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雨時計
雨時計とは雨のふる街をさす
誰もが知らないふりをしたことだが
秒針は環状線のアシンメトリーに似ていた
夜、神話としての男と女が踊り出すと
点と線をむすぶようなあいまいさで
ビニール傘と電波塔の鋭角が回転しだす
地層のように家々が静寂をこらえる傍ら
スタンド灰皿の受け口から水面まで
かききえてしまう焔がある
(かすかなもの は)
(なくなってしまったもの)
(なくしてしまうもの)
煙草につけられた希望という名や
それをふかしている皺だらけの老爺
あるいは 道ゆく人の明日の予定
横断歩道でびしょ濡れになって
雨にだけは覚えていてほしいと
そう言ったきみの顔を忘れようとした
車窓にかかる雨粒をかぞえる人は
対角線によこたえたことばを
円周の定点のひとつとして観測する
煙草の煙で輪っかをつくろうとしている
きみはrの発音がうまくできないから
この雨もきみのついた嘘だったんだよ
簡単にならべられた偏微分方程式たちが
いくら時間という変数に戸惑っても
明日もきっと、雨時計




