実戦
「ホレ漕げ、もっと漕げ」
自転車の荷台から綺麗なソプラノで鬼神が話しかけてくる。
「なんだよ。もうこれ以上スピードでねぇよ」
「うっさい。こうしてる間に誰かが喰われてるかもしんないのよ」
「へいへい」
煉は今、いつもの日傘を差していない。
どうもさっきまでサシャが来ていた黒いローブにはそう言った弱点を改善|(?)する能力もあるらしい。
「ここを右か?」
声に出しつつカーブを曲がると、そこにいたのは……
『GYAGYAGYAGYAGYAGYA』
『ZYIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII』
『KISYAAAAAAASYASYASYASYA』
複数の異形たち。
大きさも形も、煉を襲ったものとは違う。こいつらはもっと小柄で数が多い。形もハンドボールに手が生えたみたいな感じで紫や緑など鮮やかで奇抜な色合いを持っている。
「コレも……悪魔……?」
「そーよ。ってか、悪魔が全部あんなんなんて言って無いし。上位の悪魔である私が人って言っても遜色ない体組織と容姿を持っている以上、下位の悪魔にも色々なのが居るって考えるのが普通じゃない?」
「むぅ」
確かにそうかも知れない。
取り合えずはこいつ等を殺しておく、正確には悪魔の場合祓うと言うらしいがそんな事はいいだろう。
「えっと……武器は……」
さっき自転車の後ろから怒鳴られたことを思い出す。
体内を循環しているエネルギーを両手に集めるイメージ。
「んん~~!」
目を閉じ集中すると煉の手にずっしりとした重量が掛かった。
「ん?」
恐る恐る目を開けてみるとそこには細い、銀製の剣が二振り手のひらに収まっていた。
「あれ? 銃は?」
「イメージが足りないんじゃいの? 銃の方が作りが複雑なんだし、単純なイメージなら単純なものしか出来ないよ」
「そっか?」
そう言えば胸元の十字架も輝くような銀色でなく重たい鉛色である。
「十字架もイメージの所為?」
「それはどうしようもない。私はダサくていやだったからスプレーで塗ったけど、めんどいしやらんほうがいいよ」
「お、おお」
返事をして我に帰る。今はのんびり話している場合ではない。目の前の悪魔をどうにかしなければ。
「やっ!」
一閃。
裂帛と共に振りぬいた閃光は簡単に悪魔の体を引き裂いた。
鈴のような音がして紅が輝き悪魔の血肉が灰に変わる。
「ん? よっと」
振る。両の剣を閃かせるたびに悪魔の核が砕け灰が積もる。
ものの二・三分で二十体近く居た低級悪魔は全て灰になっていた。
「弱っ」
「低級だしね」
後ろで見ていたサシャが口を出す。
「銃なんかいらんでしょ?」
「こんくらいならな」
「まぁね。じゃあちょっとレクチャーね。銃ってのは遠距離から攻撃できるから有用なんだけどね、これが祓魔術。少なくとも私、つまり今煉が使ってるのは攻撃力って観点だけで見れば銃より剣のほうが圧倒的に強いね。銃弾と刀身じゃ面積が違うじゃん? だから刻める呪文の量が違う。破魔の能力で言えば剣の方がいいよ。あれなら一発だけど銃なら五・六発は撃ち込まないといけない。めんどいでしょ?」
「むぅ」
「とりあえず帰ろっか?」
そう言ってサシャはさっき戦闘を終えた人の自転車の荷台に跨った。