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 01

 電車の中では、どちらも黙ったままだった。

 電車を乗り継ぎ(エリーは、電車の券を全部サンライズの分まで用意してくれていた。お気遣いありがとう)、約一時間半後に東京郊外のマンションに到着した。

 群れになった高層住宅の中のひとつに入り、エリーは最上階のボタンを押す。

 23階がペントハウスになっていた。そこが住居らしい。


 ドアを開けると、明かりは灯っていた。どこかからかすかに子ども番組の歌が聞こえてきた。が、ほかの場所はしん、としていた。


「入ってくれ」

 それほど暖かくはない。それに、何と言うのか、生活のにおいがしない。

「コートはそこにかけて」

 きっちりと片付いて、凝った調度もロクにない。

 もうひとり待っている、と言ったがそれらしい声もしない。

 もう寝てしまったのだろうか?


 エリーが、少し入って右側のドアをそっと開けた。

 病院にあるような電動ベッドの傍らに、年配の女性がひっそりと座っていた。

「あ、おかえりなさい」

 立ち上がって、サイドボードの片隅に乗せたあったラジカセのつまみを少し回して、音を低くした。

 優しげな音楽が白い壁に吸い込まれるように思え、急に静けさが増した。

 サイドボードには他にも、医療品や機材の細かい備品が、整然と並べられていた。

「出かけてからは、発作はありませんでしたよ」

「ありがとう」

 女はサンライズに気づき、穏やかな笑顔で軽く頭を下げた。それからエリーに何の警戒心もない表情で向き合った。

「明日はいつもみたいに九時からで?」

「お願いします」

 エリーは、女が帰るのを見送るため、玄関まで出ていった。


 残されたサンライズは、ベッドの上に目をやった。

 ベッドには、小さなふくらみがあった。頭と片手の先だけ出ている。

「娘の、恵莉だ」

 戻ってきたエリーが言った。彼のコード名はここからきたのだろうか。

「今年、十歳になる」

 サンライズは近づいて、彼女を見おろした。

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