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R/W  作者: Maki
Chapter 1 : Repeated/World
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徹夜明けの朝

「発見しました。ソル大佐」

「よし、そのまま見失うな、メリア。B班、兆候は」

 騒がしい。こっちは三日連続徹夜の後だってのに。ちょっと声のボリューム落とすとかそういう配慮はないのか。

「異常なーし」

「ロック・クォーク4等准尉、貴様には言うべきことが四つある。一つ、ちゃんとエアモニタを見てから発言しろ。二つ、デスクの上に脚を――――」

「その話長いですかー?長いなら聞きたくないんですけどー」

 ちっ。阿呆なの?馬鹿なの?あの金髪野郎。大佐も大佐。あんな奴相手にしなくていいんだよ。毎回毎回似たようなやり取り。飽きんのか。

「えらく不機嫌そうですなー、はっはっは」

 今度は耳元で聞こえた。この女の声、誰なのかはわかる。コイツも俺の眠りを妨げようと。相変わらずちょっかいが好きなやつだ。というわけで無視。寝てるフリを決め込む。どうせまたロクな話じゃない。

「ん?おやおや?本当に寝てるんですか?本当に寝ちゃってるんですか?」

 暇な奴。構って欲しいなら素直にそう言え。てかお前E班だろ。任務はどうしたんだよ。今日は遠征の筈だろ。たく、油売って怒られても知らんぞ。馴染みだからって助けてやらん。

「そうですかそうですか。ムフフ。むふふふふふふ」

 怖い。てかキモイ。

「じゃあスッキリ爽快な目覚めのために必殺の一撃をお見舞い――――――」

「なんの用だ」

 それだけは喰らいたくない。仕方なく顔の上にある雑誌をずらす。

「なんだ起きてんじゃん」

「これから寝るところだったんだがな。誰かさんに起こされた」

「起こしてないよ?そう思うだけでしょ」

「あ?」

「ただ喋りかけてただけ。起こされたと思うのはあなたの勝手でしょー」

「この・・・」

 ――――――まあいい。無駄なやり取りだ。

「で?俺に何のようだ。」

「中将が呼んでたよ。またなんかやらかしたんじゃないのー?」

 ちっ。

「さあな」

「もー。まーたそうやって。ま、いいや。怒られるのはアタシじゃないし。じゃ、伝えたから。」

 スカートを揺らしながら階段を下りていく。と思ったら振り返り一言、

「たまには、連絡くらいしてあげなよ?あんたのお母さん、心配してたよ」

 そう言って今度こそ姿が見えなくなった。

「・・・大きなお世話だ」


 中将が何を言いたいのか大体の見当はつく。俺の報告書にケチをつけたいんだろうが、そんなことで怒られに行く必要はない。時間と労力の無駄だ。だがここで寝ていては見つかる可能性があるか。自室に引っ込むことにする。重い体を無理やり起こし周りを見渡すと、何やらさっきから騒がしくやっているようだ。階下を見下ろすと蓮衣がソル大佐と何やら話し込んでいる。蓮衣ってのは今言葉を交わしていた女だ。楪蓮衣ゆずりは れい。エアモニターに何やら打ち込んでいるが、任務のことだろうか。なんとも真面目な光景だが、昔の奴とは随分と変わったもんだ。何かあればすぐ俺に泣きついてくるような弱虫だったくせに。ホント、人間変わるもんだ。

「おちょくってくるところは変わらんがな。」

 一番変わって欲しいところが変わってない。なかなか思い通りにならない。

 愚痴をこぼしながら起き上がる。立ちくらみが少々するが、まだ無視できる程度だ。

 すれ違う白衣を着た研究員に心配そうな目を向けられながら自室へ向かう。


 長い廊下を歩きながらタバコに火を点ける。眩しくなるほどの白一面の廊下。ここを歩くのはあまり好きじゃない。すぅっと主流煙を肺に吸い込み吐き出す。5mgを超えると頭がくらくらするので、最近は3mgほどのタバコしか吸わない。一番落ち着く。だからといって一瞬で吸い終わるわけではない。ちまちま吸いながら長くもたせる。もったいないという考えはないが、ケチな性格がこういうところに滲み出ているのかもしれない。しまったと、今更携帯灰皿を持っていなかったことに気づく。屋外だったら最悪その辺に捨てるのだが室内となると流石に。

「お困りのようですね」

 聞き覚えのある声がした。振り返ると紫色の長髪をした女性が立っていた。いつの間にいたんだ。

「気配もなく近寄るなよ。びっくりした。てか、なんだその口調。気持ち悪いぞ」

「実の姉に向かって気持ち悪いだ?舐めた口きくようになったじゃないか」

 この人には逆らわない方が身のためだ。

「なんでしょうか、フラム・ミユ大佐殿」

 フラム・ミユ。大佐。D班班長。俺の姉。姉だからとは言いたくないが、俺よりは階級が上でそれなりの立場にある。

「中将が待ちくたびれたとよ。いつ来るんだって、相変わらず奴はって、ぼやいてたぞ」

「は?何言って・・・、呼び出されてからまだ10分も経ってないだ」

「・・・」

「何」

心なしか、姉が笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

「いや、まあいい。さっさと行け」

変な姉。なんか嫌な予感もしたのだが。と俺のタバコを取り上げ、

「私が火を消しておいてやる」

「は・・・?・・・おい待てよ!俺のタバコ―――」

「ちょうど切らしていてな、タールは低いが銘柄が一緒だということに免じて。」

と煙を吐きながらすぐ側の部屋に入っていった。めちゃくちゃ言ってんな。なんで免じられなきゃいけないんだ。

 どうも姉には、なんていうか、頭が上がらない。立場とかそういうものじゃなく。小さい頃から何一つ敵わなかったことが今も引きずっているのかもしれない。

 徹夜明けの体を引きりながら社長の部屋へと向かう。

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