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R/W  作者: Maki
Chapter 1 : Repeated/World
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 ここから見るルクソフィアもずいぶん久しぶりだ。空に上がることは今までにも度々あったが、こう、社の上空を旋回するように飛行することは、記憶をたどる限りではいつ以来だったか、五年や六年、いやそれ以前だったと思う。飛ぶとそこからの風景は海の色赤一色で、あぁ、やはり地球は丸いんだと、視界の端から端までを一直線ではなく、わずかに楕円を描く水平線を見て何度も思い知らされた。遥か昔、飛行技術を持っていなかった人類はこのような風景を見ることもなく生涯を終えたのだろう。地球、いや、この世界は、大陸の先の大海原のそのまた先に巨大な滝があり、どこまでも、果てしなく真下に水が流れ落ちていく、そしてそこが地獄の入口だとか、来世への玄関口だとか、あるいはまだ見ぬ桃源郷が広がっている、などと昔の人々は考えていたという、そういう古い古い文献を目にしたことがある。

 地球が丸いという、世紀の大発見をした人類は、その時どう思ったのだろう。やはり飛び上がって喜んだのだろうか、いやそれが普通だろう。この世界には、この地球という奇跡の星にはまだ見ぬ夢がある、と、人々は生きる希望を見つけ、あらゆる科学者は各々の研究に没頭したことだろう。あぁ、そうだよ、自分たちがもう生きてはいないだろう時代に向けて、あらゆる技術、兵器、ライフスタイル、その他諸々をレベルアップさせることばかりに気をとらわれて、他者を打ち負かすことだけを考えて、自分たちの名声を世間に知らしめるためだけに。

 

『レイズ!後ろに付かれてるぞ!』

 無責任だ。勝手だ。ふざけるな!

 この世界を見てみろ。かつては青かったらしい海は赤一色にその姿を変え、大陸は生物の生存できない放射線の塊に変貌した。海でさえも、もしその身を沈めたりすれば皮膚の表面が少しづつ剥がれ落ちていくんだ。そしてそいつは確実に死に至る。しかも即死ではない。仮に海から命からがら這い出ることができたとしても、皮膚の蒸発は止まらない。さながら、生き地獄だ。俺は目の前で何人もそうやって哀れに死んでいく仲間を見てきた。最初は驚くよ。いや驚くなんてものじゃない。見たこともない症状で叫び声をあげながらみるみるうちに生気を失っていく。それが十人、二十人、いやそれ以上に続いていくんだ。飲み水がなくて、我慢できなくなって赤い海水を口に含む奴もいた。何人かは止めたが、俺は止めなかった。体が震えていただけだった。目をそらした。頭がおかしくなっていたのが自分でもわかっていた。目の前で喉や胃を抑えながらのたうちまわる奴を見てもなんとも思わなくなっていた。

『ブレイク!レイズ!』

 操縦桿を握る手に力がこもる。震えているのか、俺は。 

 また、死んだ。仲間が死んだ。俺の周りの人間がまた死んだよ。もうこんなのは嫌だ。死ねば楽になるのかな。地獄で永遠の拷問か、また新しい人生が始まるのか、それとも体感したことのないような夢の楽園が待っているのか。どうなんだろうな。





 ――――――確かめてみるか?――――――


 

 え?


 勝手に操縦桿が前に押し倒される。

「くっ・・・!」

 機体が急降下を始める。高度計の数値がものすごい速さで零へ下がっていく。

「なんだ・・・これは・・・!」

 高速で急降下したため、機体の振動が更に激しくなる。腕が動かない。全身金縛りにあった感覚だ。




 ――――――死にたいんだろう?――――――



 キャノピーの向こうにハンガーが見えた。機体の制御ができない。さらに加速していく。


『レイズ!!』


 ダメだ。どうやっても体が言う事を聞かない。まるで、自分じゃない何かに身体を乗っ取られているかのような。


「誰だ・・・お前は・・・」


 ――――――俺に興味があるのか?――――――


 さっきからするこの声はなんだ。声・・・いや違う・・・。声ってのは周りの空気を振動させて耳に伝わってくるもの。だがこの声は違う。周囲から伝わってきている感じがしない。まあ、この狭いコックピットに一人って状況から考えればそりゃそうなんだが・・・。なにかこう、自分の中から伝わってくるような、脳に直接語りかけているような、そんな感覚だ。あえて言うならば、曲を聴くときにイヤホンを耳にあて、そこから聞こえてくる声を聞いているかのような・・・。


「興味ねえよ・・・。なあ、この俺の身体をのっとっているのがお前なら、どうか今すぐにやめてくれないか?俺は誰かに殺されるような恨みを買った覚えはないんだが」




 ――――――虚勢だな。震えているのが分かるぞ、声も、身体も――――――




「うるせぇよ」

 操縦桿を引き寄せようとするが、ビクともしない。体験したことのないGが、だんだんと自分の意識を奪っていく。地面にあたって木っ端微塵になるのが先か、気を失うのが先か。どっちがいいかな。そりゃ後者か。痛みを感じずに楽に死ねるもんな。いや、高速で体が弾けたら、それはそれでどうなんだろう。案外何も感じずに――――――死ねる――――――のか――――――


『レイズ!しっかりしろ!何があった!高度を上げろ!地面に激突するぞ!!』 

  

 ――――――声が聞こえる・・・。駄目だ・・・何もできねえ・・・抗うことも、答えることも・・・・・・。



 ――――――ごめん・・・・・・蓮衣・・・。


 

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