インテリジェンスコード-1112
翌日。
「揃ったようだな。ではブリーフィングを始める」
大画面エアモニターの前に腰掛けるジャスペガー中将の一言で『インテリジェンスコード-1112』の会議が始まった。
「ではドストレフ君。詳細を」
「はい」
そう呼ばれ、会議室の横に座っていた女性が立ち上がった。同時に室内の証明が落とされ大画面のエアモニター、個人のエアモニターそれぞれにどこかの衛星写真が表示される。
「今回の作戦は、皆様も既にご承知の通りローブル社との合同で行われます。作戦開始時刻は明後日のa.m.00:00。場所は今衛星写真に示されています――――」
「メリアちゃん、まーた可愛くなったんじゃないの?」
横に座る蓮衣が俺の前のロックをおちょくる。
「だーね」
ロックもまんざらでもないかのよう。
メリア・ドストレフ。階級は情報通信課最先任上級課長。で、ロックの妹。ロックは妹をかなり気にかけているが、妹の方はその逆。かなりウザイと思っているらしい。情報分析のエキスパートである彼女は、こういう作戦会議ではいつも内容を伝える役割がある。というか、今日のこいつの反応はいつもと違う気がする。いつもなら妹の自慢話も付け加えてきたりするのに。まあいいか。
作戦の場所は、アルモンド社爆破跡地。作戦といっても今回は情報収集が主のよう。だからといって、他社が影でこそこそ動き回っている現状、丸腰で行くわけはない。昔よりも生活が一気に進歩したとはいえ、相も変わらず紛争は各地で起こっている。いつの時代でも、人間は争いがなければ生きていけない生き物のようだ。いや、生きているってことは誰かと争うってことなのかもしれない。
「さらに、我がルクソフィアからも複数班を派遣します。今回はB,C,D,E班の4班です。A班ですが、今回は不参加となります。各班には作戦開始後、予定のポイントを通過次第、分散し、爆破の手がかりを調査していただきます。」
メリアは着席すると、ジャスペガーの横の男に目配せ。
「ご苦労、ドストレフ君。今の話にもあったように今回は諜報が任務だ。だが会敵も予想される。敵味方識別信号の登録と武器の準備は怠るな。気を引き締めていけ」
「それにしたって変だよな」
会議終了後、廊下を歩きながらクォークが独り言のようにつぶやく。
「変って何が」
「蓮衣ちゃんは気づかなかったかい?前例のない複数班任務、それだけならまだしも他社との合同任務なんて」
「まあ珍しいっちゃ珍しいとは思うけど。アルモンドの敷地面積、尋常じゃないし当然なんじゃない?」
「確かに。でも時間をかければ少数精鋭で望んだほうが敵にも見つからずに済む可能性が高い。それだけじゃない。早くこの件に終止符をつけたがっているような・・・」
常にそういう態度でいてくれればありがたいんだけどな。悪戯するときはマジでうざい。
「・・・。任務まであと36時間って話?」
「そう。それもある・・・」
だが考え込むと、なかなか帰ってこない。こういうところはやはり兄妹なんだと思う。
「会議の時から様子が変だと思っていたが、それを考えていたのか」
見兼ねて口を挟む。
「まあね」
「だが何故、いや、なら尚更みんなの前で質問すべきだっただろう」
「レイズならそれは解ってくれると思ってたんだけどな~」
やはり口を挟まなければよかった。蓮衣は蓮衣で何のことか分からずキョトンとしている。
「ま、いいや、『気にしすぎるのがお前のいいところではあるが、同時に悪いところでもある』って、いつかおふくろに言われたっけな」
「おふくろさん・・・」
「そういや最近ろくに連絡してないなー。妹はしょっちゅう連絡とってるらしいけど」
「ははは、メリアちゃんはかなりのお母さん子だもんねー」
「そうなんだよ。小さい頃はよく俺がメリアを泣かせたって怒られてさー。ホント、勘弁して欲しかったね。」
懐かしげに話すロックも新鮮だ。
「そういう蓮衣ちゃんも、ご両親にはこまめに連絡取っているかい?」
「あははー。あんまりとれていないかな。この間まで昇格試験でいっぱいいっぱいだったからさー」
「あーそうだったか。なら仕方ないね。でもできるときにたくさん話しておきなよ」
「だね。そうする」
と、ロックが思い出したように
「あ、いけね。妹に会わなくちゃ」
「任務の打ち合わせか?」
「そ!元情報通信課として、色々アドバイスしてやらにゃあ」
9割は妹に会いたいがためだろうな。
「じゃね、お二人さん」
そう言って、小走りで去っていった。
「元情報通信課って、ロックさん、今のメリアちゃんと同じ部署だったの?」
ロックがいなくなるのを見計らって、蓮衣は疑問を口にする。
「ああ。そういえばお前は知らなかったか。お前がここへ来た年の9月に諜報課に来たんだ」
「ふーん。なんで?」
「さあ、なんでだろうな」
「知ってるの?」
「詳しくは知らん。この話をするときは少し落ち込んだ風に見えるからな、あまり突っ込まないようにしてる」
「そーなんだ」
あいつは全部話してくれたんだが、まあわざわざ蓮衣に言うようなことでもないだろう。