01
翌朝、サンライズは支部長からいきなり作戦室に呼ばれた。
支部長の隣にいた背の高い女性が立ちあがる。ハスキーな声は酒でできたかのように豪快だった。
「久しぶり、サンちゃん」
耳にウォークマンをつけている。シャカシャカと高い雑音がイヤホンの脇からもれていた。
しかしサンライズの顔はぱっと明るくなった。
「水城さん」能力開発メンバーの水城だった。
この場所で会えるとは思ってもみなかった。彼女水城さとみはMIROCの中でも、彼の能力についてよく知っている、そして彼を『い能力者』としてではなく、ひとりの人格ある人間として接してくれる数少ないメンバーの一人だった。
「ねえサンちゃん、ちょっとやってみてよ」
そう言いながら、水城は自分の頭の方を指さした。
「動かさなくていいから、拾うだけで」
考えや感じをスキャンするのみでいい、という意味だった。
あいまいな言い方をするのには、訳がある。支部内でのいくつかの地点での会話は、非公式に録音されている、というのが通説だった。彼の能力については、支部内はおろか、全社的にも極秘扱いだったので、任務の際も他のメンバーに悟られないように行動する必要があった。
サンライズは、少し意識を前に集中した。
何も、つかめない。雑音がひどくて、考えていることに届かない。
正直に「できませんでした」と言うと、さも得意そうに笑った。
「でしょ?」
「ルイが今朝、エリーに似た男を近くでみつけた」
支部長が脇から言った。
「エリーに気づかれたんですか?」
いいや、と支部長は首をふって水城をみた。水城がイヤホンを外して説明する。
「ルイはこれと同じウォークマンをしてたの。彼はほら、知らないでしょ。エリーが……勘がするどいってこと」
ルイは試しに彼の近くまで寄ってみたが、何も気づかれなかったらしい。
「前から疑ってたけど、アレはウォークマンに弱いみたい」
ルイはそのまま、エリーと同じ場所に入って見張りを続けていた。
エリーはカフェ・ポルタに入って、のんびりと新聞を読んでいるのだそうだ。
シブヤも急いで、ウォークマンを用意してもらって現場に急行。今はルイとシブヤ、二人で何杯もコーヒー飲んでいる。
「まず、ネコの首に鈴をつけたいんだ」支部長が言った。
「彼のことについて、判らないことが多すぎる。まず現在の拠点を知りたい。それと、春日を狙っている依頼主がどこなのか、も」