に目を覚ました健斗は、自分がベットから叩き落とされた事に気が付いた。

「いってぇ………普通に起こせ!旭!このチビ!」

先程、木藤健斗が寝ていたベットの上には和田旭が高校生にしては小さな体を投げた姿勢から自然体へと戻して健斗を見下ろす。と、思いきや、ベットからジャンプしてその顔をグリグリと踏みつける。

「あ?てめぇ。誰がチビだとコラ。さっきから普通に起こしてやってんのに起きなかったのは誰だ?しまいにはいてこますぞ?おい」

相変わらず口が悪い男の娘だ。そう思いながら健斗は首を支点にして旭の頭を狙って蹴りを放つ。すると旭は上体を反らしてキックをかわす。

健斗は回避されたキックなんて気にしていない。当てるつもりで蹴ったのだが、そんなものに当たる旭ではないのは重々承知しているからだ。キックは元々旭の重心を顔に置かれている足から軽減させる為のもの。

キックを回避して旭の上体がそれれば、その分だけ体重が床についている足にかかる。健斗はその隙にキックを放った勢いで床に手を付き、片手で倒立して立ち上がる。

「この野郎。旭……朝っぱらからやってくれる」

健斗は旭を睨む。

「朝っぱらからやってくれるはこっちの台詞だ。俺にチビって言うんじゃねぇ!」

「事実だろうが!」

旭はチビと言われるのが嫌いだ。そして見た目は女のように整っている。それがまた旭のコンプレックスに拍車をかけている。さらさらの髪質がまた美少女ぶりをより強調している。

理由はそれが元で弱そうだと侮られ、子供の頃から色々と侮られたりしているのだが。それが理由なのかはわからないが、旭は普段から和装を着ている。

中身を知れば美少女なんてとても言えないのだが。

いくらコンプレックスを刺激されたとはいえ、いきなり健斗を引きずり起こしてベットの上から投げ飛ばし、頭を踏みつけるあたり、その歪んだ性格が滲み出ているとも言える。

しかも、合気道等をやるような袴胴衣だ。黒の胴着に胸には和田の三引き線の家紋を刺繍している。実家が嫌いな割には家紋は気に入っているというワケのわからない男である。

「取り敢えず、俺は起こしたからな。早く着替えて来いよ。じゃあな」

旭は袖の中に腕を仕舞いながら部屋を出ていく。その背中を見送りながら、健斗は考える。あの小さな体格で、何であそこまで妙な力を出せるのかと…。

「おっと……着替えなくちゃな」

健斗は夕べ帰ってきたときから着替えずに着ていた白のジャケットと黒いパンツを脱ぎ、学校の制服に着替える。黒を基調とした野暮ったいブレザーである。

耳にかかる程度のクセっ毛にややパッチリめの目、少し身長が高めの筋肉質な体、少し体育会系とも思えるゴツ目だが整った顔はイケメンと言っても良い。実際健斗はそれなりにモテている。

(それにしても、あの夢は何だったんだろうな?)

もうほとんど記憶から消えてしまったが、あの変な夢は何だったのか……健斗は顎を手に当てて考える。

「おーい。まだかー?早く降りて来いよ」

もう一人の同居人、信が下の階から声をかけてきた。

健斗が下の階に着くと、同じ学校の制服を着た信がパソコンを操作しながら緑茶を飲んでいた。

「今日は旭が朝飯を作ったのか?」

「ああ。アイツが作る飯は大抵和食だからな」

そう言って信が振り返る。

安倍信。炎の陰陽術を操る一族の子孫だ。

体型は中肉中背の普通の体型で、少し茶髪気味の髪を前髪だけ立てている。制服の下には紅いジャケットを羽織っており、目付きは少しだけ鋭い。とりわけイケメンという訳ではないが、顔つきは整っている方だろう。

地毛である茶髪のせいで不良扱いされることが多いが、本人は言葉使いが悪いことを除けば別段不良という訳ではない。

信は湯飲みを台所の流しに持っていき、洗い始める。

「飯は食ったのか?」

「ああ。まぁ、至って普通の和食だったぞ」

信は一通り洗い終え、付近で水を拭き取る。

「で、俺の飯は?」

ここで健斗は気になっていたことを尋ねることにする。

そう、普通だったらテーブルの上にあるはずの自分の朝食がないのだ。

アジか何かの魚を焼いたような香ばしい匂いが残っているし、一つだけポツンと残っている湯飲みにはすっかり冷めきったお茶がある。

「ほれ」

信はキッチンの棚から備蓄用のブロック非常食を健斗に放り投げた。

「カロリーメ○トじゃないか。普通の魚はどうしたんだよ」

そう言うと、信は「なんだ、その事か」と言ってもう一つ何かを取り出して口に含む。今や滅多に見当たらない歯磨きガムだ。普通に歯磨きをしないつもりなのだろうか?

「昔からこういう川柳があるだろ?」

信はリビングのドアを開けて肩越しに健斗の顔を見てニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「『いつまでも あると思うな 飯と金』ってな」

そう言って信は足早に出ていき、玄関へと向かった。

早い話が………

「お前!食ったのか!人の飯を食ったんだな?!」

「わはははは!いつまでも起きないお前が悪いんだぜ!このアホ!」

信はダッシュで廊下を抜け、靴を拾って靴下で玄関を抜けて外へと飛び出した。

「待て!信ぉ!」

健斗もそれを追うが、信と健斗では足の速さはほぼ同じ。結局は逃げられてしまうだろう。だが、健斗は追わずにはいられなかった。

二人が出ていった家の中で、旭が制服の姿で歯ブラシを咥えながらリビングに出てくる。

「パソコンの電源くらい落としていけよ。電気代だってバカにできねぇんだからよ」

旭はそのパソコンの中身を確かめて目を細める。

「依頼が来てるじゃねぇかよ」

そう良いながら、内容を携帯に送信し、パソコンの電源を落とした。どのみち『仕事』は放課後になってからだ。休み時間にでも確認すれば良い。

「それにしても、アイツも抜けてるな」

旭は自分の腹を撫でながら、靴をはく。

「少し食い過ぎたか」

健斗の朝食を食べたのは信だけでは無く、旭もである。

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