愚痴
「------!」
フラムのドスのきいた声音に、次の言葉が口を出なかった。彼の動揺が通信を通じてだけでもフラムには伝わってきた。唾を飲み込み、黙りこくる。フラムはそれ以上何も言わず、その場を後にした。
接近するミサイルがあると通信が入ったのを聞いて旋回した途端、また別の通信が入ってきた。
『喧嘩している場合ではありませんよ、フラムさん』
穏やかな男性の声だった。どうやら、操舵室からの通信では無いらしい。フラムはその声に聞き覚えがあった。それもつい先程のことだった。だが、
「・・・」
フラムは何も言わなかった。無視した。
接近するミサイルを視認。キュークジェルエンとの距離を測り、ミサイルとの速度を計算、最適な迎撃地点を瞬時に割り出す。ミサイルに向かって直接向かっていくのではなく、ミサイルの先を行き、迎撃。爆音が鳴り響き、海面から大きな水飛沫が上がる。
『フラムさん、聞こえてます?』
無駄なことはしない。それがフラムの考えだった。ましてや直接話したことがないにもかかわらず、ましてや名前で馴れ馴れしく話しかけてくるような、そんな人間とは以前から一線を引いてきた。それは今でも変わらない。
「統制は取れてない・・・、いきなり喧嘩売ってくる・・・、馴れ馴れしい・・・。・・・この艦に乗ってるやつにははまともな人間がいないのか・・・?」
愚痴をこぼしながらも、迫るミサイルを破壊するペースは変わらない。二つ目を破壊。他の艦載機の奮戦のおかげか、敵の攻撃ペースもだんだんと落ちてきたらしい。遠くを見渡すと所々で黒煙が上り続けていた。直接敵の潜水艦を撃沈させることに成功しているようだ。
だが一つ、気になることがフラムにはあった。同じ空中を旋回している戦闘機、先ほど所属不明のガンシップから射出されたものだ。敵なのか味方なのかわからない。目的も不明。ガンシップとは一度も連絡を取っていない。篁は何か思惑があってなのか、わざわざ目の前に艦を浮上させた。その行動が、フラムにはまるで理解できなかった。下唇を噛む。
「・・・とにかくミサイルを防げばいいって問題じゃない・・・」
ガンシップの目的が不明である以上、キュークジェルエン側としても動きに制限がかかる。
とその時、レーダーに映る所属不明機が中央部分、つまりフラム機に迫ってくるのがわかった。
「・・・なんだこいつら、何のつもりだ・・・?」
目視で確認してみるが、レーダーの故障ではないようだ。確かにガンシップから射出された戦闘機だった。
『気を付けてくださいフラムさん、後ろを取られてはいつ堕とされるかわかりません』
再びの穏やかな声。だがフラムは右から左。ブーストをかけ後方の所属不明機と距離を取る。
「後ろの不明機、妙な真似はやめろ。目的は何だ、何がしたい。挨拶もなしに近づいてくるような奴は私は嫌いなんだ」
後半部分を少し強めに発しながら。通信からは「それって僕のこと?やっと口きいてくれたね」と嬉しそうな声が聞こえてきたが、フラムはそれも無視。それどころではない。
ピピッ。
今度は操舵室からの通信。声は篁だった。
「全機に告ぐ。先ほど所属不明機との通信がつながった。これ以降、敵勢力の殲滅任務は、シェルフェン隊とともにあたってもらう。彼らは味方だ」
「ふざけるのも大概にしろ!!篁!!」
フラムの声が響き渡る。キュークジェルエン、グランツ隊、シューベスト隊、オーグ隊、テグエント隊、そして先ほどまで所属不明機として通信不可能だったシェルフェン隊のすべてに。
「いきなり通信ができたから、はいこれからは仲間です?そんな判断あってたまるか!!」
誰も、何も口にしようとしない。沈黙が海域、空域を支配する。フラムの突然の怒りに驚いているのか、何も思っていないのか、けなしているのか。通信越しにはわからないことだった。