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 02


―― ことば? 何? それ。


 恵莉がいつの間にか、彼の目の前に立っていた。

 自分の足で。

 幻影のあまりの鮮やかさに、サンライズは何度か目をしばたかせる。

 大きな目に意志の強そうな眉、父にそっくりな整った顔だ。普通に成長していればちょうどこんな感じなのだろう。


 自分の夢の中だろうか、それとも相手の夢?

 それとも、自分の力はここまでできるのか、いや、これはエリーの持つ能力から来ているのか。

 考える暇も惜しい、彼はまた目の前の少女に集中して、語りかける。


「エリちゃんの頭の中に、イヤな気持ちがぐるぐる回っているだろう」

―― うん。

「おじさんは、そのぐるぐるを止めることができるんだ」

―― ホントに?

「そして、ざあっと、洗い流してしまう」

 ねえパパ、そうだよね? とサンライズはベッド下に声をかける。

 エリーは黙っていた。

 でもサンライズには彼の心の声がきこえた。多分、エリから反響して聞こえるのだろう。


「そうだよ、恵莉、その人を信じるんだ」

―― わかった。


 エリはね、パパにないしょにしていたことがあるんだ。

 ほんとはね、ペットが飼いたいんだ。

 わかるよ、アパートだから無理でしょ。それにパパはペットって言うと

「でもすぐ死んでしまうからねえ」

 と渋い顔をする。でもね、友だちのユキちゃんちには、チワワがいるし、サッちゃんもこないだ、ネコもらったんだって。


 エリね、飼うとしたら犬も好きだけど、一番好きなのは、ウサギ。

 だってふわふわして、かわいいんだもん。


「知らなかった」

 エリーの目から、涙が落ちた。

「……全然、知らなかった」


 サンライズは意識を集中する。そうか、ウサギだったんだ。

「エリちゃん、ふたりでここに、ウサギを呼ぼう」

「どうやって?」

「ぎゅっと目をつぶって、そう、それから、心の中で、ウサギをイメージするんだ、どんなのがいい?」

「小さいの、それから、茶色! 目がまん丸くて、黒いの、それから……」


 向かい合うふたりの足元に、淡い光の粒がうまれた。

 光は少しずつ大きく丸くなって、形になってきた……小さなウサギの姿に。

 ようやく形になったものをサンライズは抱き上げ、胸元に抱いて恵莉の前に進む。

「エリちゃん、ほら、ウサギだよ」

 薄茶色の、ふわふわした毛。つぶらな黒い瞳。

 耳の形が丸っこい。鼻がぴくぴくしているが、とてもおとなしい。


―― わあかわいい。だっこしていい?

「いいよ、そっとだよ」

―― うん。

「今日から、エリちゃんがお世話するんだよ」

―― え、いいの? くれるの?

「だいじにしてくれる?」

―― うん、たいせつにそだてる。でもこれ本物じゃ、ないよね?

「うん。でも今度家に帰ったら、ちゃんと本物のウサギを用意しておくよ」

―― わぁい、やった。ありがとう。

 目の前の恵莉はまっすぐすんなりとした足で立ち、細い腕にウサギを抱え、満面の笑みを浮かべていた。

 しかし兎を見ながら、こう訊ねた。


「ねえ、おじさん。

 ウサギはいつか、死んでしまうんでしょ?

 それから、ニンゲンも」

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