01
サンライズはタクシーから降りて立ち止まった。
関帝廟の近く、横浜中華学院前だ。
ここまで来たはいいが、これからどこへ行こう。
ほんとうに、エリーは追ってくるのだろうか。
探ろうと思ったが、ついためらってしまう。相手を探る時には、どうしても自分も無防備になる。そこを読まれたらどうなるのか。考えたくなかった。
エリーと対面した時、本来の力が発揮できるのかが判らない。感応力ではエリーの方が上手だという気がしていた。が、あちらは相手の意思を『押し曲げる』ことまでできるのだろうか?
たぶんその点では、こちらが有利な気がしていた。
相手の意思をコントロールできるようならば、わざわざ銃を使うまでもないからだ。銃器以外にもエリーは刃物や毒物も使用を厭わないと聞いている。
マインドコントロールができるのならば、足が付きやすい武器は避けるのが無難だ。
こちらの方がシェイクに関しては有利だと、信じたい。
しかし、同じような能力を持つ相手には「それ」が極めて効きにくいということも、サンライズは以前から開発部から聞かされていた。
だとしたら、やはり自分も何らかの武器を使うしかないのだろうか?
脇に下がっている銃を、上着の上からそっと押さえた。
―― 本当に撃てるのだろうか、いざとなった時に。
それはもっと、考えたくなかった。
覚悟を決めて、念のためにしていたウォークマンを外す。急に街のざわめきが身近になった。
「エリー」
声高にならないように、呼びかけてみる。反応はすぐあった。
「かなり、近くだね」
エリーの思念は喜びにあふれていた。
「すぐ見つけてやる」
カスガたちに連絡を入れる。
エリーは中心部に向かって歩を進めているらしい。確実に距離は縮まっている。
サンライズはとりあえず、関帝廟の正面まで入っていった。
ウォークマンをした状態に馴れていたので、自分の思考を閉ざしたままにして歩くのには、少し苦労した。
元々そういう訓練はあまり積んでいなかった。『スキャン』と違い頭痛が起こることはないし、開発部でも何度か訓練していたので不可能なことではなかったが、不慣れなせいか、かなり気疲れがした。
もし生き残れたら、今度はもっとまじめにシャットダウン訓練をしよう。
それと、射撃訓練も。
平日なのに、観光客がかなり多い。季節も秋口に入ってすごしやすいせいか、遠方から来たらしいおじさんおばさん、若い連中などもそれぞれ楽しげに歩いている。
関帝廟を抜けて少し中心部に足を踏み入れてから、エリーを捜してみた。
煙幕をはっているのか、こちらからはどこにいるのかつかめない。
少し路地に入って通信機を使おうとした時、急に後ろから腕をつかまれ、彼はひっくり返りそうになった。
ぱっとふり向くと、厚い化粧のオバサンが三人立ちふさがっている。
「ちょっとぉ道聞きたいんやけど、お兄さん」