episode 3
なんだかんだで俺はルークに持ってもらいながら村に向かう途中である。
道中で色々話をした。
俺は気になっていた事を聞いたがそれは村に帰ってから話すと言う事で、逆に色々と聞かれた。
何故、石なのに喋れるのか、とか。
何故、石なのに強いのか、とか。
その他色々だ。
だが、それは俺が一番知りたいのだ。
確かにアホ神から強ステータスとスキルを貰ったが、それは人間の身体の話なのでは無いのかと。
まあ事実、こうして石ころの身体でも使えるのだから何ら問題は無いのだろうが。
ただ、神にあれこれされたと出しても良いが、後々面倒な事にもなりかねないかも知れないし、それにそもそも信じてもらえるかどうか怪しい。
子供達だけなら信じるかも知れないがこれが大人達に知れたら痛い目で見られるに違いない。
痛い人ならぬ痛い石だ。
まあ実際そんな石があれば触りたいとすら思わないだろうな。
そんな理由でルークには適当にこう言っておいた。
「まあ、成り行き?」
こんな感じだ。
これを聞いて、より謎が深まったと言わんばかりの表情だった。
だが俺がそうだと言っているのだから、半ば強引ではあったが渋々納得してくれたようだった。
ルーナもまた、最初は怖がっていたが俺に興味を持ってくれた。
ルーナは基本、口数が少ないようだが、話せば打ち解けるものだ。
それから結構歩いた、日が暮れるにくらいには。
どれだけ遠い所まで来ていたのだろう。
きっと家族が心配しているに違いない。
そんな事を思っていると、小さい建物密集している所が見えてきた。
村へようやく着いたらしい。
一先ず安心かと思ったが、日が暮れているにも関わらず何か村が騒がしい。
なんだ?祭りか?
村へ入った所で誰かが声を張り上げた。
「双子が帰ってきたぞぉお!」
その声を聞き慌てたように数人がこちらへ向かって走ってくる。
「ルーク!ルーナ!」
するとその内の男女二人がルークとルーナを勢いよく抱きしめる。
当然ルークに持たれてる俺もその中にいるわけだが。
なんだか照れくさいな。
……ってなんで俺が照れるんだよ!
などと、自分で自分にツッコミを入れた。
すぐにくだらないとを思いながら、一人で勝手に恥ずかしくなった。
落ち着いたところで、どんな状況なのか分析してみた。
「ああ……良かった。無事で」
「大丈夫?どこも怪我してないわよね?」
そう、抱きついた二人の男女が言った。
その二人の見た目は若かった。俺の前世と同じくらいだ。
ちなみに俺の前世での年齢は27歳だ。
そして決してこの年齢はおっさんではない。お兄さんだ。
二人を観察する。
男性の方はがたいがよく、ブロンドヘアの爽やかイケメンと言った感じだ。
これはかなりモテるだろうな。
一方、女性の方はこちらもブロンドヘアに顔立ちは双子の子供にそっくりだ。と言ってもその妖艶さはその子供達には出せないであろう美しさである。
こんな美人、俺じゃなくても通りを歩けば九割の男は確実に振り向くだろうと思うくらいのものだ。
そして、すらりとした体型だが、その胸に付いたふくよかなる二つ実。
その二つの実につい視線がいってしまう。
それを俺は理性で抑え込もうとする。
そんな俺はふと、思い出した。俺は石なのだと。
今の石ころの俺には目がない。
故に目線で怪しまれる事も無いだろう。
多少の罪悪感はある。しかし背に腹はかえられぬ。
スキル!凝視!
ちなみにそんなスキルは存在しない。
「だ、大丈夫だよ。お父さん、お母さん」
ん?ルークのお父さんとお母さんか。
なるほど、だから似ているわけだ納得。
ではこちらの美人さんは人妻という事か。
それでは仕方ない。
人の嫁や子供の親にいやらしい視線を送るほど、俺は悪辣な人間では無い。まあ、人間でも無いんだがな。
だが俺の魂は紛れもなく人間だ。
そして、あくまでも俺のポリシーは常識の範囲内でだ。
そっと、目線をずらす。
俺は仏、俺は仏、俺は仏。邪念は捨てるんだ。
「おどーざぁーん、おがぁーざーん」
ルーナは両親を見るなり泣きじゃくっていた。
「あらあら、こんなに顔を汚しちゃって。早く家に帰って綺麗しましょう」
そう言いながらルーク達の母は自分の服でルーナの顔を拭く。
一人心の中で葛藤していた俺だが、家族の団欒を見てなんだかほっこりする物があった。
決して淫らな妄想に現を抜かしてなどいない。
「ああ、そうだな。俺は子供達が無事に帰った事を捜索隊に報告してくる。先に家に帰っててくれ」
「ええ、わかったわ。よろしくね。ルーク、ルーナ家に帰るわよ。沢山の人に迷惑かけているのだから反省して、早く寝て、明日また、皆んなに謝りなさい」
お母さんは二人を叱ってはいるがなんだかんだ言って二人が帰ってきた事に安心してる様だった。
「はい、ごめんなさい。お母さん」
「ゔん……わがっだ……」
ルーナは泣き止んではいるがまだひっくひっく言っている。
ルークとルーナの二人は深く反省しているようだった。
お父さんが無言で二人のことを優しく撫でると「じゃあまた後でな」と言って何処かへ行ってしまった。
その後にこちらも家と向かい動き出した。
〜
家への道中、所々で知り合いであろう大人達に声をかけられる。
「良かったね」とか「気を付けろよ」とかそんな事を多くの人に言われていた。
「あの……その、お母さん……」
突然ルークが止まりもじもじする。
「何、ルーク?」
お母さんは優しくルークに問いかける。
「いし……」
お、ようやく俺の出番か!
「石?」
「これ……」
そう言って手の平の上のものをお母さんに向かって見せる。
お母さんはそのルークの手の上にある石、いや俺を見ると不思議そうにした。
「これがどうかしたの?」
「この人が魔獣に襲われてる所を助けてくれたんだ。な、ルーナ?」
「うん。私も見た」
ルーナも同意してくれた。
お母さんは何を言っているの?と言った表情だ。
まあ、当たり前の反応だ。
もし、俺の友人が「この石が俺の命の恩人なんだよね」とか言い出したら、こいつやばい奴だなとか思って、今後付き合って行けるかどうか怪しい所だ。
そんな事を息子が言うのだ。「この子達何処かで頭でも打ったのかしら」とか心配だろう。
だがそこは安心して欲しい。
「何言って──」
ここで遮る様に俺が念話をする。
『息子さんと娘さんのご説明に預かりました。石ころです』
お母さんもまた子供たちと同じように驚いていた。
だが、それもつかの間。
すぐに平静を取り戻したようだ。
「頭の中に声が……念話……かしら」
その答えには俺のほうが驚きを隠せなかった。
『おお!念話をご存じでいらっしゃいましたか』
「ええ、ここの村では使える人はいませんが、割と冒険者間では隠密行動の時などには必須のものですから」
冒険者……なるほどこの世界にもそういったものがあるのか。
俺にだってRPGの多少の心得はあるつもりだ。
小学生の頃はよくゲームばかりして母親に怒られたものだが。
今や微笑ましい記憶である。
そんなことはさておき、意外にもこの親、冷静だな。
もっとこう「なに?何なの?!」的な反応をするかと思っていたが。
『ほうほう、なるほど』
「それで失礼ですが、本当にこの……石……なのでしょうか?」
あ、でもやっぱりそこは疑いますよね。
『はい、本当にこのルーク君の手の上の石ころが俺です』
「そうですか……あ、それに息子と娘を助けて頂いたみたいで……ありがとうございます。何かお礼をしたいのですが?」
なぜ疑問形なのか。
わかるよ、石ころに何をお礼に返せばいいのかなんて俺だって分からん。
実際俺が頼まれたら、「あ、じゃあお供えしときますね」だ。
いくらお人好しの俺でも流石に難儀する。
あとは……そうだ。
ちゃんと伝えなければならないことがあった。
俺は確かに命を救ったかもしれないがそれはルークがいてこそだった。
事実、あそこでルークの勇気の一発がなければあの化け物はやれなかった。
人の手柄を横取りする気などさらさらない。
『本当は助けてもらったのは俺であって、ルーク君がいなければ今頃俺はただの石ころでした。ルーク君は救世主です。それに俺は少しお手伝いをしただけです』
本当にそう思う。
二人がこなかったら俺はあのまま孤独に永遠を過ごしていたかもしれない。
まさに救世主。
「そうですか……」
『それでもって、大変おこがましいこととは思いますがこの俺をどうか……家に住まわせていただけないでしょか……』
俺は前もってルークに頼んでおいたのだ。
住まわせてくれないかと。
ルークは大歓迎で、説得も協力してくれると言ってくれた。
俺は自分の良い所を余すことなく伝えようとする。
まずは基本中の基本自己紹介から。
『私は石ころです。
意思を持っています。
石だけに。
大きさは大体、手のひらサイズです。
非常に小さいですが、一振り投げて頂けくだけでこの私、この身の力で一家をお守りいたします。
そしてそして、この私こう見えてそれなりに知識がございます。
故にお子様の家庭教師として如何でしょう。
算術等の基本的な部分でならば教えられますので、今後の生活に大きく役立って来るのではないでしょうか。
現在なら特別セールキャンペーン中につき、この身を貴方様一家の懐に置いて頂けるだけでこの全てこなして見せましょう。
奥様!如何でしょうか!?』
などと、どこかのテレビショッピングのように必死に自分の売り文句を並べる。
途中、ダジャレを挟みアホ神と同じことを言っていることに激しく後悔したがそんな事は直ぐにどうでもよくなった。
「お願いします。お母さん!」
ルークもまた一緒になって頼んでくれている。
正直、この世界での学問のレベルがどうとかはわからない。
だが、俺が元居た世界よりかはきっと進んでないはずだ。
もちろん確証はないが、おそらく……。義務教育というものはないだろう。
もし仮にもっと専門的なものを求められるとどうにも出来なくり、家庭教師どころではない。
家庭教師とは偉そうに言ったのに、そもそも元の世界ではそれほど頭は良くないのだ。
基本が出来るくらいの平々凡々のただの社会人。
いや、もしだめでも家庭教師以外の選択肢にあのアホ神にもらった力がある。
これで何とか……ああ、クソ!
あのアホ神「そこらのチンピラより遥かに強いから」とか言われてもまずこの世界のチンピラの強さの基準が分かんねえから、どれくらい俺が強いのかわからねえじゃねえか!!
確かにあの化け物は一発で倒せたけど、この世界では割と普通でとか聞いたらどうしよもない。
それに一回投げて攻撃終わりとか、次にあの化け物が出てきたら一体ならまだしも数対とか相手にできねえよ!
一度は自分の良い所を言ったつもりだったが考えれば考えるほど悪いところしか浮かんでこない。
だがそんな考えは不要だったようだ。
「はい、いいですよ。息子と娘の命を救って頂いたことには変わりないですしね。それに家庭教師もできるなんてむしろ歓迎したいくらですよ」
そう言ってうふふと微笑む。
その姿はまさに女神様だった。
「本当にお母さん?!」
ルークは非常に嬉しそうであった。
「よかった」
ルーナもまた祝ってくれている。
俺のためにここまで喜んでくれるとは。
お兄さん、感激!
『本当ですか!?ああ……また命の恩人が増えた』
当然、俺が一番うれしいのだ。
ありがとう、ルーク。
この恩は必ずや家族全員返すと誓うよ。
「はい、もちろんです。恩人だなんて大袈裟ですよ。でもその前にお父さんにも確認を取らなきゃね。多分いいっていうと思うけれど」
ああ…やっと俺にも報われる時が来たようだ。
ありがとう神様……アホ神ではないもっとちゃんとした神様。
感謝の念も堪えません。
∼
三日間だけではあったが一人ぼっちは辛かった。
確かに前世では一人暮らしで毎日仕事続きで、いつも一人のようなものだった。
だが、それは忙しさというものに自分の弱さを無理矢理抑え込まれていたから。
しかし、今回は何もできない、誰とも会話ができない。
そして自分の弱さを押さえつけるものが消えてしまったが故に寂しさというものが出てしまった。
人肌が恋しくなるとはまさにこのことかと思い知らされたのだ。
だからこそ、寂しさを紛らわせる為にこの家族に頼ってみた。
あとはお父さんだけ了承してくれれば。