02
乃木が息せき切って、フロアに飛び込んできた。「エリーから連絡があったって?」
近くのモニタデスクから声がとぶ。「逆探、できなかった。ケータイで移動中だ」
先ほどケータイはない、と言っていたエリーの声を思い出し、「くっそー」サンライズ、ますますムカついてきた。
「早く探知機の用意しなくちゃ。ハルさん、下に行って借りてきて。サンライズ、気をつけていくんだぞ」
「マイクも用意だ」おいおい、誰が行くって言った。オレは家に帰ろうとしてるだけ……と思っているうちに、追っかけの準備も出来上がってしまった。
「それじゃあ」サンライズ、心配そうに居並ぶ面々に
「行ってまいります」
一語いちご区切って、歯軋りしながらカイシャをあとにした。
ロビーを横切る時、一応家に電話しておこうと思って気を替えた。やっぱりメールにしよう。怖いから。今日は早く帰れるんだよね? と三角の目で言われていたので。
懐から出して気づく。デスクでとっさに業務用に持ち替えていた。だよね普通。さすがオレ、シゴトヒトスジ。泣きたくなってきた。
駅に行き着く前、コンビニを少し過ぎたところで、電話が鳴った。
さっそく、エリーからだった。
「もう出て来たかな、と思って」
思って、じゃねえよ、デートじゃあるめえし、と心中ガラが悪くなりつつ声もとがる。
「今、どこ」
「そちらは、今どこ?」
「駅から二ブロック手前の、ローソン前」
「一人だろうね」
「悪かったか」そんな受け答えを、特に気にする風もなく、エリーは続ける。
「駅前に、本屋があるでしょう。本屋の前に地下鉄の入口あるから。そこで待ってて」
エリーは約束の場所に、修行僧のような風貌で佇んでいた。黙って手招きする。
地下道へ降りる間際、サンライズは足をとめた。
「先に聞いておきたい」
エリーは、すでに二段降りていた。先日会った時と同じようなカーキ色のコート、下は黒いセーターと黒っぽいスラックス、スニーカー。こちらを振り仰ぐ。
「今からどこに連れて行く気だ」
「発信器、つけてるのか」
「もちろん。会話も聞かれてるよ」
「外してくれないか、全部」すごくカンタンに、すごく無理なことをおっしゃる。




