浮上
「気づかれたか?」
艦長の篁が神宮寺通信兵に様子を伺う。
「わかりません。ですが・・・」
神宮寺は顔を少し下げる。
「どうした」
「こちらの発見が遅れたためエンジンは先ほど止めました。ですので、気づかれた可能性は、ないとは言い切れません。・・・申し訳ありません」
神宮寺が頭を下げると、しかし篁はその肩に手を置き、
「構わないさ。あのガンシップはステルス機能がついているようだ。それにしては迅速な判断だったんじゃないか?」
「・・・!・・・艦長・・・」
「艦長」
そう呼んだのは、エフィー・カルヴァート。走ってきたためか、かなり息を切らしている。
「エフィー、発艦の準備だ。総員に知らせろ。第二種戦闘配置。だが、命令あるまで攻撃はするな」
「了解」
エフィーは手近にあった通信機で艦内に連絡を取る。
篁は再びレーダーに目をやるが、四つの黄色の点は依然として動きを見せなかった。
「あの場から動かない・・・ということは、もうこちらの存在に気づいていると見るべきか・・・」
しばらく腕を組み考え込むようにしていたが、
「神宮寺、操舵室に連絡を」
「はい」
マイクを篁に渡す。
「群青。聞こえるか」
『こちら操舵室、群青です。聞こえてますよ艦長』
「両舷、微速前進。目標に接近するぞ」
それを聞いた周りの兵員たちは、驚きの顔で篁に振り向く。それは神宮寺も、操舵室にいる群青も同じだった。
『か・・・、え、エンジン起動させるんですか!?そんなことをしたら敵に本艦の居場所が知れてしまいますよ!?』
「目標は既にこちらの存在に気づいている。隠れていても、時間の無駄だ」
「・・・・・・」
傍で聞いていた神宮寺はショックの色を隠せない。自分の発見が遅れたせいで見つかってしまったと思ったのだろう。それを分かっていてか、篁は神宮寺に首を振りながら、
「本当に我々を沈めるつもりなら、既に艦載機が射出されていてもおかしくないはずだ。されていないところをみると、目的は他にあると見るべき・・・」
「ですが・・・、もし本当にこの艦を狙っているとしたら・・・」
今見えている目標は四つ。この潜水艦の戦闘力を考えると、戦えないということはない。だが無駄な戦いは避けるべきだ。弾薬も艦の燃料も無限にあるわけではない。
「他にも敵が潜んでいるかもしれません。そうなったら、どれだけ目標が増えることになるか・・・。リスクが大きすぎます。この艦は対空装備は豊富でも、艦載機の数は十分ではないんです。制空権を奪われたまま戦いを続けるのは、得策ではありません」
黙って彼女の話を聞いていた艦長。だがその目は揺れることはなかった。、
「艦載機か・・・。今、この艦には、優秀な戦闘機乗りがいるじゃないか。不思議な力を持った、彼が」
「えっ・・・?」
そう言って、再びマイクを手にとった。
「両舷、微速前進。バラスト放水、浮上するぞ」
『・・・!・・・了解・・・!キュークジェルエン、浮上します!!」