賭け
『キュークジェルエン、浮上しました!』
艦内に操舵士の声が響き渡り、さらに緊張が増す。目の前には、上空に浮かぶ中型ガンシップが四機。その大きさはルクソフィアのそれとは少しだけ劣る。四機は、キュークジェルエンが浮上しても動きを見せず、相変わらす上空に居座り続けるだけだ。
「こちらからは絶対に打つな」
艦長の篁がマイクを通して全部署に伝える。艦長の前方に座る神宮寺の手は震えていた。浮上した今になっても、艦長の言葉を信じきれずにいた。
ピー。
操舵室後方、扉が開く音がした。入ってきたのはフラムだった。一瞬あたりを見渡し、艦長が目に留まる。
「どういうつもりだ」
自分に声がかけられたと気づいているのかいないのか、篁はその言葉を無視し、
「神宮寺、相手に呼びかけろ。どこの所属か聞き出すんだ」
「・・・了解しました」
「おい」
神宮寺が回線を開く間、フラムはさらに艦長との距離を縮め、声を荒げる。
「いま攻撃されたら、あたしら全員海の藻屑だぞ。わかってんのか」
それでも、篁はフラムを見ようともしない。目は真っ直ぐに相対するガンシップを見つめていた。
「ミユ大佐。私にはどうしても、あの四機が敵だとは思えない」
「証拠は」
間髪いれず聞き返すフラムに、篁はニコッと笑みを浮かべた。
「これからお見せできるかと」
「論外だ。そんなの、ただの希望的観測にすぎない」
一笑されたが、意にも介さない篁。その変わらない表情は、周りにとっては何を考えているのかまるでわからないだろう。
「こちら、ルクソフィア第一潜水艦、キュークジェルエン。貴艦の所属と部隊名を――――――」
ピーッ!ピーッ!
突然ミサイルの接近を知らせるアラートが鳴り響く。操舵室が警告灯で赤く染まり、あらゆる部署でサイレンが鳴り響く。
「どこからだ!」
「・・・7時の方向!距離1200!」
「続いて4時の方向!距離1500!複数!」
「ガンシップは!」
「動きがありません!別勢力からの攻撃です!」
操舵室のあらゆるところから声が上がる。フラムはそれを見て、怒りを通り越して、呆れていた。訓練を積んだ者たちなら、少しのことで動揺などしない。実戦経験のなさが、露呈していた。
「ばかやろうが」
ただ一言言い放ち、フラムは操舵室を出て行った。