約束
雪が降る…ただ真っ白に世界を染めるように雪が降る…。
そんな白い世界の中を俺は歩いている…。
向かっているのは昔通っていた高校への通学路…この道を最後に通ったのは何年前だろう…。
そんな事を考えながら俺は雪の積もった道を一歩一歩踏み締めて行く。
思い出すのは高校時代にしたたった一つの約束…守られるかも解らないが自分が納得するためだけに俺は歩いていく。
高校時代、俺には一人の幼なじみがいた。
名前は如月優…優とは幼稚園時代からの腐れ縁で互いに名前で呼び合う程度に仲が良かった。
高校2年のその年俺と優は同じクラスになって互いに
「なーんだまた優と同じクラスか」
「こっちこそまた達也と同じクラスなんてね」
「なにおう!」
「何だよ!」
「「ぷっ!アハハハ!」」
そんな風に笑い在っていた…。
俺としては優の事を一番信頼できる親友と感じていたしアイツもそう思っていたと思う。
そんな中、12月になり冬休みも近づいて来たある日、優が俺の席まで来て
「達也、クリスマスの日何だけど…空いてないかな?」
と言ってきた。
何時にも無く少し真剣な様子だった。
まぁ全然モテない男である俺にクリスマスの予定なんてあるわけがない。
「別に空いてるけどなんかようか?」
「うん。ちょっと話したい事があるからその日一緒に遊ばない?」
「んー解った」
「それじゃあまた後でメールするよ」
「おう!」
俺達はクリスマスに遊ぶ約束をして冬休みに入った。
冬休みに入ると何時もならだいたいは優と遊んでいたが、さすがに来年は3年になり進学をする予定の俺は勉強に励んで余り遊ぶ事は無かった。
まぁクリスマスには優と遊ぶ予定だしそこで息抜きをするつもりでいた。
そんな風に過ごしていてクリスマスの当日
俺は何時ものように仕度を済ませてコートを着ると下に下りた。
「んーお兄ちゃんクリスマスなのに何処かいくのー?」
こたつに入った妹がそんなだらけた声をかけてきた。
「あぁちょっと優に遊びに誘われててな」
「ふーん…優さんか…」
妹はそういうと興味を無くしたのかこたつで横になった。
「そのまま寝て風邪引くなよ?」
「大丈夫だよー。そんなことより時間良いの?」
「うわっ!」
俺は急いで玄関に向かうと靴を履いて扉を開けた。
後ろから『お土産よろしくね』何て言う妹の声が聞こえた。
「わ…悪い待たせたか?」
待ち合わせ場所に行くともう優が待っていた。
俺が遅く来る事は多いが優の奴は何時もいったい何分前に来てるんだ?
「いや、僕も来たばかりだから」
何時も通り優はそういうと「行こう」と歩き出した。
やはりクリスマスの為か辺りにはいちゃつくカップルが多い…
いったい何人が俺と同じで友人と遊ぶために来ているんだろうか…。
「とりあえず何処に行く?」
「んー久しぶりにゲーセンで対戦するか!」
「うん、良いね!」
俺達は久しぶりに行きつけのゲーセンに向かった。
ゲーセンに入るとさすがにカップルは来づらいらしく一人や友人達と来ている奴が多い
中にはクラスの知り合いの男子達もいた。
「相変わらず仲が良いな…」
「幼なじみだからな」
「ふーんじゃ!また学校出な」
男子達とそんな会話を終わらせると俺達はお目当ての対戦ゲームに座ってしばらく遊び
暇なんでクレーンコーナーを覗きに行った。クリスマスのせいかお馴染みのキャラクターをサンタにしたものが多い。
そんな中で優がクリスマスのサンタの帽子をかぶった猫のぬいぐるみの前で足を止めた。
(そういえば優って可愛いもの好きだったな…)
「それ欲しいのか」
「う…うん」
俺は台に近づくと中を確認して取れそうな景品を見つけた。
「た…達也?」
「よし!」
俺は狙い通りぬいぐるみを捕ると優に渡した。
「今日遅れたお詫びとクリスマスのプレゼントだ」
「ありがとう」
優はそう言って嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
そのあと俺達二人は軽く食事をしてカラオケをした。
カラオケが終わると時間はもう20時をまわっていた…そろそろ帰る時間かな?
「達也、もう一カ所だけ付き合ってくれ」
「ん、良いぞ」
俺は優に連れられて歩き出した。
「此処は学校か」
優に連れられて来たのは俺達の通う高校の近くだった。
「うん、でも行きたいのはこの先」
優が向かう先って確か潰れた天文部の部室の古い天文台があるはずだ…
俺はそんなことを考えながら天文台に続く山道を登った。
「さぁ!着いたよ!」
「おぉ!」
俺は天文台に着くとその光景に息を呑んだ…。
来ても昼間が多かったから俺は知らなかったがそこからは綺麗な星空と街の光が美しく見えた。
優は俺の隣に立つと
「達也にこの光景を見て欲しかったんだ」
そう言って微笑んだ。
「ありがとうな。こんな光景なかなか見れない…そういえば優は俺に相談があったんじゃ…」
「えっ!あぁ…あのね達也…」
「うん?」
「えーと…ゴメン!やっぱり何でもない」
「えー何だよ」
俺達はそんな話をしてしばらく景色を見た。
「じゃあ僕は行くね?」
「あぁありがとうな!」
「僕こそありがとう…じゃあバイバイ!」
「おう!またな!」
俺達はこうしてその日最後の言葉を交わした。
冬休みの登校日、俺は何時ものようにクラスに入るとクラスにはまだ優の姿が無かった。
(優が遅刻なんて珍しいな…)
そんなことを考えながら一人で
ぼーとしてるとクリスマスにゲーセンであったクラスの友人が俺に近づいて来た。
「おい…達也、本当なのか?」
「は…突然何だよ?」
「えっ…まさか…お前知らないのか…?」
「だから何をだよ?」
俺は友人が言った言葉を聞くと教室を出た…。
「おい!もうホームルーム始まるぞ!」
教室を出て階段に向かうとちょうど内のクラスの担任が階段を登ってきた。
俺は担任に詰め寄ると叫んだ。
「せ…先生!優が…優が転校したってどういう事ですか!」
「お前…知らなかったのか…」
担任の話によると優の親父さんが海外に栄転することになり優達も着いていく事になったらしい…
俺はその話を聞き愕然となりながら止める担任を無視して学校かを出た。
向かったのは優の家…でも家の中には家具一つ無く片付いていた…。
「優…何でだよ…」
親友だと思っていた幼なじみに話して貰えないなんて俺はアイツにとって親友じゃ無かったのか?
そんな思いを引きずるように俺は自分の家に帰るとそこには妹が待っていた。
「お帰りなさい…お兄ちゃん…」
「ただいま…」
俺がそれだけ言って上に上がろうとすると妹が一枚の手紙を渡してきた。
「あのね…これ二日くらい前に優さんから預かったんだ…」
「っ!」
俺はその手紙を妹から引ったくると急いで自分の部屋に上がり手紙の封を開けた。
『親愛なる達也へ
これを読んでるってことは僕はもう街にいないって事だね…まずは達也に
謝りたい…。
もう理由は知ってるかも知れないけど僕のお父さんが海外にいくことになって
僕も着いていく事になったんだ…本当はクリスマスに伝えるつもりでいたんだ
…でも、達也と過ごすのが楽しくて伝えられなかった…。
達也は僕の事を親友と思っていた見たいだけど僕は違ったから…だから、余計
言えなかった…。だって達也は僕の初恋の相手で今でもたった一人大好きな
男の子だから…達也…本当は直接言いたかった。
僕…ううん…私は達也が大好き!何時かまたクリスマスにまたあの天文台で
達也に会いたいな…。
優より… 』
俺は手紙を読み終えると涙が流れた…この手紙には優の思いが詰まっているだって
「優の涙で紙が濡れた後があるじゃないかよ…」
俺は手紙を握りしめて泣きつづけた…。
それから数年の月日が流れ…俺は大学を出て会社に就職…一人暮らしを始めた。
それでもクリスマスの日、俺は何かを願うようにあの天文台に向かっていた…。
「今年も居るわけないか…」
天文台には人の姿はやっぱり無く雪が積もっているだけだ…。
帰るかと思い後ろを向くとこっちへ上がって来る女性の姿が目に入った。
黒い長い髪を後ろでまとめ白いコートを来ている。
「待ち合わせですか?」
女性は俺にそう聞いてきた。
「はい…昔、勝手に転校した親友を毎年待ってるんです…どうしても言いたい事があって…」
「それは何ですか?」
俺は涙があふれるのを我慢しながらその言葉を言った。
「俺もお前が…優が大好きだ…」
俺はそういうと女性…優を抱きしめた。
優は涙を流しながら俺の腕の中で
「ただいま達也…私も…私も達也が大好きだよ」
そういった。
天文台の前で俺達は約束の景色を見ながら互いに抱きしめあった。
俺達の再会を祝福するように空から白い雪が降りつづけた。