来宮とレイズ
「ミユ大佐・・・、あなたのお姉様から、あなたを見張るように言われましたが・・・」
「・・・。・・・そ・・・、そう」
なぜこんなことになったのか、レイズはもちろん、当の本人である来宮にもわけがわからなかった。それを察してレイズは、
「怖い思いをさせたか?」
「え?」
来宮は、そんなことを言われるとは考えていなかった。迷惑だとか、出て行けだとか、そんなひどい言葉を言われるとばかり思っていた。こういう引っ込み思案なところも、彼の特徴なのだろう。先程までとは打って変わって、来宮は少し穏やかな表情を見せた。
「おおかた、姉さんにきつく言われたんだろう。すまないな、初対面にも容赦がない人で。・・・悪かった」
本当にすまないと、心から詫びるように、レイズはその頭を深々と下げた。そんな風に真面目に謝られたのは、来宮の今までの経験にはないことだった。普段の彼は、どこの組織にも一人はいるような、雑用を押し付けられるような人間だった。自分が意見を言おうとしても誰かに遮られてしまう。自分に自信が持てない。持てるだけの努力をしていない、というわけではないのだが。
「い・・・いえ、そんな、頭を上げてください!」
慌てて止める来宮。
「私が・・・迷惑をかけてしまったのだと思います」
自分に非がなくても、全て自分が悪いと思い込んでしまう。そうした方がその場が丸く収まる、そうした方が楽だから。そんな勘違いをしてしまっていた来宮。
「そんなの・・・、あんたは悪くないよ」
「いえ・・・私が・・・。私がはっきりしないからいけないんです。どうしても、人前だと萎縮してしまって・・・」
頑固なのかそうでないのか、レイズは苦笑いを浮かべた。
「いいじゃないか。それもあんたのいいところだろ?」
「いい・・・ところ・・・、ですか?」
来宮は何を言われたかわからないという顔をして、レイズを見つめる。
「ああ。・・・いや、まあいいや。それよりも――――――」
レイズは話を変える。
「この艦、やっぱりルクソフィアの艦だったのか。敵とやりあって気を失って目が覚めたらここだったから、状況がぜんぜんわかんなかったんだ」
レイズは相手を怖がらせないよう、なるべく笑顔を浮かべた。だが、普段はそんな事意識しない彼には難しかったらしい。明らかに不自然な笑みが、逆に来宮を不安にさせていた。
「あ・・・は、はい。この潜水艦は、もとはラスクフォースの工廠で建造されたもので、最初のうちはラスクフォースのものだったのですが、ルクソフィアが支社として出来たと同時にこちらに移されたんです。周りを太平洋に囲まれた島であるルクソフィアが所有したほうがいいということになりまして、以来ずっとルクソフィアを守り続けてきたんです」
准尉であるレイズにも、この話は初耳だった。ルクソフィアに潜水艦があること自体、知らされてはいないことだったのだ。大佐であるフラムも、このことは知らないかもしれない。
「だが、戦闘機を離着陸できる潜水艦なんて、画期的だな」
「当時の最新技術ですよ。もしこの技術が生み出されず、かつラスクからこの潜水艦を譲り受けていなかったらと考えると・・・。今頃どうなっていたか」
「ルクソフィアの空母は、やはり敵に奪われたままなんだな。たまたま出撃中だったから、ガンシップも奪われずに済んだが・・・。不幸中の幸いってやつなのかも・・・、・・・いや、出撃中だったかどうかなんて関係ない。あれだけ短時間でルクソフィアが占拠されたんだ。俺たちが気づく以前から、既に内部にスパイが隠れていたんだろうな。――――――。」
突然、レイズの脳裏に忘れることのできない光景が蘇る。あの巨大な鉄の塊――――――。
「・・・どうされましたか・・・?」
「アーレウスとか言ったか。あの船は何なんだ?何か情報は掴んでいないのか?」
「・・・SDT-LSA 超弩級陸海空戦術戦艦アーレウス。特徴は、機体が黒くカラーリングされており、その大きさは全長全幅とも、千メートルを超えます。光学迷彩の機能も搭載されており、ダミーを出現させることも可能」
「千メートル・・・。いや、それよりも、その情報はどこから・・・?」
あまりの大きさに、言葉を詰まらせるレイズ。実際に目の当たりにはしていたのだが、冷静に考えると、尋常ではない大きさだ。
「管制塔からです。社内が占拠される直前まで調べていたそうで」
「管制塔・・・?だが、通信はできなかったろう。敵に妨害されてか知らんが」
「うちの通信員は優秀なんですよ。それに、管制塔にも同じように優秀な人がいたんでしょうね」
結局最後まで通信が復旧しなかった管制塔。その場にいたメリアはどんな気持ちだったのだろうか。目の前で死んでいく仲間たちを見て、悔い、何もできない自分を責めていたのだろうか。
レイズは、ロックとメリア、二人の無事をただただ祈ることしかできなかった。