03
絵心のないサンライズだったが、忍耐強い作成班のおかげでモンタージュが完成し、膨大なファイルの中から容疑者が絞り込まれた。
乃木が珍しく、神妙な顔をして彼を呼んだ。
けげんな面持ちのサンライズに、一枚の写真を手渡す。
確かに、ヤツだ。
髪はこんなに伸ばしていなかったが、目元の落ちくぼんだところと口元に見覚えがあった。
「サンライズ、落ち着いて聞いてくれよ」乃木は腕を組んだままだった。
「こいつは、エリーという。プロ中のプロの請負人だ。ヤツは、狙った相手を必ず殺す」
今まで、一度も捕まったことがないのだそうだ。顔写真も、ぐうぜん修学旅行の生徒が、山下公園で撮った写真の中からみつかった。
しかしいまだに、拠点がまったくつかめないのだと言う。
「今回はヤツの始末ができる最大のチャンスかもしれない」
乃木の顔は悲壮ともいえた。
「警察に、連絡したらいかがでしょう」控えめに、言ってみた。
だってオレなんか、まともに顔をみてしまったし。
しかもあの「キヅイタゾ」は何だったんだ? まだ顔も見てなかったぞ、あの時は。ターゲットと一緒にいるのに気づいた、ということか? それとも……
「我々のメンツにかけても、この落とし前は我々がつけなければ」
だんだんとイヤな気分になってきた。
「特別捜査班の機動部隊を三つに分ける。ミランドとカネダ、シブヤとルイ、それにキミは単独で行動する」何とも心強いこと。
乃木の部屋から出ると、通路に支部長が立って待っていた。支部では唯一、彼の『力』について話のできる理解者。方向を見失いそうになると、必ず彼の前に現れてどこか一方を指してくれる。
「ちょうどよかった、支部長」
サンライズが声をかけると、そのまま黙って自販機コーナーに彼を誘った。
「私も待ってたんだよ」
支部長は、いつものごとくにこやかとも言えるくらい穏やかな表情だった。
「キミに一人で追ってもらう理由だが、」
「分かったような気がしましたよ」サンライズは、とがった口調で答える。
「私なら、見つけられるかも、ということですか、『あれ』を使って」
「かもしれない」支部長が、自販機前のテーブルに置いたものをみてサンライズはごくりと唾をのんだ。
彼は確かに必ずどこか一方を指してくれる。しかしそれが平たんな道だとは、誰も保障している訳ではない。
そしてもしかしたら、その先は切り立った崖っぷちなのかも知れない。そこに落ちた方がいいと上が判断すれば、彼の上司は従わざるを得ないだろう。そして彼も、そのまま崖から落ちるのだ、命令とあれば。
「今回については、エリーの射殺許可がおりた」
サイレンサー付きのオートマチックが、蛍光灯の光の中で鈍く光っていた。
「キミにもこれを持ってほしい。本部からの指示だ」