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R/W  作者: Maki
Chapter 1 : Repeated/World
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ルフトナ・ジャスペガー

網膜照合なんていつの時代のシステムだよ。こんな時代遅れなシステムを採用するなんて、中将も物好きなもんだ。なんでナノコントローラーを使わないのか。いちいち手間を掛けるこっちの身にもなって欲しいもんだよ。

『認証完了。レイズ・ミユ4等准尉の入室を許可します』

 自動ドアがスライドする。

「まったく・・・君のような非常識者が一人いなくなるだけで、私も少しは晴れやかな気分になるのだが。何か弁明は」

 広々とした空間。そこにぽつんと置かれている横長の文机に両肘をつき、手を交差させ顎を置きながら彼はそう呟いた。小さい、だが重厚感のある声。

「弁明・・・と申しますと」

 さっきの予感が当たりそうだ。

「呼び出しから5時間経ってからようやく来るとは。なるほど、それだけの度胸がある者に弁明の言葉などというものはなくて当然か。レイズ・ミユ4等准尉」

 やはりか。蓮衣のやつ、わざとすぐに知らせなかったな。ま寝てた時点で同じことだったんだが。

「もういい」

 よくあることだ。諦めたようにため息をつきながら言った。

「もうわかっているとは思うが、報告書の件だ」

 やはり。今度はこっちがため息。

「ここまで支離滅裂としているとはな。お前は夢でも見ていたのか?いよいよ現実との区別がつかなくなったか」

 夢ならさっき見てきたんだけどな。そんなこと言ったらまた逆鱗に触れそうだからやめておく。

 ルフトナ・ジャスペガー中将。俺が所属するルクソフィア社のトップ。ルクソフィアは、今や世界の三分の一を手中に収めるラスクフォース社からの依頼を受け仕事をこなしている。ルクソフィアはラスクの傘下だ。

「聞いているのか」

「勿論です。ホーリー社が大量のアゴーンプログラムを人工知能に取り入れ大量の兵士を増産している、その報告に一切の嘘偽りはありません」

「バカバカしい」

 鼻で笑いながら、俺の報告書が映し出されたエアモニターを消す。 

「ホーリー社だと。あんな時代遅れの社に何ができると」

 時代遅れはあんたも言えたもんじゃないけどな。

「もう、よろしいでしょうか」

 わざとめんどくさそうな顔をして言ってみる。ジャスペガーは突然話を折られ眉をひそめたが、すぐに呆れ顔になり、

「もう一つ」

「まだなにか?」

「別件だ。上から命令があってな。」

「・・・上?ラスクフォースからですか?」

「うちの社からも数チーム、作戦に派遣して欲しいとのことだ」

「も?」

「ああ。今回はローブルとの合同ミッションだ」

「合同・・・ですか?」

「前例が無く不安になるのもわかるが、そう身構えなくていい」

 そうは言うが、無理がある。もう一つ気がかりなのが・・・

「ローブル社ですか?またド田舎の」

「文句を垂れるな。規模も人数もあまりないが、あそこにはお前などより礼儀正しい優れた人材が豊富だ」

 そう言って新たなエアモニターを立ち上げ、俺のナノコントローラーに送信する。

「ミッションの詳細だ。目を通しておけ。話は以上だ。下がれ」

 嫌な予感がした。合同で任務だと。そんな話今までに聞いたことがない。一体どうなっている。先日のアルモンド社での爆破テロの前後からどうも社間の様子が慌ただしい。まあ慌ただしくなるのは当然だが。アルモンドを襲撃した犯人はまだ分かっていないらしい。どいうことかはわからないが、襲撃は複数社によるものだという説まで浮上した。これまでは社間のハッキングや領土の言い争いなどたまにあったくらいだ。それがここへ来て、いきなり人命を奪うテロが起こった。巷ではついに戦争か、と今回の事件を受けて噂になっている。

「歴史は繰り返すのか・・・」

「どうした?ミユ4等准尉。まだなにかあるのか」

「あ、いえ、なにも」

 俺みたいな末端の末端である人間が考えても仕方ない。今は任務のことだけを。


「了解。失礼します」



 自室に戻り早速皮膚に埋め込まれているナノコントローラーにアクセス。『インテリジェンスコード―1112』とだけ書かれたファイルをタップ。情報を脳へ送り瞬時に記憶。これで一言一句忘れることはない。難儀なことに、昔は物事を覚えるのに相応の時間を要したという。それだけ自分の時間が減るというのに。技術が発達していなかった時代で生活すると思うと少しゾッとする。

 《Call》

 エアモニターに突然表示された。通信?相手は―――。確認して通信を切った。出る必要はない。また面倒なことになるだけだ。『インテリジェンスコード―1112』によれば明a.m.08:00から作戦会議ということになっている。今日は早めに寝たほうがいい。三日連続徹夜は流石に体に堪える。ベッドに潜り込んだところでまた《Call》と表示された。だが相手は先ほどとは違った。仕方なく回線を開く。

「どうした、蓮衣」

『ひどいなぁレイズは~。俺がCallしても出ないくせに蓮衣ちゃんの時は出るなんて~。ま、でも無理ないか!可愛い可愛いおさな―――』

 ピ。

 《Call》

『可愛い可愛い幼馴染とあらば無視はできないよね~』

「なんで勝手に回線が開かれるようになってんだ!ロック、お前また改造したな」

『すげーなんでバレたの?もしかしてレイズって天才?』

「お前に言われても嫌味にしか聞こえないし、今のでわからない奴はいないだろう」

『てか今大声で怒鳴ったんだろうけど本当に本人の聴きやすさに合わせて音量調節してくれるんだー。最近のナノコンすげー』

「どうでもいいこと言ってんじゃねえよ金髪野郎。あと蓮衣!お前もくだらないことに加担してんなよ」

『ありゃバレたか。流石レイズ』

 やはりか・・・。きっと近くにいるんだろう。

「心底馬鹿にしてくれるなお前ら二人は。なんなんだよ一体」

『んーいやー明日のことでね』

「明日?任務のことか?」

『そう。まあ通信じゃアレだし、明日直接会って話すよ』

「何なんだ一体・・・」

『ごめんごめん!あーあれだよ、中将にどやされて落ち込んでないかなーって』

「ねーよ。てか蓮衣!お前わざと遅れて俺に知らせたな?」

『じゃあまた明日ね、レイズー』

「おいこら、しらばっくれてんじゃ――――――」

 ピ。

 ちっ。切りやがった。勝手にかけてきて勝手に切りやがって。小さい頃から何も変わってねえ。


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