SDT-LSA 超弩級陸海空戦術戦艦アーレウス
「ソル・・・大佐・・・!」
目の前には、今はハンガーで待機しているはずのクワイン・ソルがいた。
『大佐、E、D班のみんなは無事なんですか』
ロックはあくまでも冷静に聞く。助太刀など感謝していない、助けを呼んだ覚えもない、お前の仕事はここにはない、とでも言うように。それが、この、みんなは無事なのか、という言葉に凝縮しているように感じたのは俺だけだろうか。そうだ、この二人は以前から馬が合わないのだ。話し合いもろくに成立しない。別にどちらかが悪いというわけでもないのだろうが(いや、普段の態度からすればロックに原因があるのかもしれないが)。
「大佐、アーレウス、というのは」
二人にいがみ合わせても先に進まない。もっとも、大佐にその気はないようだが、ロックはああ見えて結構子どもっぽいところがあるからな。
『この鉄の塊のことだ。通称SDT―LSA。超弩級陸海空戦術戦艦アーレウス』
「SDT・・・?」
『スーパードレッドノートタクティクス・ランドシーエアーフォース』
黒煙を噴き出す鉄。さっきまでは姿が見えなかったが、いつの間に。まるでずっとその場にいたかのようだ。
「さきほどまでは視認できませんでしたが・・・」
『すぐにわかる』
大佐の言葉を合図にするかのように、発火源周りの鉄の面積が徐々に広がっていく。光学迷彩。先程までは赤い海だったはずの景色が、今度は真っ黒な鉄に変貌していく。
『この大きさは・・・!でかいなんてもんじゃない』
となりのロックは大佐とのいがみ合いも忘れて、あっけにとられている。だが俺も同じだ、こんなにでかいのは初めて見る。化けの皮が剥がれていくが、まだ終わりそうにない、まだ全貌をつかめない。予想していた大きさを遥かに凌ぐ。
『これはなんだ!潜水艦か!?』
潜水艦・・・。久しぶりに聞いた言葉だ。だがここまでの規模の潜水艦など、かつてあっただろうか。徐々に全貌が明らかになっていく鉄の塊。もう小さな街ならやすやすと凌駕するほどの大きさだ。
「いや・・・これは」
そうだ。こんなに大きな潜水艦など、造る意味はない。しかし、そんなことがあるのか?そんなことが可能なのか。
『常に最悪の状況を考えろ』
声の主に目を向ける。大佐の目は相変わらず鉄の塊を見つめている。だが、その中にあっても、自分の考えを見抜かれているかのようだ。・・・この人は・・・得体が知れない。
「最悪の・・・?」
『それが生き残る方法だ』
そう言って急激に上昇を始める。
「大佐!?」
『敵は海だけじゃないぞ』
なんて言ったんだ今・・・?海だけじゃない?他にも敵がいるってのか?
「どういうことですか!大佐!」
速い。さっきまで目の前にいたのに。もう八百メートルは上にいる。
『なんて速さだ・・・あの野郎』
俺とロックは大佐を目で追うことしかできなかった。目で追ったつもりだったが・・・、いつの間にか視界から大佐の機体は消えていた。
『あ?どこいった』
光学迷彩って技術は、ラスクとその傘下の各社は取り入れていないはずだ。ラスクだけじゃない、爆破されたアルモンドも、世界三大社のひとつホーリーでさえも。それをなぜソル大佐が使ってるんだ・・・?中将はこのことを知っているのか?
『フォックス3。ABL照射。』
なにもない空中から赤い光線とミサイルが発射される。光線が鉄の塊―――アーレウスの外壁をえぐり、ミサイルが煙を噴射させながら内部を直接爆破する。アーレウスからもABLが次々と照射されるが、ソルはその攻撃をものともせずに、次々躱していく。EADSもなしに、よく戦えるもんだ。並のパイロットならもうとっくに十回は死んでる。
「いくぞ、ロック」
機体を反転させながら空と海、両方に目をやる。敵は海だけじゃないと大佐は言っていた。あの言い方からして、敵はまだ奥の手を隠し持っていると見るべきだろう。どうして大佐があそこまで確信を持てているのか疑問ではあるが、今はこの難局を切り抜けるのが先だ。B、C班のガンシップも心配だが、護衛は艦載機に任せても大丈夫だろう。あいつらも、十分腕が立つ。
『レイズ!空!』
ロックに言われて空を見上げる。すると、信じられないものがそこにはあった。幻影だと思いたい。だがロックも同じものを見ているのだろう。慌てて後ろを振り返る。大佐はずっとアーレウスとやりあっている。じゃああそこに見えているものは・・・、空に浮かんでいるあの鉄の塊はなんなんだ・・・?
『同じ・・・だと・・・?二つ・・・存在するのか・・・?』
真後ろの海面に存在する化物、アーレウスと全く同じものが、俺たちの真正面の空中に存在していた。