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無言の朝焼け
爛々とした満月は去ったが
いまだ夜の情熱は醒めず
群青の果てに漂う雲の群れを
地平線が目覚めた鮮烈な輝きが
流れる微風と絡まりあって
開いた瞳孔を茜に染める
朝露にせかされた草原の薫りが
ただ立ち尽くす私をさらに浚った
一本のペンをもって綴るとき
私は、脳裡で
踊り狂いそれでいて気高き女神を
黒インクの鎖で雁字搦めに四肢を奪い
紙上の牢獄へと縛りつけている
耀きで編まれた魔法の衣は
ただのくすんだ麻布になってしまった
だから 今宵 私が 焚火 へと
くたびれた紙束をくべれば
薫った煙が、天へ一筋たち昇る
しかしそれでも、人智の及ばない
曇ることなき神々の晩餐を想って、
私は女神を陳腐な表現から解き放つ
儚く鼻腔へ渦巻く香ばしさが
また私へと 女神を与え、宿すのだ
ふと木の弾ける音に、妙な色気を感じ
一つ、薪をなめるような灯火だけが
沸き立つような舞踏へ誘って
私を縛る理性の外、煤こけた地を踏み
いま暮れゆく夜闇に、言葉はいらないから