悪魔祓い
「つまり、さっきのは悪魔だと?」
「うん」
「お前も悪魔と?」
「うん」
「そして本来お前がやるはずの悪魔祓いを僕にやれと?」
「うん」
「はぁ」
煉は少女気づかれない様にため息を吐いた。
今錬の部屋にいる目の前の少女と、先ほどの怪物が悪魔。こんな突拍子もない事、とても信じられないが、まぁ、先ほどの怪物騒ぎを見ているし、信じよう。まぁいい。
しかし、なんだ、悪魔祓いをさせられる?
「冗談じゃない」
「ん?」
「たしかに僕は君に助けられた。その通りだ。感謝もしている。けど、それでもそんな事に巻き込まれる言われは無い筈だ」
「いや、さ。言ったじゃん。記憶消すの下手って」
「うん」
「で、記憶を消さなくてもいい方法を考えたらコッチに引き込むのが一番なんだよねぇ」
サシャはふんふん言いながら煉の回転式の椅子でくるくる回る。
どうもお気に召したようだ。
「だからって、なんで……」
「だってぇ、自分が当事者になれば話さないでしょ?」
「いや、こんな話誰も信じないって」
「それでも、そう言う話が漏れると困るの」
サシャはフンッと反動を付けると立ち上がった。
「二者択一。死ぬほど痛い思いをして記憶消して何があったのか分からず痛みにもだえ続けて後遺症すら残ってしまうか私の代わりに悪魔祓いか」
「行くも地獄戻るも地獄って奴?」
「酷いー。地獄だなんて。まぁ、死ぬかもだけど」
「死ぬのかよ!」
酷すぎる。やっぱどっちも地獄じゃねぇか。
煉が憤っているとそれを見てサシャが若干焦ったような引きつった声を出す。
「あ、あれだよ! 私だって、そ、そんな簡単に死なないようにするよ。いや、その、サポート的な? 装備とか超良いの揃えるし、大丈夫大丈夫!」
「? どうした?」
煉はその様子に若干の違和感を感じた。
短い付き合いではあるが、この短時間でこの少女の人となりがなんとなく分かったような気がする。
つまり面倒くさがりだが、言うべき事ははっきりと言う。
(これは、完全にうろたえてるな……)
「なんでそんな焦ってんだ?」
「へ? あ、あれだよあれ! ほら、煉君が死神ならぬ悪魔代行断っちゃうと私が楽できないし……」
「本音は?」
「もう、あのキスのときに私の悪魔としての、悪魔祓いのための能力、つまり祓魔術の行使権と魔力を粗方譲渡して鍵かけちゃったテヘ☆」
「ふざけんなぁぁぁ!!」
なんと言うことか。コイツ、もう話を進めてやがった。
あのキスはそういうことだったのか。
「くっそ」
「だから、断られると困るの」
なんと言う自分勝手なことか。こんな事が許されてなるものか。
そう思い反論を試みた。
「でもさ、別にそれを手伝う義務は僕にはねぇよな?」
「助けたじゃん」
「それはお前が自分の仕事をしたときにたまたま助かっただけだ。そもそも、さっきの話だとどうも、人間界に来た下級の悪魔を倒すのがお前みたいな上級の悪魔。だっけ?」
「うん。そうだよ」
「もっときちんとすれば、そもそも下級の悪魔が出てくることも無いんじゃ」
「うっ」
サシャが突然うずくまる。
「お、おい?」
「それは言わないで……」
自覚はあったようだ。
「ていうか、そもそもさ、僕からその祓魔師の力やら何やらを抜き取れば良いじゃん」
「ああ~……」
すると、またもセリフを濁すサシャ。
「え? もしかして……?」
「うん、ごめん。今、私の力量じゃ開けらんない」
黒ローブの少女はすごい勢いで頭を下げた。