04
瞬きするほどの間に襲った、強い憎悪。(コロセ)左かなた上の方から。
(何?)
感じた瞬間、彼は春日を思い切り前に突き飛ばして自分も倒れた。
すぐそばの街灯柱に、何かが弾けて砕け散った。続いて一発が、倒れた彼の上をかすめて飛んでいく。
「サンちゃん!」
春日も気がついた。ぐいっと彼をひっぱり、走ってビルの影に入る。
彼らはぜいぜいとあえぎながら、次の発砲がないか様子をうかがった。周囲は、ほとんど気づいていない、数人は、ただならぬ彼らの形相に、いぶかしげな視線をちらっと送って、また歩き去っていく。
「住之江ビル?」「たぶん」
サンライズは、精神波の触手をそろそろと伸ばしながらゆっくりと、ビルの影から頭を出した。
気配の残滓がかすかに残っている。そしてもっと深刻なメッセージも。
(オマエのコト、キヅイタゾ)
「ハルさん、応援呼んで」サンライズ、言い残してだっと駆け出した。
今なら、ビルの出入り口で鉢合わせするかもしれない。
彼の頭に浮かぶ大きなクエスチョン・マークがみえた。瞬時にそれはエクスクラメーション・マークに変わる。
同類か
エリーはすぐ心を閉ざした。
一瞬遅れて相手もすぐに心を閉ざし、そして追ってきた。
エリーが驚いたのは、何よりもその反応の速さだった。あれは訓練されている。
最初の反応は素人っぽいが、遮断の仕方が完璧だった。自分のように、経験を積んだことでその訓練がなされてきたのならば、相手はかなり、修羅場をくぐり慣れているはずだった。
初めて彼は、捕まるかもしれない、または殺されるかもしれないと感じた。
恐ろしくはない。もともと、恐れという感情には縁がなかった。
それでも、自分のたてた計画が少しずつほころびて駄目になっていくのには、我慢がならなかった。 今まで、狩られる側がくるりと向き直り、自分に噛みつこうとしたことなど、まるでなかった、考えたこともなかったのだ。
五階からは内階段を駆け下り、住之江ビルの裏口に出た。銃を掃除用バケツの底に突っ込み、上からモップをのせて、ゆうゆうと裏の駐車場に出る。
はあはあと、息を切らせた男が駐車場に入ってきた。カスガではない。もう一人の方の男だった。こちらをじっと見つめている。撃とうとした男と感じが似ていた。どこにでもいそうな、すぐに忘れてしまいそうな人間。しかしヤツは同類かもしれない。
エリーは、すでに完全に心を遮断して、偽の思考を漂わせた。
(何だアイツ。不審者か?)
男はしばらく立ち尽くしていたが、意を決したようにこちらに向かってきた。
「誰か裏から出てないか? ほかに」
彼は首をふった。男はすっと脇をすり抜け、用心しながらもビルの中に入っていった。エリーはその後ろ姿を見送ってから、バケツの中から銃を拾い上げ、徒歩で現場を後にした。
今回は失敗だが、すぐ次のチャンスがあるだろう。
さっきの男、力は弱そうだった。しかしエリーは初めてあのような感覚を味わった。
まるで、鏡のかけらを覗き込んで、自分の目をまともに見つめてしまったような感覚。
次には、ヤツも消さねばならないだろうか。