02
つかの間、ゲーセンに行った時のことを、春日は思い出していた。
酔っ払って、四、五人で街を行く。
お、ゲーセン、寄っていこうぜ、言い出したのはゾディアックだったかそんな所だ。
オレ、ピングーちゃん取るからさ。何だよソレ、ナニ。バーカ知らないの?
あ、サンちゃん帰る気? ダメダメみんなでやってくの、みぃんなでえ。ハルさん、そっち押さえろそれ行くぞお。
てなワケで、なんだかんだとワイワイ騒ぎながらふと、立ち止ったのがシューティング・ゲームだった。
おい、これやろうぜ。銃持って、とにかく、悪いヤツが出てきたら、撃つ。六発撃って、装填。よし、簡単じゃん。やろうぜ。
始めは春日とローズマリーだったか。いいセンまで行ったが、七、八人まで撃ったところで弾装填に手間取って、まずローズマリー、次に春日もオーバー。その後の組、ゾディアックもひどかった。最初から撃ち殺されている。それでもゾンビのように二回生き返ったものの、とうとう第一ステージ終了までに、お命も終了した。
ゾーさんと組んだ誰だったかもう一人も、粘っちゃいたが、第二ステージ終了間際、急に横から飛び出してきたヤツに撃たれて、あっけなく、死んだ。
「さあ、サンちゃんだあ」
「えー! どうしてオレだけ一人でやるの。やだよ」
「やるまで、帰さんぞ」
サンライズ、「オメエを撃ち殺すぞ、この酔っ払いめ」と悪態つきながらもしぶしぶ銃を構えた。
―― 本当に、サマになんねえな。この人は。
MIROCの特務課メンバーは一応、射撃訓練もやる。しかし、サンライズの構えをみて、小学一年生に火器を扱わせているような後ろめたさを突如、春日は感じてしまった。
ローズマリーが親切に手を添えて説明している。
「そうそう、そこトリガー。で、前向けて、撃つ」
ゲーム開始。大丈夫かね。と思いきや
「あらあら」
意外に、善戦。と、言うよりも、全く、動きにムダがない。
しかも、一発必中。瞬く間に六人倒し、すぐさま装填し直した銃で、また、撃ち続ける。
「すげ」
ゾーさんさえ、半分酔いが冷めたようにつぶやいている。
「おめえ、昔ゲーセン通ってたんだろ」
「ばかこけ」
あっと言う間に、第一ステージをクリアした。
「なんだ。カンタンじゃん」
サンライズ、まんざらでもなさそうに身を乗り出す。
「なになに、車に乗りゃ、いいのね」
画面ではカーチェイスが始まった。
「何だよ、コレ」
とか言いながらも、サンライズ、手は休めない。
「こりゃあ、本物だ」春日も、酔いがすっかり醒めていた。
いつの間にか、ギャラリーがひと山、できあがっている。
近くのチューボーなのか、高校生なのか(オマエら早く家、帰れよな)、二、三人、気になるらしく少し脇の方から覗いている。
一人が驚いたように、連れの脇をつついてささやく。
「シンちゃんより、ペース早くね?」
春日、つまらないことは思いつつも、誇らしい気分も少しはあったのは否めない。
サンライズは、と見ると、黙々と、というよりは淡々と、ひたすら反射神経にモノ言わせて撃ち続けている。
そしてついに「ハイスコアだあ」画面の点滅に合わせ、周りから低いどよめき。
「撃て、撃て」
少年たちも無邪気に応援している。
「おお」
サンライズも、うれしそうに応じると相変わらず、情け容赦ない画面に向かい、これまた情けもへったくれもなく、バカスカ撃ちまくっている。
と、とつぜん
「あ」手が止まった。
「何、どうしたの」
「人質撃った」
「いーんだよ。三人まで」
少年の一人が、ルールを知らないのかと思ったのだろう。親切に教えてくれる。
「ほら、ライフがあと二つ残ってるだろ。だから」
でも心優しき狙撃者・サンちゃんと言えば
「あ~あ」
呆然と、突っ立っている。
その間に、ぱんぱんぱーん。あっけなく、やられてしまった。
「あー」
少年たちも、つまらなそうに去っていった。親切に口をはさんだ少年も
「すぐ撃ちゃ、よかったんだよ」
とか何とかつぶやきながら、後ろを見いみい、去っていった。